第164話 新しい友達と新しい……?

 同じ犬でも小型犬と大型犬で大きさが全然違うように、同じ牛でも畜産用の乳牛と野生の水牛はかなり体格やら角の形やらが違う。ダンジョンモンスターであるニュウギュウとスイギュウにもその違いは適用されているようで、ニュウギュウ相手なら突進を一人一体きっちり止められたが、スイギュウ相手だと一メートルほど後退させられており、ギリギリな感じだった。

 それでも、吹き飛ばされるほどではなかったので、その後も一人一つずつ大盾を構えてスイギュウと戦ってみた。今はちょっと危なっかしいけど、もうちょっとレベルが上がれば安定感も出るかな。


 スイギュウに初挑戦した日の数日後には、ガイエンさんに以前頼んでおいた、料理などのスクロールが、すべて揃った。それらのスクロールはマイナースクロールの中では結構数が出回っている類だったようで、自分の手持ちの倉庫から必要数をあっさり見つけられたという。

 そのおかげで、人形達に欲しいと思っていたスキルはほぼ揃った。今のところ、残りは緑青に瞬発力強化のスキルを覚えさせるだけだ。

 とはいえ、瞬発力強化は本来ならば下級の普あたりで覚えるべきスキルなので、これは緑青のレベルが50になるくらいまでお預けかな。

 そんな感じで、ダンジョン攻略の方はまあまあ順調に推移している。


 一方、新しく始まった高校生活では一つの変化があった。一緒に昼食を食べる友達に、新しいメンバーが加わったのだ。


「……その、これからよろしくな」

 気まずさと恥ずかしさに頬を指でポリポリ掻きながら挨拶する彼は、更科くんが連れてきた男子である。



 彼の名前は波鳥羽 志希(はとば しき)。

 高校の同級生であり、更科くんのクラスメイトだ。

 入学早々、放課後に教室で一人黄昏ていたところを更科くんに目撃されて、成り行きで更科くんに悩みを相談した事がきっかけで友達になったという。

 波鳥羽くんは小学校の時に勇んでソロでダンジョンに挑戦し、装備不足でニワトリに相対した結果、その鋭い爪に目を抉られてしまったのだという。

 そしてそれ以来、その時の痛みがトラウマとなって、ずっとダンジョンに潜れなくなっていたそうだ。

 だけど高校に入って、周りは益々ダンジョンへ行く人が多くなって、自分ばかりが取り残されているように感じて落ち込んでいたのだという。

 その話を聞いた更科くんに、「未練があるなら、無理のない範囲でもう一度挑戦してみればどうかな?」と励まされ、もう一度ダンジョン攻略を始める決意を固めたのだ。


 その話を聞いた時、俺は強く共感し、「俺もニワトリ相手に大きめの怪我して、再挑戦するまで結構時間が掛かったんだ」と、つい自分の体験談を語ったりした。

 俺も波鳥羽くんも、装備をもっとしっかり準備していれば、そこまで大きな怪我を負わずに済んだはずなのに、事前準備を怠って痛い目を見た。怪我の程度は違うとはいえ、同じような経験をしていたので、随分と話が弾んだ。

 そして俺も他のみんなも、波鳥羽くんに思いつく限りのアドバイスを贈った。トラウマになるほど辛い思いをしたのに、もう一度攻略を再開しようとしている彼を応援したかったからだ。

 本当は、俺達も一緒にダンジョンに潜ろうかっていう提案もしたのだけど、これから3層でお金を貯めて装備類を買い直すところから始める自分に、ずっと先に行ってるみんなを付き合わせられないと、はっきり断られてしまった。

 残念だけど、彼がその選択肢を選んだ気持ちもわかる。俺がもしその立場だったら、他人に頼らず自分の力で頑張ろうとしただろう。だから彼がそうしたいなら、俺はその意思を尊重したい。


 でも、一緒にダンジョン攻略ができないなら、せめて情報だけでも伝えたいって事で、使役系スキルの有用性や、斥候ギルドやシーカーギルドでの訓練などなど、これからの攻略に役立ちそうな話をとにかくいっぱい話した。

