第172話 「守護騎士の鍛錬所」でスクロール集め
戦闘中に海嗣兄に妖精を召喚して見せてもらった。
光でできている羽は、羽ばたくと微かに鈴のような澄んだ音がする。
妖精という呼び名に相応しく、容姿は可愛らしい系統の子と綺麗系の子がいる。全長は8センチくらいだろうか。外見年齢は、7歳くらいの幼い少女の見た目をしている。
色は覚えさせた属性に準じる色に変化していくそうだが、それ以外にも顔立ちや髪型などで結構個性がある。ハミングで歌う声にも違いがあった。
そして、表情や動作にも子供っぽい無邪気さが見受けられる。こうして見ると、人に近い感性を持つ妖精は俺にとって、心理的負担になりそうな気がする。
人形や精霊のように人とはまったく違う存在の方が、一緒にいるのに気楽だ。
「海嗣兄さん、また魔力回復ポーションを飲むの?」
まだ半日も経たないのに、海嗣兄が三本目のポーションを飲むのを見て、そう訊ねる。
俺は立て続けの召喚で魔力が切れても、ポーションで魔力を補充してまで魔法を使う事なんて、これまでは殆どなかったから、海嗣兄のポーションの使用頻度に驚く。
いざという時の為に備えてポーションは揃えてあるとはいえ、俺は魔力が自然回復で回る程度にしか召喚を使ってなかったのだ。
「そりゃ、俺は魔法担当の後衛だからね。魔力が切れちゃ役立たずだから」
海嗣兄は戦闘の度に精霊や妖精を召喚して、積極的に魔法を使わせていた。俺とは魔法の運用方法が全然違っている。後衛だとこんなにたくさん魔法を使わないといけないものなのか。
「そんなに飲んで大丈夫?」
俺も何度か飲んだ事があるけど、ポーションはさっぱりした果物系のジュースみたいな味わいで、別に苦くも渋くもなく、飲みやすい味だ。とはいえ値段が高いから、そんなに積極的に使おうと思った事はなかった。隣で何本も消費しているのを見ると、そんなに使って採算が取れるのかと心配になる。
「まあ、召喚だけに頼ると魔力管理が厳しい上に、ポーション代も馬鹿にならないね。だから他の使役も欲しいって、前から思ってはいたんだよね。でも、普段は空織兄さんが使役する幻獣と一緒に潜ってたから、つい他を優先して後回しにしちゃってたんだ。でも今回、欲しいと思える使役が登場したからいい機会だと思ってさ」
「そうだったんだ」
(パーティを組むのが当たり前だと、パーティでの戦いが前提になっちゃうんだろうな)
ソロで考えるなら、もっと早くに前衛が欲しくなっただろうし、それを後回しにしようとは思わなかっただろう。いつも空織兄と一緒に行動していたからこそ、これまで他を優先しても問題にならなかったのだと思う。
(パーティで足りない部分を補いあうのは悪い事じゃないんだけど、俺だとどうしても、「特定の相手と組まないと戦力バランスが崩れる」のはデメリットに感じちゃうな)
……つくづく、自分はソロ向きの気質だなあと改めて実感した。
ちなみに今回、もしスクロールが出た場合は、買取所で鑑定してもらって、目当ての「守護騎士主」のスクロールだった場合は、じゃんけんで誰から取得するのか決める事にすると、先に話し合ってルールを決めてある。
この臨時パーティは初日のみは早渡海くんも参加だが、二日目以降は俺と海嗣兄の二人となる。うまく全員分のスクロールが出てくれれば良し、もし目当てのスクロールがドロップしなかったとしても、ゴールデンウィークの終わりと同時に臨時パーティも終了という予定だ。
なんとか休み期間中に人数分が揃ってくれればいいのだけど、こればかりは運次第だ。
初日は残念ながら、スクロールは一つもドロップしなかった。
一日の終わりに、俺と早渡海くんが二人で、地元の買取所でその日に得られたドロップアイテムをすべて売り払って、その後にダンジョン街で海嗣兄と合流し直して、領収書を確認して収入を三等分して解散となった。
ゴールデンウィーク二日目に海嗣兄と合流する。今日からは二人だけだ。
「空織兄さんの方は、ようやく星獣友誼のスキルを入手できたって。でもオーブは全然みたい」
どうやらようやく空織兄は、待望のスクロールがドロップしたようだ。
「そっか、とりあえず星獣のスクロールが出て良かったね。……オーブの方は報告例も少ないし、まだどこまで重ねられるかの報告もないくらいだし、本当に激レアなんだろうね」
オーブがいくつまで重ねられるのかとか、ロボットを重ねた場合はどうなるのかとか、他の種類のオーブは存在しないのかとか、知りたい情報は多いのだけど、まだ確定していない事が多い。オーブの出現率がそれだけ希少なのだろう。
「兄さんはそのまま使役専用ダンジョンに潜り続けるみたいだね。これは学校が再開しても、当分続きそう」
