第2話 帰還した霜川君は彼女が欲しくて仕方がない。
彼は三日後に帰ってきた。吹雪の中を暴風にもみくちゃにされながらも私の部屋の窓に張り付いていたのだ。
「マスタートリニティ。帰還しました」
「よく帰ってきた。褒めて使わす」
「ははー」
紙幣のくせに律儀な奴だ。その見事な土下座はなかなかできるものではない。私は彼をねぎらうために入浴させ、少しの消毒用エタノールを与えた。
「ういー。気持ちよくなっちゃった」
「羽目を外すなよ」
「わかってますう」
のん気に酔っぱらっているらしい。
私は彼にドライヤーを当てて乾かしてやったのだが、それが不味かった。酔いがさらにまわり始めたのだ。
「マスター。どうして僕は女の子にモテないのでしょうか?」
「何かあったのか?」
「女性が僕に触れるとき、必ず手袋をするんです。手袋をしない人は必ず手を消毒します。僕は汚物なんですか?」
泥酔した酔っ払いが絡んで来るような勢いだ。
「いや、大丈夫だ。今はパンデミックの影響で衛生観念が繊細になっているだけだ。それが収まってしまえば一万円札はモテモテになるぞ」
「本当ですか」
「本当だ。しかし君はお札だ。お札であるならばお札の彼女と付き合うべきではないのか?」
「そうなんですか?」
「そうだろ。人間という異種族の彼女を見つけるより、同族のお札の彼女を見つける方が幸福になれるはずだ」
「なるほど……しかし、僕は人間の女性が大好きなんです。抱き合ってキスしてエッチしたくてたまらないんです!」
「黙れ。馬鹿者!」
うっとおしくなった私は、彼に消毒用エタノールをぶちまけた。案の定、彼は酔いつぶれて静かになったのだ。
女……やはり女か。
私は彼を懐柔し、一生涯私の傍を離れない固体として躾ける必要がある。故に私は女性の疑似人格を生成する事にした。
霜川君は清純派が良いのか。それとも、傲岸不遜なツンツン娘が良いのか。まあ、あの様子では後者ではなかろうか。あ奴はきっと尻に敷かれて愉悦の涙を流すタイプであろう。
女王の人格……名は……セミラミス。古代アッシリアの伝説の女王。無名の尻より高名な尻の方が敷かれ心地が良いに違いない。
私は酔っぱらって眠っている霜川君を横目で見ながら、新しい疑似人格の生成に取り掛かった。
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