札男
暗黒星雲
第1話 超帝国の魔術師は貧乏である。
私は魔術師。
古の超帝国において栄華を極めた者。
永遠に再生する肉体を持ち、永遠の時を旅する者である。
しかし、私は貧乏である。お金がない。
何故ならば、働かないからだ。いや、働けないと言った方が正しい。
どの会社へ赴いても、下っ端としてこき使う。しかも、数十年しか生きていない若輩者のくせに、数億年を生きる私に対して偉そうな口をきく。服装や髪型に始まり下げたくもない頭を下げさせるし使いたくもない敬語を使わせるし、女に色目を使うとセクハラだの、生意気な口調はパワハラだの、とにかくうるさくて仕方がない。
そんなうるさい場所で働けるかと、何度も飛び出した。
そこで私は考えた。
我が魔術を駆使し少ないお金を増やしていく方法を。
この国の通貨は主に紙幣である。ペラペラの紙だ。こんな物を魔術で複製するなど至極簡単……と思いきや、通し番号は振ってあるし、透かしやホログラムなどの多彩な偽造防止策が施してある。もちろん、その全てを模倣し真偽の判定が不可能な偽札を作る事は可能なのだが……膨大な魔力を消費する事が判明した。まあ、私の寿命千年分に匹敵すると。
それだと割に合わぬ。そこで私は、使った紙幣が必ず私の手元に帰ってくるよう紙幣に人格を持たせる事とした。
紙幣を偽造したり他人の所有する紙幣を奪ったりする行為は違法だ。もちろん、警察など取るに足らぬ間抜けが揃っているから怖くなどないのだが、まあ、私の良心が痛むのだ。
そのような後ろめたい事を成すよりは、正々堂々と紙幣を集めればよい。紙幣がその意思に従って勝手に帰ってくるならば、それは違法ではなく単なる不可抗力であろう。
私はとっておきの一万円札を広げる。これは拾ったものだ。警察に届けるなどもったいない事は出来ぬ。落とし主が謝礼で一割ほど払ってくれる可能性はあるが、知らん顔をする輩も多いだろう。仮に落とし主が現れない場合は私の物となるが、それには三ヶ月も待たねばならない。そんな理由で私はこの一万円札をネコババした。
とりあえず、濡れて皺くちゃなこの一万円札を再生しよう。
私は少しだけ気を練り一万円札に流した。すると濡れて皺くちゃになっていた札が、途端に新札のようにビシッとした姿へと変化した。
これは簡単な若返りの魔術。
さて次だ。
かねてから
私は早速、その紙幣に疑似人格を植え付ける。福沢諭吉の肖像をペロリと舐めて息を吹きかけるだけだ。
「君の名は?」
「
「よろしい。私は今から買い物に行く。しばし別れることになるだろうが、必ず私の元に戻ってくるように。いいな」
「はい。わかりました」
私はとりあえず近所のスーパーへ駆け込み、半額の総菜と半額のパン、そしてカップ麺とサトウのごはんをしこたま買い込んだのだ。もちろん、支払いは霜川君で。
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