「……激レアのオーブを最低でも二つは欲しがってるとなれば、大分時間が掛かりそうだね。……まあ俺達も、まずは目当てのスクロールを手に入れないとだけど」
「だねー。俺らまだ、スクロールの一つもドロップしてないもんね」
下級では初級よりはスクロールがドロップする確率は高くなるとはいえ、それでも早々ドロップしてはくれない。しかもスクロールが出ても、それが目当ての「守護騎士主」だとは限らない。守護騎士用の専用スキルや専用魔法の可能性だってあるのだ。
それでも、ここのダンジョンでドロップするスクロールはすべて守護騎士関連の物ばかりに限定されているので、使役専用ダンジョンの7種混合状態よりはずっと確率は高くなる。
「これまで守護騎士のダンジョンや使役専用のダンジョンがなかった時って、目当ての物をドロップさせるのが大変だっただろうね」
ふと、過去の不便に思いを馳せる。
「でも、ダンジョン出現当初から街での店売りが充実してたから、あえて自分でドロップを狙わなくても良かった訳だし」
海嗣兄にそう指摘されて思い至る。
「……そっか。新しい使役も時間を置けば、普通に店売りするようになるか」
「うん、多分ね。欲しい人にある程度行き渡れば、店にも普通に置けるようになっていくよ」
人気の品を最初期の品薄時に手に入れようとしているから、余計な苦労をしているのだ。もっと状態が落ち着くまで待てば、わざわざ自力入手を目論まなくても、普通に買えるようになる。
「空織兄さんが物欲センサーで目当てが出ないって言ってたけど、俺達にも同じ事が言えるかも」
「あはは、言えてるー」
この連休中にドロップしなくても、休日や放課後に潜ってドロップするまで粘るつもりだけど、できれば連休中に入手したいな。
三日目にようやく、目当てのスクロールが一つ出た。
最初の決め事通りにじゃんけんをして、海嗣兄が守護騎士を取得した。
「お先にごめんねー」
「いいよ、最初の約束通りだもん」
その後早速、海嗣兄が主体となって守護騎士を倒していき、次々と三体を仲間にしていった。
「一度直接倒せば、枠が空いていれば、倒した相手を自動的に仲間に出来るみたい」
倒して消えていったはずの守護騎士が、海嗣兄の召喚によって再度この場に現れる。
剣と盾も体の一部という感じで、自前の武器を持っているのには驚いた。その剣は、専用スキルを入手すれば、槍にも変化させられるという。
それらの装備は鎧と同じく、時間経過や氣の使用での修復が可能だそうだ。その代わり、他の市販の武器を持たせるのは不可のようだ。
「レベルは1にリセットされてるの?」
「うん、1になってるね」
どこで契約したどんなレベルの相手でも契約時にはまっさらにリセットされ、レベル1からの開始になるようだ。勿論、初期に持っている専用スキルと専用魔法以外の物を余分に覚えていたりもしない。全員同じ場所からのスタートとなる。
ただ、初期から二メートル越えの大きさであり、金属鎧の姿で大型の武器と盾を持つだけあって、レベルが低くてもそれなりに威圧感があった。
そしてレベルが上がるごとに、どんどんと頼もしさが増していく。
実際に戦わせてみると、主人を守るように自主的に守りの陣を敷いて戦闘に臨むし、戦闘時、タンクとしての使いやすさが顕著だった。人形のように初期は小さく頼りないという事もない。
「これは中々凄い性能だね。特に防御面が頼もしいな」
「うん。守護騎士が使役できるようになるのが楽しみになったよ」
その後、ゴールデンウィーク終了間近まで掛かり、期間中に次が出るのかどうか不安だったけども、なんとか俺の分のスクロールも無事にドロップした。
それとあともう一つ、守護騎士専用スキルである「守護者」(主の傍で主を守る行動を取っている時に限り、能力が向上するスキル)も、一つだけドロップした。
そのスキルは、「俺が先に守護騎士スキル使わせてもらったんだし、これは鴇矢くんが使ってよ」と、海嗣兄が譲ってくれた。
とはいえ、流石にタダで貰うのは申し訳ないので、その分のお金は俺が支払うと申し出たのだけど、一緒に戦ったのだからと結局は半額だけ支払う事になった。他の戦利品はすべて売り払って山分けした。
とりあえず期間ギリギリとはいえ、無事に守護騎士主のスキルを取得できて良かった。
残念ながら早渡海くんの分までは無理だったけど、彼はまた稽古がない日に少しずつダンジョンに通う予定だそうだ。
そんな訳で一応は当初の目的を果たして、臨時パーティは幕を下ろした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます