第169話 同種拡張オーブと従兄弟の誘い

(うわあああっ!!!! 選択肢が増えた~~~~!!!?)



 悩みに悩んで、ようやく使役をどれにするか決めた次の日。なんと、新たな情報がネットやテレビで大々的に取り上げられた。

 ……とは言っても、別にまた次の使役が追加されたという訳じゃない。そして、最大で四種類という枠が、それ以上に拡張された訳でもない。


「同種拡張オーブ……」

 ニュースになっているのは、新しく出来た使役専用ダンジョンにて、激レアとしてドロップした「オーブ」と呼ばれる新アイテムの使用用途だ。

 このオーブを使用すると、既に持っている使役を、もう一度新たに取得できるようになるのだそうだ。

 例えば人形使いなら、今いる個体はそのままに、もう一度スクロールにて「人形使い(その2)」を取得可能になり、またレベル1からレベリングして人形の数を増やしていける。

 つまり、レベル100までに20体取得できるようになる。使役できる数が倍増するのだ。

 更にこれはまだ未確定だが、オーブを三つ使用すると、「人形使い(その4)」まで取得可能になる可能性があるようだ。つまり、レベル100までに最大40体までを同時運用可能になるかもしれないというのだ。

 ……ただしここで大事なのは、一つのオーブを使用するのに使役枠が一つ必要になるのが確定しているという事だ。

 つまり、人形使いを四つ重ねて取った場合、他の使役は一切使えなくなる訳だ。

 これはかなりピーキーな要素だ。だがそれでも、気に入っている使役を制限枠より増やせるのは有用だろう。このオーブの登場で、どの使役を幾つ使うかという選択肢が、新たに追加されたのだ。


(うわあ……、ようやく使役を決めたと思ったら、また新しい要素が出てきた)

 なんだか猛烈に、ダンジョンシステムに文句を言いたい気分になった。どうして新使役出現と同時に、これを出してくれなかったのかと。

 いや多分、このオーブが実装されたのは、新しい使役が実装されたのと同時だったのだろう。だが、オーブのドロップ率が激レアだったせいで、今日まで世間に情報が露見しなかっただけのようだ。

 おかげで、やっと決めたと思った選択がパーになってしまった。


(雪乃崎くんみたいに、焦って決めずに落ち着いて対応した方が良かったのかも)

 思わずがっくりと肩を落とす。

 とはいえ、俺はまだ新しいスキルを取得していない段階である。傷は浅いはずなのだが、精神的な虚脱感が凄い。

(うう……、気持ちは落ち着かないけど、だからといって、いつまでも呆然としてる場合じゃないんだよな。残りの二枠を決め直さないと)

 精神的なショックを受けたのは事実だが、無理矢理立て直す。ここで呆然としていても時間の無駄だ。


(……同種拡張は有用とはいえ、人形をこれ以上増やすのは無しかな)

 少し考えれば、その点はすぐに結論が出た。

 仮にオーブを使う事で今いる人形の強さが倍増するなら、主力である人形を強化する選択肢を迷わず選んだだろう。

 だがこの場合、増えるのは数だけで、強さそのものは変わらない。そして新たに増えた人形は、また一から手間をかけてレベリングしていく必要がある。

(人形の数は、レベルが上がればこれからも随時増えていくんだし、今の時点で数が不足してる感じはしないんだよな)

 俺のレベルがもっと低くて、人形が5体以下の時ならば、人形を増やす選択をした可能性もあるが、今はあとちょっとで7体目が作成できるところまで来ているのだ。そのおかげで、数に不足は感じていない。

(となれば、守護騎士の方は予定変更せずに取得で良さそうだな。守護騎士はレベリングが楽な上に、人形とは違う運用ができそうだしな)

 そんな感じで、守護騎士の方は特に迷わずに取得で決まった。


 ……問題は、精霊を二枠取って数を倍増させるか、それとも当初の予定通りにロボットを取得するかのどちらかである。

 妖精は悪戯な性格が俺にとってのマイナス点となって取得を躊躇ったが、精霊にはそのマイナス点が存在しない。精霊を増やせば問題なく魔法を強化できるのだ。

 一方でロボットも捨てがたい。その巨大さは唯一無二の強みとなる。

(うーん。精霊だって、今はちょっと数が少なく感じるけど、もう少しレベルが上がって数が増えれば、運用に不足はなくなりそうなんだよな……。それにいくら俺の魔力を魔力回復ポーションで補えるとはいっても、それを買うお金の問題もあるし、何よりあんまり大量にポーションを飲むと、液体でお腹が膨れて苦しくなりそう)

 今後の長期運用を考えると、やはりロボットの方が巨大モンスターが出た際に対応しやすいんじゃないかという気がする。

(でもまあ、今すぐに結論を出す必要はないか。一応ロボット優先で考えつつ、まずは守護騎士を取得して、しばらくはその三種で運用していく事にしよう)

 結局は、その場では結論を出さずに先送りする事にした。

 もしも万が一、また新たな情報がひょっこり出てきたら困るし、まずは守護騎士を取得して、実際に運用してみてから、残りの一枠を決めよう。




 その日の夜、従兄弟の海嗣兄から電話が来た。

「鴇矢くん、新しい使役スキルを何か取得する予定あるかな? 俺は守護騎士の予定なんだけど」

「俺も守護騎士を取りたいと思ってるところだよ」

「お、俺と同じだ! それなら良かったら、俺と一緒に守護騎士の鍛錬所に行かない?」

 海嗣兄に、一緒にダンジョンに行かないかと誘われた。


「守護騎士の方も使役専用の方も、特殊ダンジョンの方は世界中から人が押し寄せて混雑してるらしいんだ。それぞれ四つずつ出現したから少しは分散してるとはいえ、新スキルを欲しい人が一気に押し寄せてる状態だって」

「それは行くのが怖いね。通常仕様のダンジョンも同時に出現してくれて助かったね」

 混んでるってニュースは見たけど、そこまでなのか。コミケより凄いのかな? 正直、人混みは苦手なので、特殊ダンジョンの方に行くのは遠慮したい。

 俺と同じように混雑を避けたい人はみんな通常ダンジョンの方に行ってるだろうに、それでも特殊ダンジョンがそこまで混むとは予想外だ。新使役を早く欲しがってる人がそれだけ多いって事なんだろう。

「だよね? だから通常ダンジョンの方に、ゴールデンウィークに一緒に行かない? 鴇矢くんも初級は卒業したんだよね?」

「うん、今は下級の「易」を攻略中だよ」

「それなら、一緒に付き合ってくれないかな? 空織兄さんは星獣スキル取る為に、ずっと使役専用ダンジョンに通い詰めてて、守護騎士の方は付き合ってくれなさそうなんだよね」

 予想は出来たけど大型動物狂いの空織兄は案の定、星獣を入手する為に奔走している最中らしい。

 スクロールが店に安定して入荷されるようになるまで待つのも一つの手だけど、せっかくのお誘いだし、海嗣兄と一緒にダンジョンに行ってスクロールドロップを狙うのもいいかもしれない。


「うん、わかった。俺も守護騎士が欲しいから一緒に行くよ」

「良かった。もし他に行きたいって子がいたら、一緒に誘っておいでよ」

「うん、聞いてみるね」

 そんな訳で、ゴールデンウィークの予定が決まった。

(天歌兄さんはロボットって言ってたけど、瑠璃葉姉さんは守護騎士を取るって言ってたっけ。でも姉さんは店で買えるようになったらって言ってたから、一緒には来ないかな? ……一応、姉さんと友達みんなに声を掛けてみようかな)

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