第4話 狩場


 馬車の荷物には宿の時と同じく封印処理。

 潜ってる間に、魔物に襲われないのを祈ることになるかと思いきや……。


「これで大丈夫だと思います。近づかないと、見えないようにしておきました」


 さらりと、少女は杖を掲げて結界の魔法を展開した。

 使い分けができる程度には、習熟してる証拠だった。


 しかも、この気配はただの結界用の魔法ではない。

 正体が気になるところだが、まずは遺跡だ。

 慎重に、階段を下り進む。


「広さはそこそこ、高さは余裕ってところか。階層はともかく、でかいな」


「若、あれを。設置型のトーチですぜ」


 怪しさがあるとはいえ、遺跡で爺さんとお嬢ちゃんを前に立たせるわけにはいかない。

 実績を積みたい若い戦士とかなら別だが、そうではないだろうからな。


 宝剣を背に、手にするのはグレイハウンドにも使った鉄剣だ。

 防具は、本気のものに変えてあるが……出番があるかどうか。


「お嬢ちゃん「フェリシアです」……フェリシア、頼む」


「わかりました。光よ……集え」


 お嬢ちゃん、フェリシアの持つ杖から、魔力が動くのを感じる。

 それはそのままトーチにしみこむようにし、光となる。


 驚くことに、1か所だけでなく、奥の方までのトーチが次々と点灯しだした。

 戦いを含め、動くには十分な明るさだ。


(今の魔力操作、かなりのものだ。訳ありはわかっていたが……ここは触れないでおくか)


「爺さん、ここはなんだ?」


「未来を見る場所、と聞いておるよ」


 嘘を言っている様子はないが、どうにも抽象的だな。

 罠、というわけではないようだ。


 視線を向ければ、そこそこまっすぐ続く通路。

 そして小部屋だろう扉がいくつか。


 典型的な、迷宮化していない単純な遺跡だと感じる。


「フェリシア、攻撃用の魔法は何が使える?」


「ええっと、良く使うのは魔力撃と火矢、浄化です」


「浄化? お嬢ちゃん、あんた……」


 驚くボルクスを手で制し、顎を揺らす。

 ……正面に、何かいる。


「スケルトン? いや、ゴーレムの一種か」


 現れたのは、人型の骨、一般的にはスケルトンと呼ばれる魔物の一種。

 だが、本来感じるものが感じられない。

 アンデッドとしてのスケルトンではないということだ。


「数は4……ボルクス、2人を頼む」


「了解でさあ」


 遺跡の難易度を図るためにも、まずは一当て。

 魔法での強化はせず、正面から踏み込む。


 カラカラと音を立て、武器を振り上げるスケルトンたち。

 錆びだらけだろう茶色は、切れ味のなさを感じさせる。

 当たれば、痛手となるが……当たれば、だ。


「遅いっ」


 相手の動きは、妙に整っていた。

 逆にわかりやすく、相手の手首やひじ、肩などを狙って切りつける。

 結果として、すぐに動くだけで攻撃のできないスケルトンが出来上がった。


 普通のスケルトンなら、心臓や頭部付近にある魔力塊を消滅させるのだが、これはどうだろう。

 よく見ると、肋骨の1本がどれも水晶のように透き通っていた。


「ヴィル殿! 捧げる心臓じゃ!」


「そういうことか!」


 鉄剣に、剣が消耗しない程度に魔力を這わせ、その水晶部分に切りつける。

 甲高い音を立て、砕け散る水晶。


 残りの3体も同様に砕けば、全て動きが止まった。


(動いてくる様子はなし、刃こぼれも特になし……と。捧げる心臓か)


 それは、帝国に伝わる古代のおとぎ話。

 英雄が、魔を討ち果たすために神々とした契約。

 その心臓を、神からの物に交換する儀式。


 英雄は、その心臓による力で無事に魔を討ち果たしたという。

 神々から心臓を授かる際に、英雄が行ったのは自らの胸を切り裂くこと。


 そして、心臓を受け入れるために肋骨を切ったという。

 驚くべきことに、おとぎ話では生きたまま自分でそうしたと伝わっている。

 子供に読み聞かせる話であるのに、なんともな話だと俺ですら感じる。


「立ち上がってこない……よし、片付いたな」


「いい動きじゃ。ワシの目が節穴ではなかったという証明になる」


「お爺様、まだ序盤も序盤です」


 興奮した様子のアルフ爺さんとは対照的に、フェリシアは冷静だ。

 俺自身、まだまだと思っているので間違いではない。


「若、回収できるものは回収しましたぜ。ただ、少しばかり厄介かもしれませんぜ」


「む? これは……金糸入りか。豪勢な触媒だな」


 先ほど砕いた水晶の肋骨。

 無事な部分も、砕けた部分も、魔法の触媒に再利用できる。

 つまりは、良い金になる。


 ボルクスがそれらを含めて回収してくれたわけだが、水晶が金糸入りだった。

 これは、今では産出量が少なく、高級品なのだ。

 しかも……。


「見せてください。確かに……この大きさなら、かなりのものですよ」


 フェリシアが、先ほどまでの冷静な表情を崩している。

 その理由は、スケルトンの背骨、その一部分も金糸入り水晶だったからだ。

 赤ん坊の拳ほどはあるその塊は、ほぼ無傷だった。


 しかるべきところで売れば十分故郷への送金、その足しになる。


「入り口でこれか。アルフ爺さん、稼いでいいんだな?」


「もちろん。そのためにお前さんたちを誘ったのだから」


 俺はそれにつっこまず、次なる敵に備えて意識を切り替える。

 アルフ爺さんが、俺たちの正体と旅の目的に気が付いていそうという部分は保留にして。

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