第13話 レッドスネーク

 俺たちはレッドスネークの生息地である湿地に到着した


「地面が湿っていて安定しない……足元に気を付けないと」


「特にハマると最悪だよ」


 足を取られると意外と抜け出せなくて大変なんだよなぁ


「魔物も結構いるね」


 ソーレが前にいる豚の魔物を指さす


「向かってきたな」


「ブゴォォー!!」


 早速襲ってきたか――


「はぁっ!」


 俺は襲ってきた豚の魔物の大群を一太刀で切り伏せる


「リヒトって、こんなに強かったんだ……」


 ソーレの眉が上がった


「修業してたからな」


「私も頑張らなくちゃ……ファイアーボール!」


 ソーレも魔法でモンスターを倒していく


 この湿地には高ランクの魔物は出ないし依頼の魔物もCランクだ


 よっぽど油断でもしない限り何も起こらないだろう


 二人で襲ってくるモンスターを倒しながらさらに奥地を目指す――




 進む度に霧が濃くなり魔物の数も減っていく


「霧が濃くなってきた、近くにいる」


 俺は警戒レベルを引き上げる


「後ろは私に任せて」


 俺が前方の索敵をしてソーレが後方の索敵をする


「頼りにしてるよ、ソーレ」


 誰かに背中を預けるなんて初めてだ……


 何だか新鮮だな


「フシャァー!」


 地面の中から二メートル程の巨大な蛇が飛び出る


「来たか、レッドスネーク……?」


 レッドスネークは巨体と強力な毒と赤い体が特徴のはずだが……


 目の前にいるこいつは黒色だ


 つまり――


「ソーレ、変異種だ!」


 レッドスネークの変異種なんて聞いたこともない


 それに、索敵にも引っかからなかったことを考えるとかなりの実力だろう


「俺が切り込む!」


 俺が攻撃に移ると同時に


「サポートは任せて!」


 ソーレが強化魔法を俺の剣に付与する


 未知の変異種は情報が無いため非常に危険な存在だ


 故に、速攻で倒す!


「炎絶の光!」


 俺は渾身の一撃を放つ


「――ふぅ!?」


 蛇は胴体と頭が二つに引き裂かれて別々に吹き飛ぶ


「リヒト!やったね!」


 ソーレが駆け寄ってくる


 変異種だった事には驚いたが


「ああ、無事に倒せてよかった」


 さて……頭がかなり吹き飛んで行ってしまった


「牙を抜き取ってくる。ソーレは荷物を見ててくれ」


 ソーレに荷物の見張りを任せた俺は蛇の頭に向かい、牙を抜き取った



 その瞬間――


「きゃぁぁーー!」


 ソーレの悲鳴が湿地に響いた


 ソーレ!?


 悲鳴を聞いた俺は直ぐにさっきまでいた場所に戻った――


「――っ!」


 だが、戻った時には既に黒い蛇がソーレに嚙みついていた


「ソーレから離れろ!」


 俺は一匹目を倒した時と同じ技で二匹目も倒した


 気付かなかった、二匹目もいたのかよ!


「ソーレ!ソーレ!」


 呼びかけても返事はない……


 力なく倒れ込んだソーレは嚙まれた場所が黒く変色していた


 毒の影響で意識は無く発熱も深刻だ、一刻も早く解毒する必要がある


 浄化の魔法が使えるのは聖職者だけだ……


「すぐに助ける!」


 俺は瀕死のソーレを抱えて教会に向かった








 ◆◆




「彼女に浄化魔法をかけて下さい!」


「かしこまりました。直ぐにお助けします」


 俺は教会に飛び込みシスターにソーレを預けた


 浄化魔法は秘匿されているため俺は控え室で待っている



 俺が、もっと警戒していたら……俺が、俺のせいで、ソーレはっ



 俺は、自責の念を抱きながらも何もできない自分に何度も涙した――






 そして、その涙も枯れた程時間が経ってから扉が開く



「ソーレは生きてますか!?」


 俺は感情のままシスターにしがみつく


「解毒は成功して、毒の痣も消えました」


「良かっ……たぁ、」


 脱力した俺はその場に座り込み、一呼吸してから立ち上がる


「ですが毒の影響で急激に奪われた体力は未だに回復していません」


 

 浄化魔法は解毒だけだ……毒で奪われた体力は自力で治すしかないだろう



「治療をしていただきありがとうございました」


「治療はまだ終わっていませんよ、消化にいい食事と睡眠を沢山とらせるようにして下さい」


「はい。必ず」




 その後、意識がもうろうとしている高熱のソーレを家に運んだ








 ◆◆




 ソーレをベットに寝せて額に濡れたタオルを置く


 が、何度変えてもタオルはすぐに温かくなる


「……はぁっ、ぁ、っ、はぁっ」


 呼吸は安定せず苦しそうに息をしている




 辛抱強く看病を続けていたその時――


「――リ、ヒト」


 僅かに意識を取り戻したソーレが口を開く


「ソーレ!」


 俺はソーレの手を掴む


「ご……め、私、また、めいわく……」


「迷惑じゃない。待ってて」


 俺はキッチンに行き急いで消化のいい食事を作って持ってきた


「食べて」


 ソーレの口に食事を運ぶ


「あ、りがとう」


 ソーレは少しずつ食べていく


 食事が終わるとソーレはすぐに眠りについた



 そして、引き続き俺は温まった額のタオルを変え続ける――










 しかし、それから何日経ってもソーレの体調は回復しなかった




「……はぁっ、はっ、はっ、はぁっ」



 容態から察するに……恐らく今夜が峠だ





 結局、俺は君を二度も守れなかった


 あの時と同じだ……何も変わっていない


 修業をどれだけ積んだ所で大切な人一人守り抜くことができない


 そもそも、……ここに残った選択をしてくれたのだって


 助けてくれ事に対する恩からで、心から望んでいた訳じゃあ無かっただろう


 でも、それでも……俺は君が、ここに残るって言ってくれたことが本当に嬉しかったんだ



 少しの間でもまた二人で過ごせたことが心の底から嬉しかったんだ




 だから、



 今の俺が目の前で苦しむソーレにできたのは何の魅力もなく身勝手な提案だけ



 なぁ、頼むよソーレ、やっと、思い出せたんだ……



 また失うのが怖くて、家でも外でもソロで……一人でいることに慣れて忘れていたんだ


 誰かと共に過ごすことがどれだけ楽しいかってことを、全部、全部君が思い出させてくれたんだよ……



 だから、




 もしよければ――もう少しだけ俺と一緒に生きてくれませんか?




 連日の看病によって体力を失った俺の体は意識を連れて眠りについた










 ◆◆




 のどが痛くて満足に声が出せない


 いつものことだ。いくら私が泣き叫んでもあいつは喜ぶだけ


 あ~あ、目が覚めたらまたあいつのおもちゃだ


 昨日は左目をえぐり取られた


 明日は右目って言ってたっけ……



 それにしても……ずいぶん幸福な夢を見ていた気がする


 あいつが死んで初恋の人が私を買ってくれて、奴隷から解放して一緒に暮らしてくれる夢……


 自分ですら笑ってしまうくらいに理想ばかりを詰め込んだ夢だ


 そんなことがあるはずないのに……



 その夢の中で私は、彼に何度も救われた


 強くて優しくていつも私を助けてくれるヒーロー


 彼はいつも私を大切にしてくれて、間違えた時は正しい道を教えてくれて


 そんな、世界一かっこいい彼だったから




 だから、……私はまた好きになった




 彼が仕事で一日家にいないだけで会いたくなって、ずっと一緒にいたいから冒険者になって


 そしてパーティーまで組んでもらった


 でも私は自分のことすら守れなくて……


 いつも私の為に動いてくれる彼に迷惑ばかりをかけて、足を引っ張ってばかりで……


 それでも、そんな最低な私を彼は決して見捨てなかった


 彼の優しさに甘えるだけ甘えて何も返せない奴隷に彼のそばにいる資格がないことは私が一番分かっている


 でも、 


 それでも、何度も夢見てしまう




 もう一度、この願望だらけの夢を見ることは許されないだろうか……




 再会した私は昔と違って全然笑えてなくて


 愛嬌もなくて


 あなたのためって思って空回りして更に迷惑かけたりもして


 全然ダメダメなところしか見せられなかったけど……



 それでも、そんな私でも、



 もし、もう一度会えたなら、そばにいさせてくれる?




 他の何を失ってもいいから


 他には何にもいらない



 痛めつけられたっていいから


 あなたからなら痛みだってほしい



 何だってするから


 何だってしたい



 だから、




 どうか――私をあなたと共に生きさせてくれませんか?






 そんな身勝手な願いを抱きながら意識は薄れていき――



 私は意識を失う




 最後の瞬間まで最愛の人を想いながら








 ◇作品を評価していただけると本当にうれしいです。


 何卒よろしくお願いいたします。









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