薄い青の昼下がり

日が暖かく、風が冷たい昼下がり。

玄関は寒く、素足が微かに凍える。洗濯物をざっと取り出して二階へ上がり、風と陽を浴びるベランダへ出て、一つくしゃみをする。

春の兆候を感じる二月の今日、肺に取り込んだ空気は心地よい温度で喉を通っていく。

風に触れて冷たさが増す洗濯物を伸ばし、せっせとハンガーへ掛けていく。

全て干し終わり、ベランダの柵から少し身を乗り出し背伸びをする。

ふと視線を右へずらすと、私と同じように洗濯物を干す女性の姿が目に映った。

風に靡く洗濯物を落ち着かせながら、手際よく白いタオルが並べられていく。

突如一際強い風が吹くと、私の干した洗濯物は猫のように暴れ出し、飛んでいかぬよう慌てて押さえ込む。ふと女性の方へ視界を向けると、彼女はどこ吹く風という立ち振る舞いで洗濯物を干し続けていた。女性にとって、この風は気の知れた友人なのかもしれないと感じた。

女性の長い髪とスカートがたおやかに揺れ、差し込んだ陽は艶やかな髪に天使の輪っかをあしらえ、細く繊細な指はシャツを優しく摘む。スローモーションで私の目に映るそれは、有名監督が撮った映画のワンシーンのように完璧で幻想的で、私は密かに目を奪われていた。

風が止んだことに気づき、抱きかかえていた洗濯物を放しシワを取り除く。

ずっと相手を見ていると失礼にあたるような気がしてそそくさと部屋へ入るが、最後に一目女性の方へ振り向くと、


彼女の干していたシャツが一枚、風にさらわれていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る