夏の宝箱の昼下がり
雷鳴
静かな小さな雨
音は耳の奥まで太鼓を鳴らすけれど、雨は優しく頬を濡らしていく。
夏の雨なんて、暑くて蒸しっぽくて…どこがいいの?と君は尋ねる。
半透明の赤い傘越しに困った顔がこちらを向いている。
確かにその通りかもしれない。だけど、夏の湿っぽい匂いや、台風が近づいていることを物語る空模様とか、鈍く色褪せて見える緑だって夏の宝箱の一つなんだ。雨は人の行手を年中阻む厄介者だけれど、夏の宝箱に仕舞い込んでしまえば、グレーダイヤモンドのように輝いて夏の色をめいっぱいに吸う。
だからこそ、サンダルを脱いだ足で湿っぽいアスファルトを駆けて、木々が雨に打たれる音を聞きながら、型なんて気にせずめちゃくちゃに踊らないと損なんだ。こんなに素敵で夏らしい日は、他の季節では絶対無いだろう?
彼女は心底呆れたという顔で、小さくため息を吐く。けれど、雨の音を聞いて、匂いを吸って…………「まぁ悪くないかな」と微笑んだ。
僕は、そんな彼女の笑顔も含めて、この夏の宝箱が好きだ。
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