第173話 守護騎士三体を仲間にする
お目当てだった「守護騎士主」のスキルスクロールを、ゴールデンウィークの休み期間の終わりの日に、なんとか入手できた。
そこでドロップアイテムを清算し、海嗣兄との臨時パーティを解散した。ここからは普段通りのソロに戻る。
海嗣兄と別れた俺は、人形達を連れて「守護騎士の鍛錬所」まで戻って、守護騎士を倒して順次仲間にしていく。
守護騎士主のスキルで仲間にできるのは、レベル100までで3体。レベル1の状態で、一気にその3体を仲間に出来る。
他にも、守護騎士に仕える従属系の存在を増やせるけれど、それらの存在を増やすには、専用スキルが必要となる。
また、それら従属系の専用スキルを取得するのには制限があって、下級で「従騎士」、中級で「騎馬」、上級で「影騎士」、特級で「騎竜」が作成できるようになる。
ちなみにこの場合、何をもって「級」への到達の証とするのか。
これは、「下級」の場合は「初心者ダンジョン攻略済み」とステータスボードに記載されている事、もしくは下級ダンジョンのどれかを攻略済みの場合にのみ、正式に「下級」と認められるそうだ。
……つまり、初心者ダンジョン10層の水中フィールドを抜かしたまま完全攻略していない場合、下級ダンジョンのどれかを攻略するまでは、システムには「下級」とは認められないのである。
(ステータスボードの備考欄に攻略済みダンジョンが記載されるのは、そういう意味だったのか)
単なる記念トロフィーの扱いではなく、本当に「到達実績」だったようだ。
守護騎士主を取得希望の人の中には、10層を飛ばして下級に行ったせいで困った事になっている人もいそうだ。あとは、気まぐれに潜るだけで、どこのダンジョンも最後まで攻略してないってタイプの人も困ってるんじゃないかな。
中級以降は、下の級の「難」のダンジョンのどれかを攻略すると、次の級への到達を認められるのだそうだ。
俺は初心者ダンジョンを攻略した上で、現在は下級の「易」に挑戦中だ。なので本来なら、「従騎士」を作成でき、守護騎士一体につき従騎士を一体ずつ仲間にできる資格自体はある。
けれど残念ながら今はまだ、「従騎士」の専用スキルを一つも取得できていないので、従騎士を作成する事はできない。現在作成出来るのは、本体である守護騎士三体のみだ。
(それでも、一気に三体も増えれば大幅な戦力強化になるな)
「守護騎士主」スキルを取得した状態で、守護騎士と戦って倒すと、倒した相手が仲間になる。
その指針通りに守護騎士を倒したので、ステータスボードには名前が空白の守護騎士が三体記載されている。
落ち着いて召喚したかったので、三体を仲間にできた時点で、一旦自分の部屋に戻る。
「召喚する前に名前を決めよう」
一応、守護騎士を取得すると決めた時から、名前の候補を考えていた。とはいえ、名付けにあまり厳しい制限を設けると、今後数が増えた時に困ると思ったので、ゆるく「植物の名前から採用する」とだけ決めている。
「一体目が木蓮(もくれん)、二体目が翌檜(あすなろ)、三体目が柊(ひいらぎ)。これがお前たちのそれぞれ名前だ。……これからよろしくな」
ステータスボードから名前を付けていき、全員を一気に召喚する。
部屋の床に召喚陣が現れ、そこから銀色のフルプレートメイルの姿をした騎士が三体、次々と現れた。
ダンジョン外で召喚したからだろうか。この三体は海嗣兄が守護騎士を召喚した時とは違って、俺の方を真っ直ぐに見て、揃った仕草でざっと片膝をつき、一斉に跪いた。剣は腰の鞘に装備したままで、手に持っていた盾は足元に置いた状態で。そしてその姿勢のままで動かない。
(うわあ。騎士って呼ばれるだけあって、なんとなく優雅で騎士らしい動作をするんだな)
三体に跪かれ、その動作にちょっとびっくりする。
改めて三体を間近で見ると、とても大きいと感じる。兜からブーツまで込みとはいえ、全長で二メートル四十センチもあるのだ。普通の人とは比べるべくもない巨体だ。
そして最初から、大きな盾と剣を装備している。これもまた体の一部という扱いで、破損しても時間経過で自動的に修復されるし、守護騎士専用である「自己修復」のスキルを使えば、氣を使用する代わりに、即時の破損修復も可能になるという。
