九
浮かべられた笹が、ゆっくりと流れていく。
小舟の上、新緑が芽吹く山々に、
そこ、あそこと、唐突に顔を覗かせる桜。
両手をつき、もたれ掛かる。
見上げると
涼やかに渡っていく風に思わず目をつむると、
冷たい感触が触れる。
ゆっくりと
視界いっぱいに広がり
両の川辺りを彼方まで
覆いかぶさる満開の桜
どこまでも、流されていく
船板を濡らす小さな染み
ひとつ ふたつ と増えていく
小さく謝る
その前に
優しく遮った
その唇が
ありがとうの言葉と、
名前。
だれ、私を呼ぶのは。
少しづつ近づく。
薄っすらと見える白い天井。
霞む視界がゆっくりと。
「……あさん、おかおさん、お母さん。ごめんなさいお母さん。ごめんなさい、ごめんなさい……」
何度も何度も謝る泣き腫らした娘の顔、横で夫が頷きながら涙を拭う。
どこからか桜の花びらが一枚、白いシーツの上に舞い落ちる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます