第170話 七体目の人形作成と文字の練習

 新しく出現した使役や同種拡張オーブによって、空いている二枠をどうするかと散々に悩みながらも、日々の生活は学生生活及びダンジョン攻略を中心にして恙なく送っていた。

 その結果、魔物素材ダンジョン2の3層から次の層へと降りる階段も発見したし、レベリングも至極順調に進んでいた。

 おかげで本日、人形使いのレベルも56になり、7体目の人形を作成できるようになった。


「よし、これでまた仲間を増やせるな。今度はマッパー用の人形を作成しよう」

 俺は早速部屋に戻って、新しい人形を作成する事にした。

 更に次の人形を作成できるようになるまで、あるいは守護騎士を取得できるようになるまで待てば、レベルの低い仲間を一度に纏めてレベリングできるのだけど、すぐ次が来るとは限らないのに、せっかく使えるようになった戦力を作らず待機させておくのも勿体なく感じる。

 それにマッパー用の人形を早く作って、地図作製作業から解放されたいって思惑もある。俺は美術も苦手だし、地図描きも好きじゃないのだ。これまでは必要に駆られて渋々やっていたに過ぎない。

 戦力がそれなりに整ってきた今こそ専属マッパーを作って、この作業から解放されたい!

 これで苦手な作業から解放されると思うと、ついハイテンションになってしまう。

 魔法陣から現れたのはいつもと同じ、30センチの全長の木製の球体関節人形だ。


「おまえの名前は卯(う)の花(はな)にする。これからよろしく頼むな!」

 周りを見回して小首を傾げている人形の頭を撫でて、その首に白いバンダナを巻く。

「卯の花」というのは、やや黄色がかっている白系統の色の名前だ。なのでバンダナは白を選んだ。

(色が薄いとその分汚れが目立ちそうだけど、あんまり汚れたらその時は付け替えたらいいか)

 他の人形達のバンダナだって、戦闘で破れたり汚れたりした場合は、同じような色で買い替えているのだし、多少汚れやすくても問題はないだろう。それよりも、一目で個体を見分けられる方が大切だ。

「卯の花にはぜひ、マッパーをやって欲しいんだ」

 俺は熱心にそう言い聞かせる。


「地図を描くとなると、戦闘も基本は後衛の方がいいかな? 最初は短剣を持たせるけど、いずれは俺と同じ、腕装着タイプのクロスボウでも装備させるか……。できるだけ地図を描くのに邪魔にならない武器がいいよな」

 卯の花を眺めながら、今後の成長のさせ方を思案する。

 戦闘時には俺がインベントリに地図を描く為の道具一式を預かる予定だ。せっかく描いた地図が破損したら困るからな。その受け渡しの為には、俺と同じ後衛の方がいいだろう。

 それでも一応他の人形達と同じく、剣と盾と槍とメイスの基本武器は使えるようにしておいた方がいいだろうか。いくらマッパーとはいえ、必要時に戦闘に参加させずに遊ばせておくのは勿体ない。飛び道具の効きが悪い敵もいるのだし、基本武器は一通り使えるようになってもらった方が良さそうな気がする。

(地図を描くのに必要なのは、器用さと知力かな。でも素早さもできるだけ強化したいし……。最終的には素早さ+3、器用さ+3、知力+3になるように強化していこうかな。筋力や頑丈さは強化できないけど、マッピング主体に活動するならそれでいいか)

 卯の花の今後の強化についても計画を立てる。


 その後は、まず先に初心者ダンジョンの7層でイヌを相手にパワーレベリングを施した。その後にスクロール屋に連れて行って、戦闘用のスキルをいくつか購入する。

 その際に、いつもの人形専用スキルとマイナースキルを探して欲しいと、ガイエンさんに頼んでおいた。

 あとはマッパー用スキルとして、「地図作成」と「精密描写」のスキルを購入して使用させた。これらのスキルはそれなりに需要があるからか、マイナースキル扱いはされておらず、普通に購入できた。

 その後はまた、時間の許す限りレベリングをして過ごした。




 そして夜、夕飯と風呂を終えてから、毎日恒例の勉強時間になった。

 実は今日から、俺の勉強と平行して、卯の花に地図の描き方を教えようと思っている。


「そういえば、卯の花って文字が書けるか? ……いや、教えてないのに書ける訳ないのか?」

 地図の描き方を教えよう、となったところで、ふと気になって本人に訊いてみたところ、卯の花は首をこてんと倒した状態で固まった。

 これは多分、文字が書けない……というよりは、文字そのものが何なのかを、わかっていないのかもしれない。

「あー、そういえば、他の人形達にも文字を教えた事はないもんな。みんな読めないし書けないのか」

 人形達はみんな賢くなってきているし、自己判断で戦闘もできるようになってきているし、初期スキルに学習知能もついているので、これまで意思の疎通で困った事は殆どない。それもあって、彼らが文字を書けないという事実に気づかなかった。

 地図……というか、ダンジョン内部の地図+攻略情報を纏める為には文字も書き加えて欲しいところだが、果たして人形に文字は覚えられるのだろうか。

「教えたら覚えられるかな?」

 卯の花と顔(?)を見合わせる。本人はよくわからないようで、ひたすら首を傾げている。

 でも、文字を覚えるまでに時間こそ掛かるかもしれないが、不可能ではないんじゃないかなって気がする。なんといっても人形達は賢いので。(謎方向への自慢)

 どうせなら、マッパー予定の卯の花だけじゃなく、人形達全員に文字を覚えてもらいたい。

「よし。今日から勉強時間は俺の勉強と平行して、人形達に文字を教えていこう!」

 俺はそう決意を固めた。


(教えるのは日本語でいいよな。俺がそれしか使えないんだし。英語なんて満足に教えられないんだから、やっぱり日本語一択だよな)

 そんな訳で卯の花だけじゃなく、人形全員をインベントリから出して、ローテーブルの前に座らせようとする。……が、俺の部屋じゃ狭くて全員では座れなかった。

 仕方なく勉強時間の間だけ、普段は使っていない隣の部屋を借りる事にして、半分の人数はそちらに移動させる。二階には俺、兄、姉の使っている部屋の他に一部屋だけ、客間として空いている部屋があるのだ。ちなみに両親の部屋は一階だ。

「まずはひらがなから覚えていってくれ。これがノートと鉛筆で、こっちが小学校1年生の時の教科書な」

 予備として買ってきてあった未使用のノートや鉛筆を人形達に持たせて、その使い方から実践を交えて説明する。人形達は俺の説明をちゃんと真剣な様子で聞いてくれているし、金属質の指だからかちょっと持ちにくそうにしながらも、鉛筆を持って握り方を確かめたりしている。



(明日、子供用の学習帳とかノートとかを沢山買ってこよう)

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