「三人の見た目の区別の為に、名前由来の物を用意しておいたんだ。今からつけていくな」
守護騎士は人形と同じで言葉を喋らないタイプだが、俺は一応三人に断ってから、それぞれの首元に別々の装備をつけていった。
「木蓮には、白木蓮の絵柄が描かれたスカーフだ」
全体の生地が濃いめの水色で、縁が紺色になっているスカーフには、全体的に白木蓮の絵が描かれている。これは守護騎士の名前を植物にしようと決めた後で、目印にいいと思って買ってきたものだ。
「翌檜には、檜ボールを釣り糸で繋げた首飾りだ。これは、植物の翌檜の名前の由来が、「明日、檜になろう」っていうものだから、その関連で選んでみたんだ」
次に取り出したのは、檜素材で作られた丸く小さいボールを連ねた首飾りだ。それを翌檜の首に下げる。
この檜ボールは本来なら、お風呂などに浮かべて檜の匂いを楽しむ為の雑貨品だ。それを首飾りにすれば見分けに便利そうだと思って、釣り糸を通して自作した物だ。
「柊には、レプリカの柊の葉っぱを縫い付けたスカーフだ。スカーフの色は赤と緑のストライプにしてみた。これも柊の実と葉っぱのイメージから選んでみた」
最後に取り出したのは、雑貨屋で買ってきたリーフのレプリカを解体してスカーフに縫い付けた、柊専用の葉っぱ付きスカーフだ。これなら一目で「柊」だとわかると思って。
色のついたスカーフだけでも、人形とは見た目そのものが違うから不便はないのだろうけれど、折角植物由来の名前を付けるという事で、ちょっと張り切って、その植物を連想させる物を揃えてみたのだ。
三人全員に用意した物を付け終えて、その姿を眺めて満足して頷く。これくらいなら、戦闘に邪魔にならずに、目印として問題なく機能してくれるだろう。
「まずは少しの時間だけだけど、三人のレベル上げだな。それから夜は、人形達と一緒に文字の勉強か」
休みはもうわずかな時間しか残っていないが、これからの予定を立てる。
毎晩の勉強の成果か、人形達は順調にひらがなを覚えていっている最中だ。なので守護騎士の方も、勉強させれば文字を覚えられると思っている。文字が書けるようになれば意思の疎通もしやすくなるので、ぜひとも習得して欲しい。
「そういえば、海嗣兄から譲ってもらった「守護者」スキルが一つだけあるんだっけ。木蓮、このスクロールを開いて、スキルを覚えてくれ」
インベントリからスクロールを取りだして、一体目の騎士である木蓮に渡す。木蓮は跪いた状態からさっと立ち上がり、受け取ったスクロールを開いて、無事に「守護者」スキルを取得した。
「本当は他の専用スキルや専用魔法も覚えてもらいたいんだけど、必要な物を全員分揃えるまで「守護騎士の鍛錬所」に潜り続けるのもどうかと思うんだよな……。魔物素材ダンジョンの方も攻略していきたいし」
今後の予定でちょっと迷う。
「従騎士」スキルは勿論の事、他の戦闘スキルや専用魔法も欲しい。けれど、全員分を揃えるのはかなり大変そうだ。必要なのは一つだけじゃなく三つずつなんだから。それらすべてのスクロールの自力ドロップを狙うのは、かなり無理があると思う。
なので、魔物素材ダンジョンをメインで攻略しつつ、たまにレベリングを兼ねて、守護騎士の鍛錬所の方に出張する感じでいこうと思う。
スクロールもいずれは店売りするようになるだろうから、足りない分はそちらで揃えてもいい。
(ロボットの方も、店売りするまで後回しでいいかな?)
使役専用ダンジョンが新たに出来たとはいえ、あちらは守護騎士以外の七種混合だ。目当てのスクロールをドロップさせるのはかなり骨が折れるだろう。
別に急いでないので、そちらはまた追々考えていけばいい。
「それじゃ早速、レベリングに向かうか」
みんなに声を掛け、ダンジョンに向かう準備を整える。
……それにしても、常在戦力が人形七体に騎士三体で、合わせて十体か。召喚時にのみ現れる精霊も入れれば、十七体にもなる。
俺の仲間も、大分数が多くなってきたな。
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