 波鳥羽くんも、使役が一緒に戦ってくれるなら、もう一度ニワトリに挑む時にも随分と心強そうだと、使役の取得に乗り気だ。今は3層で少しずつ貯金しながら、日々、どの使役にするかを考えている最中だ。


「やっぱり、人形使いがいいと思うんだ。人が覚えるスキルは大抵覚えられる上に、専用スキルまであるから、育てばすごい頼もしくなりそうだもんな」

 四種の使役スキルのそれぞれの特性をネットで調べて、特徴を掴んだ後も、波鳥羽くんはどの使役にするか何日も迷っていた。

 だけどついにどの使役にするか決めたらしく、そんな感想を述べる。どうやら人形使いにかなり好感触を抱いているようだ。

「だよね! 俺も人形達には、いつも助けられてるよ」

「うむ。人形は万能性が高い。自分に合った育て方に出来るし、お勧めだ」

 人形使いである俺と早渡海くんは、全力でそれを後押しした。やっぱり同じ人形使いの人が増えるのは嬉しい。前に従兄弟の空織兄と海嗣兄が、俺に自分と同じ使役スキルをお勧めしてきた事があるけど、その気持ちも今なら少しわかる気がする。

「俺は、使役系四種類を全部取るのもアリかなーって思うよ」

 俺達の会話を聞いていた更科くんが、そこでかなり思い切った発言をする。


「全部? そりゃあそうすれば戦力面では心強いだろうけど、仲間が増え過ぎると、レベル上げが大変になっていかない?」

 雪乃崎くんが、更科くんの意見に目を丸くして驚いている。

「基礎レベルを上げるのも大変だろうが、必要分のスクロールを買う値段も、かなりの負担になると思うぞ」

 早渡海くんも眉を顰めて冷静に反論した。

「別に、一気に全部を揃えなくても、徐々に揃えていくのもアリじゃないかな? 資金の方は、初級はともかく、下級まで行けばかなり稼げるようになるんだしさ。それに敵の数も増えるんだから、手数が多いのはそれだけ強みになると思うんだ。……まあ、レベル上げが大変になるのは否定しないけどね。俺はパーティを組んでるから一人で全種類を揃えるつもりはないけど、それぞれ最低二つずつは使役系を取得しようって話してる最中なんだ」

 どうやら、更科くんのパーティはエルンくんとシシリーさんも含めてメンバー全員が、使役系スキルを取得する予定らしい。しかも、各自最低二種類ずつは取得予定だという。そうなると、三人パーティで使役が六種類以上か。結構な大所帯になりそうだな。


「言われてみればそれもアリかもね。俺は幻獣は世話ができそうにないからって避けてきたけど、戦力だけで見れば、取れる使役スキルを全部取った方が強そうだよね」

 更科くんの意見も一理あると、俺は納得する。数の多さがそのまま強さに繋がるというのは、確かにあると思う。

 レベルを上げるのが大変になるのはその通りだけど、先を急がないなら充実した戦力をゆっくり育てていくというのも一つの手だろう。

 でも、他の使役系スキルは自分向きではないと思って取得を見送ってきた経緯があるので、俺にとってはその点がネックかな。


「……なあ! ネット見てくれ! これマジかっ!?」

 そこで急に、スマホを見ながら俺達の会話を聞いていた波鳥羽くんが、とても焦った声を上げた。


「新しい使役スキルが出現したってニュースがやってる!!」

「「「「え?」」」」


 みんな、その言葉に呆然とする。にわかに、教室全体が騒めいた。教室にいた面子の中で波鳥羽くんの大きめの声が聞こえた人達がどんどんスマホを取り出して、その画面を凝視している。俺達も慌ててスマホを取り出して、ネットニュースのページを開いた。


 ……なんの偶然か、丁度みんなで使役系スキルについて話している最中に、新しい使役系スキルがこの世界に出現したらしい。

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