第171話 「守護騎士の鍛錬所」攻略開始
卯の花のレベリングをしたり追加のスキルを買ったりして過ごしているうちに、ゴールデンウィークに入った。今日からは従兄弟と一緒に守護騎士主のスキルスクロール取得を目指して「守護騎士の鍛錬所」というダンジョンに潜る予定だ。
キセラの街の中央公園で、海嗣兄と待ち合わせして合流した。
「幻獣って、大型でも成長後も全長二メートルくらいなんだけど、星獣の方は普段は小さくなれるとはいえ、大型は四メートルくらいまで育つらしくって、空織兄さんは星獣が絶対に欲しいんだってさ」
「空織兄さんは大型動物が大好きだもんね」
幻獣も充分大きいと思うけど、星獣は大型なら四メートルまで育つのか。そりゃあ小さくなるスキルもいるだろうな。
「オーブの話を聞いて、それなら星獣×3か、もしくは星獣×2と幻獣×2のどちらかにするまでは潜り続けるって張り切って、連日ダンジョン通いしてるんだ。俺も妖精が欲しかったから途中まで一緒に付き合ってたんだけど、俺の方が先に妖精召喚をドロップしちゃったもんだから、兄さんが拗ねちゃって大変だったよ。その後は、俺は守護騎士も欲しかったから、兄さんに了承取ってこっちに移動してきたんだ」
海嗣兄は普段、双子の兄である空織兄と一緒にパーティを組んで活動しているのだけど、そんな事情があって、一時的に別行動を取っているのだそうだ。
海嗣兄は普段は空織兄の面倒を見るスタンスなんだけど、どうしても止めきれない時はすっぱり諦めて放っておく時もある。今回は空織兄の熱意が凄すぎて付き合い切れなくなってしまったようだ。
まあ、激レアドロップであるオーブを最低二つは取得するまではずっと潜り続けるとなれば、一体どれだけの期間が掛かるかわからない。それまでずっと付き合うのは確かに大変そうだ。
(もし星獣×4を選ぶ人がいたら、最大四メートルの星獣がレベル100までに20体も使役できるようになるのか。そう考えるとすごい戦力だよな。……最上級ダンジョンまで行くと、それ以上に大型なモンスターが大量に襲ってくるようになるのかな)
あとは、数で言えば最大数であるネクロマンサーの場合は、×4で80体にもなる。そうなると、ソロで軍隊を持てるようになる。
だけど、ロボットの場合はどうなるのだろう? 中に使用者が入っていないと動かせないっていう制限がある以上、オーブを使っても数は増やせない気がする。あるいはもしかしたらロボットの場合のみ、オーブを使うと大きさが倍増するとか、そういった変化をするのだろうか。
(もしも大きさが倍増するなら、ロボット×4って凄い大きさになるんじゃ……。でもまだ、×3や×4が出来るのかどうかは未確認みたいだし、実は同種拡張は×2までしか出来ない仕様なのかも)
「新しい使役と拡張オーブの登場で、随分とシーカーの活動幅が広がった感じがするね」
「そうだね。まだ判明してない部分も多いけど、出来る事が増えたね」
「あ、そうだ。これ、メールで話したペイントのスクロールね。空織兄さんから預かってきたよ」
話をしていて思い出したらしく、人形専用スキルである「ペイント」のスクロールを、海嗣兄がインベントリから取り出した。
「ありがとう。定価でいいんだよね。空織兄さんにこのお金を渡してお礼を言っておいて」
俺はスクロールを受け取って、代わりにペイントスキルの定価分の金額を渡す。
「うん、了解。預かっておくね」
海嗣兄がお金を受け取って仕舞う。
このスクロールは先日、空織兄が使役専用ダンジョンでドロップした物だそうだ。二人は人形使いを取得していないから俺が欲しければ売ってくれるという話になったので、今日海嗣兄と待ち合わせしたついでに買い取らせてもらった。とてもありがたい。
これは二体目の斥候を作成したら覚えさせる為に大事に取っておこう。
斥候が黒檀一人では、黒檀が大きな破損を負って動けなくなった時に代役がいなくて困る事になるし、そうでなくても罠の発見や解除から敵の誘導まで、斥候の仕事がかなり忙しそうに見えるので、もう一人補助役の斥候がいてもいいと考えていたのだ。
ペイントスキルはかなり希少らしく、ガイエンさんも中々探して来れないでいるのに、そんなスクロールを引き当てるとは、空織兄の幸運はかなり凄いと思う。
でもそれなのに、空織兄が欲しがっている「星獣友誼」のスキルスクロールも、「同種拡張オーブ」も、まだ出ないままだそうだ。
「多分、物欲センサーが邪魔してるんじゃない?」
そんなふうに海嗣兄が言っているのも、あながち間違いじゃないかも。
「よろしく頼む」
「こちらこそよろしくね」
初対面になる早渡海くんと海嗣兄の、お互いの自己紹介と挨拶が済んだ。今日一緒に行くのはこの三人となる。
他のみんなは不参加だ。レベルが足りないとか取得を急いでないとか、不参加の理由は様々だ。
