第174話 魔物素材ダンジョン1の4層、嵐ダチョウ 前編
ゴールデンウィークが終わって学校が再開した。
放課後にはダンジョン街にスクロールを見に行った。卯の花用の専用スキルをガイエンさんが探し出してくれていたので、三つとも買った。
その時ついでに、ロボット操縦士のスキルや守護騎士用の専用スキルや専用魔法が何か売りに出てないか聞いてみたけど、こちらはまだまだ品薄状態でまったく入手できなかった。
それから数日掛けて守護騎士をレベリングしていく。
その際に感じた能力の傾向としては、人形の方が素早さ、器用さ、知力に優れており、小回りが利く一方で、筋力と体の重さと頑丈さ、それと回復速度は騎士の方が高いようだ。
人形も専用スキルの「硬質化」のおかげで表面は金属化しているのだけど、その金属の性質は人形の素早さを生かす為、かなり軽めの性質のようだ。硬質化のレベルが上がればその分だけ頑丈さは増していくが、重さはあまり変わっていない様子なのだ。
逆に守護騎士の鎧の金属は重さと頑丈さに偏った性質らしく、レベルが上がるごとにそれらも強化されていっているようだ。鎧の中身は空洞なのに、守護騎士の方が明らかに体重が重いようなのだ。
こうして並べてみると、かなり違いが鮮明だな。どちらも役に立つ存在なのは変わりないけど、人形は通常スキルも覚えられる点で多彩さがあり、守護騎士の方は一点突破のタンク特化型かな。
それと、守護騎士の行動基準は、優先順位がかなりはっきりしていた。
1、主である俺の身の安全を守る。
2、主である俺の指示を遂行する。
3、仲間である人形達や精霊達の手助け。
4、自分の身の安全の確保。
上から順番に差をつけて重要視しているのが、傍から見ていてもわかるのだ。
こうして見ると、自分の身を顧みずに他を優先するところが、ちょっと不安に感じる。俺は出来れば、仲間にあまり大きな破損を負って欲しくないのだ。
(うーむ。でも、動きが遅めな分だけ体が頑丈な訳だし、行動順位がはっきりしてるのは、タンクとしては理に適ってるんだろうな)
納得したくない思いもあるが、本人達が望んで行動しているのを咎めたくもない。
それに、騎士道精神みたいなものもあるのかもしれない。
とにかく主である俺の安全を一番に考えつつ、仲間を守護する事に特化しているようなのだ。流石、名前が「守護騎士」とつけられているだけはあるという事か。
「レベリングがある程度終わったから、今日からは新しいモンスターに挑戦しよう」
ゴールデンウィーク中、ずっと「守護騎士の鍛錬所」に通って戦っていたのもあって俺達のレベルが上がっており、スイギュウ相手でももう苦戦しなくなっている。もう先に進むのに充分だと思う。
そこで今日からは、魔物素材ダンジョンを先に進む事にしたのだ。
4、風属性・嵐ダチョウ(魔物素材ドロップ:肉、卵、羽)
フィールド:嵐の草原フィールド
推奨スキルもしくは魔法:風耐性
ドロップ:コアクリスタル、下級ポーション(魔力回復薬、経口タイプ)、唐辛子、銀の塊(小)、スクロール
「次の層は、フィールドが嵐限定の天候に固定されてるそうだ。特定の天候に固定されてるタイプのフィールドは、ここが初めてになるな。ダチョウは隠密、消臭、消音のスキル持ちで、嵐に紛れて襲ってくるするそうだ。気配察知、俯瞰、危険予測を使って対応するぞ。ダチョウは3体から7体くらいの群れで行動してるそうだから、できれば最初は数の少ない群れから狙おう」
みんなに事前情報を共有する。人形達も守護騎士達も大きく頷いた。
装備を整え、順番にゲートを潜っていく。
「うわ、本当に凄い嵐だな。大型台風並みだ」
重い曇天の下で、フィールド全体が常に強い雨風に晒されていた。
雨風の勢いが強すぎて、真っ直ぐ立つのにも苦労するくらいだ。水除けにゴーグルをしているけど、そのゴーグルの表面が一気に水滴で視界が悪くなる。鎧の下に着ている服も、一気に湿って濡れていった。
「……水中用装備の方が良かったかな?」
あまりにすぐびしょ濡れになったので、通常装備よりも水中用装備の方が良かっただろうかと迷う。
だが、水中用装備は水中移動を前提にしているので、地上で使うには不便かもしれない。
それに今後も、天候が急変するフィールドも出てくるだろう。それなら、それ用の耐水装備などを整えた方がいいのかもしれない。
(……確か、火の属性に、熱を使って服を乾燥させたりする、「ドライ」の魔法があったはずだよな。休憩で戻る度に濡れた服を着替えるのも億劫だし、炎珠にその魔法を覚えてもらおう)
他にも何か対策がないか考えてみるが、すぐには思いつかない。
(水中フィールドの時は、必要な物が分かりやすかったから対策もしやすかったけど、こういう天候だと、何を準備すればいいかイマイチわからないな)
ゴーグルをしたり、卯の花のマップ作製用に、紙では濡れてダメになるだろうと、木の板と油性ペンを用意したりと、思いつくだけの用意は事前にしてきたけれど、それだけでは足りなさそうだ。かといって、風が強すぎるので傘は使えない。雨合羽を着込んだ方がいいだろうか?
(でも、戦闘に邪魔になりそうだよな)
……戦闘と言えば、これだけ雨風が強いと、弓やクロスボウといった飛び道具は使いにくそうだ。狙いをつけても風で流れて命中率が著しく落ちるだろう。下手すると味方に当たりかねない。なので紫苑と卯の花の飛び道具部隊には、代わりに槍を装備してもらう事にした。
少し考えて俺自身も、他の前衛の人形達にも槍を装備させる。大型のダチョウが相手なら、剣よりも槍の方が、リーチがあって戦いやすいだろうと思ったのだ。
黒檀が周囲の罠を調べている。その間にも、風に乗って木の枝や小石が飛んできた。もしかしたらこれも罠の一種なのかもしれない。
ところどころに生えている木には栗が生っていたが、それも偶に横殴りに飛んできた。風が強すぎて果物の採取どころじゃない。こうなると毬も中の実も、投石並みの危険物となってしまう。棘がついている分、毬は尚更質が悪い。
しばらくして黒檀が見つけた罠は、底に木の杭が仕込まれた凶悪落とし穴、草を結った足を引っかける罠、ボタンを踏むと何かが起こる罠、木の枝に紛れて石の矢が仕掛けられている罠などがあった。
正直、時折飛んでくる栗の毬なんかが、一番厄介かもしれない。いつ飛んでくるかわからないので回避し辛いのだ。
とりあえず、周囲の罠を潰して安全な場所を確保する。
「黒檀、誘導を頼む」
俺が頼むと黒檀は頷いて、素早く駆けていった。残った面子のうち、守護騎士三人は即座に俺の周囲に等間隔に散り、剣と盾を構えて守りの陣を敷く。守護騎士達はまだ、剣から槍に武器を変化させる専用スキルを覚えていないので、武器は剣のままだ。
人形達は槍だけを構える。盾は強風に煽られて使いにくいと判断したので持たせていない。……守護騎士の方は、盾はかなり大きく重い仕様だし、それに体の一部という扱いなので、本体から引き離して盾だけをインベントリに預かったりは出来ないので、そのままだ。
しばらくの時間を置いて、黒檀が戻ってくる。背後には気配がいつもより捉えづらいが、三体のモンスターが追ってきているようだ。
「……来るぞ!」
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