浮かべられた笹が、ゆっくりと流れていく。

小舟の上、新緑が芽吹く山々に、

そこ、あそこと、唐突に顔を覗かせる桜。

両手をつき、もたれ掛かる。

見上げると水面みなもを映す空。

涼やかに渡っていく風に思わず目をつむると、

冷たい感触が触れる。


ゆっくりとまぶたを上げる

桜色おうしょくの空が

視界いっぱいに広がり

両の川辺りを彼方まで

覆いかぶさる満開の桜

どこまでも、流されていく


船板を濡らす小さな染み

ひとつ ふたつ と増えていく


小さく謝る


その前に



優しく遮った

その唇が


ささや





ありがとうの言葉と、















名前。



だれ、私を呼ぶのは。


少しづつ近づく。

薄っすらと見える白い天井。

霞む視界がゆっくりと。


「……あさん、おかおさん、お母さん。ごめんなさいお母さん。ごめんなさい、ごめんなさい……」

何度も何度も謝る泣き腫らした娘の顔、横で夫が頷きながら涙を拭う。

どこからか桜の花びらが一枚、白いシーツの上に舞い落ちる。

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