また、早渡海くんも剣道と柔道の習い事で忙しいので、初日のみの参加となる。早渡海くんの人形の数は今6体のようだ。
「これでみんな揃った?」
「うん、大丈夫」
「じゃあ出発しようか」
三人でパーティを組んでから、行き先を「守護騎士の鍛錬所」の通常ダンジョンに設定してゲートを潜る。
「守護騎士の鍛錬所」は塔型のダンジョンで、内部は石畳の迷路構造になっていた。ここにいる三人は全員下級まで到達しているから初級は飛ばしても問題ないのだけど、守護騎士の強さを見る為に、一度1層で戦ってみる事にする。
「いた」
「前情報通り、レベル1でも大きいね」
「じゃあ早速戦ってみようか」
カチャン、カチャンと金属音を立てて、守護騎士がゆっくりと歩いている。
ネットによれば、ここに出るモンスターの種類は守護騎士のみだ。ただ、他のダンジョンとは違って、偶に守護騎士同士でも戦闘をしている事があるらしい。「鍛錬所」という名称のダンジョンだけあって、同種同士でも鍛錬は常に欠かせないのだろうか。
守護騎士は銀色のフルプレートメイルを着込んだ姿の、スタイリッシュな騎士の外見をしている。とはいえその中身は空洞だから、世間ではリビングメイルと分類されている。
武器は巨大な両刃の幅広の剣を片手で軽々と持ち、左手には二メートル近い大盾を構えている。
その全長は二メートル四十センチにもなる。こうして敵としてみると、かなりの威圧感があるな。
1層だからなのか一度に一体ずつしか出なかったので、一人一体ずつ順番に戦ってみた。流石に初級の相手なので苦戦する事もなく、みんな危なげなく倒していく。
レベルが低いと動きも遅く再生能力も低い上に、鎧の強度も大した事ない。鎧を叩き切って壊せば終わった。
(中に核があるとかじゃなくて、鎧をどれだけ壊されたかのダメージ全体で、死亡判定してるのかな? 少なくとも胸や頭とかの、人と同じ部位が弱点って訳じゃなさそう)
もしやこれも、モンスターとして出現する状態と使役となった状態では変わるのだろうか。色々と検証しないといけない事が多いな。
「……1層でレベルが低いはずなのに、ニワトリかブタと同じくらい強いかも?」
「体が大きい上に鎧と剣と盾があるからか、戦いにくく感じるな」
「仲間になればその分頼もしそうだね」
戦ってみた感想をそれぞれ述べる。
そういえば、鎧のみとはいえ完全な人型相手はこれが初めてになるのだけど、あまり気にならなかったな。中身が空洞だから血がまったく流れない上に、倒してもすうっと消えていくから、殺したって感じがいまいちしないのだろうか。
その後は入口近くにある階段まで戻って、階段をどんどん上っていく。
ここと使役専用ダンジョンは食材ダンジョンと同じく、入ってすぐのわかりやすいところに階段がある構造なので、先に進むだけならサクサク進めるのだ。
「妖精は、男の子の個体も見つかったって。服をしっかり着込んでるし、女の子より数が少なくて中性的な容姿なもんだから、男の子もいるって気づくのが遅れたみたい」
ネットでは当初、妖精の性別は女の子のみと書かれていたけど、どうやら男の子もいたようだ。
「よくある創作物みたいな、露出度の高い服じゃないんだね」
「うん、あとで召喚して見せるよ。シャツにズボンにベストにケープに腰を巻く長い布にって、布装備だけだけど、かなり重装備なんだ。あと、契約して属性がつくまでは、みんな白っぽい灰色の髪と目で、属性がつくと髪と目の色がそれっぽい色に変化するんだ」
「その辺りは精霊と同じか」
妖精は取得しない事にしたけど、海嗣兄に見せてもらえるのは楽しみだ。
「ロボットは全長15メートルで大きさが止まるんだってね」
10メートルを超える大きさになると言われていたけど、ようやく上限が確定したようだ。
「ロボットの場合、レベル100で5メートル、200で10メートル、300で15メートルになるそうだ。巨大になるとはいえ、先は長そうだ」
レベル300となると、本当に先は大分長いな。
「使役専用ダンジョン以外の他のダンジョンでもオーブがドロップしたって、ネットで報告があったよ。とはいえ、相変わらず凄い激レアで、滅多に落ちないみたいだけど」
「スクロールでさえレアなのに、それよりもっとドロップ率が低いとなると、狙って入手するのは難しそうだね」
「地球での売値がとんでもない事になっているらしい」
そんなふうに新使役の新情報を話しながら、下級の2層まで移動する。
「守護騎士の鍛錬所」も「使役専用ダンジョン」も、初級は10層までで、下級は30層までとなる。下級の「易」はそのうち10層分だ。
俺達は通常仕様の方を選んだから他に人がいないで空いているけど、特殊仕様の方は人混みが凄い事になっていそうだな。
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