玄関を閉め薄暗い廊下に上がる、冷たい部屋の背後で金属音が回る。

濡れている私を無視して階段を上がる絵里奈。自室に戻る娘を追って階段を中ほどまで上がる。

「なに?」

責めるつもりなんてなかった。

「自分はどうなのよ?」

止まる足、閉まる扉。


コートを片手に部屋から飛び出す。

「どこだっていいでしょ」

雨音がかき消される。

「離してよ」

無意識の些細な抵抗を振りほどこうとして、態勢が崩れる絵里奈。咄嗟に伸ばした右腕。

娘の顔、黒い天井、世界が暗転する。




暗闇の中で私を呼ぶ声が、少しずつ遠ざかっていく。

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