第162話 高校生活開始
戦闘は程々にしてフィールド探索を積極的に進めた結果、数日で次の層へ行く階段を見つけた。
気持ち的にはすぐにでも次に進みたいところだけど、もう春休みが終わる時期なので、休み中にやりたい用事を終わらせるのを優先させた。
ガイエンさんの店で、この前のマイナースクロール祭りで買えなかった分の料理、掃除、精密作業、方向認識といったスキルを注文する。
その際に頼んでおいた緑青用の専門スキル「硬質化」「視覚共有」「遠隔指示」を見つけてもらっていたので、それらを買い取った。
それからアルドさんの店で、ニュウギュウの雷で焦がされた大盾の補修を頼んでおいた。次のモンスター相手にも大盾を使うだろうから、その前にきちんと補修してもらわないとな。
他にも、セトの街の斥候ギルドに行って、講習を受けたり訓練をしたりもしてきた。
あとは日本の店に出かけて、高校生活で必要そうな物を買った。春休みの初めに買い物に行ってある程度は揃えていたのだけど、細々とした物が足りなさそうだったのだ。
新しく通う事になる高校は、バスで15分くらい、徒歩なら40分くらいの距離にある。そんなに遠くないので、俺は徒歩で通う予定だ。
高校入学初日。新しい制服を着て入学式だ。周りを見渡してみると、みんな少し緊張した面持ちをしている。俺もそうなのだろうか。
でも、小学校や中学校と変わらず、校長先生の話が無駄に長かった。こういうのはできるだけ短く終わらせて欲しいってきっとみんな思ってるのに、いつまで経っても変わらないのは何故だろう。
入学式の後にクラス分けを見たら、俺は雪乃崎くんと同じクラスになっていてホッとした。でも、更科くんや早渡海くんとは、それぞれ別のクラスになってしまった。そこは残念だ。
せめて昼食だけはまたみんなで一緒に食べるようにしたい。
入学式の後はクラスで担任の先生から連絡事項なんかの話を聞いた。
昼前に終わったところで、一度友達で集まる。こうしてみんなで集まるのは、卒業祝いで食事して以来か。
「久しぶり」
「クラスが別れちゃって、残念だったねー」
「高校でもよろしくね」
「また世話になる」
軽く挨拶を交わしてから、更科くんお勧めの食堂に行って、みんなで食事をする事になった。場所は東京にある特殊ダンジョンの「ウテナ」の街だ。俺はこの街に来たのは初めてだけど、キセラの街よりずっと人が多くて、10階建てくらいの建物ばかりが並んでいて、都会って雰囲気の街だった。
建物はなんとなく、明治や大正あたりのモダンな雰囲気を彷彿とさせるレンガ造りの物が多かった。街全体の大きさは、今日歩いただけではどれくらい広いのかわからなかったけど。
食べ歩きが趣味というだけあって、更科くんがお勧めしてくれた食堂の食事は美味しかった。ちょっと独特の味付けの中華風な食堂で、甘辛いタレの掛かった揚げ物とか、香辛料の効いた肉団子のスープとかをみんなで食べた。
食事しながら話をしたけど、みんな部活には入るつもりはないと言っていた。部活必須じゃない高校を選んで受験したんだし、部活に時間を取られるつもりはないようだ。
「俺は渡辺さんのところの手伝いとか、エルン達とのパーティでのダンジョン攻略とか、趣味のブログとか、やりたい事がいっぱいだしね」
「俺も、剣道と柔道の道場に通っているからな。ダンジョンの攻略も進めたいし、部活にまでは時間が取れない」
「だよね。僕もダンジョン攻略にできるだけ時間を取りたいし」
「やっぱりそうなるよね」
みんなそんな感じだし、俺達には部活動は縁がなさそうだ。
その後はみんなでシーカーギルドに赴いて、ギルドの職員さんに戦闘訓練をつけてもらった。そこで、雪乃崎くんが使役しているスケルトンやゴーストを初めてみた。
(これは使役)って心構えをした上で慣れればそこまで怖くないんだけど、いきなり目の前に現れると、やっぱりちょっとビクッとしてしまう。
(ゾンビがいない分マシなんだけど、やっぱり俺にはネクロマンサーは無理かも)
ホラーなビジュアルにどうしても構えてしまうので、ネクロマンサーの取得は、きっぱりと諦めた方が良さそうだ。
翌日には学校で身体測定があった。身長や体重などを測る他に、基礎運動能力を測る日だ。
「178センチって、カミル、また背が伸びたねー」
「そうだな」
更科くんが早渡海くんの身長の書かれた紙を羨ましそうに見ている。
「俺は171センチだった」
確か、中3に測った時は170センチだったはずだから、1センチ伸びた事になる。そろそろ小柄って程ではなくなって、一般的な身長になれたかな。
「僕は168センチだったよ」
雪乃崎くんもちょっとだけ身長が伸びたようだ。
「うー、俺は167センチだった。あともう3センチは欲しい……」
更科くんもちょっとだけ身長が伸びているのだけど、本人が希望する数値まではいかなかったみたいだ。
基礎レベルが上がったおかげで、運動は軒並み問題なく熟せた。……というか、シーカーとしてレベル別で分けられて、一般生徒とは別の場所で計測されている。
実生活では無自覚に力をセーブするからか、あまり力が強くなったと自覚する機会がなかったんだけど、こうしてはっきり数値にされると、普通の範疇から外れてきているのがよくわかった。
シーカー用の測定器じゃないと機器の方が壊れたりエラーを起こしたりして、正確な数値が測れないくらいになっているのだ。シーカー用の測定場では、ごく普通の高校生であるはずの俺達が、オリンピック選手よりもずっと高い数値を出しているのだから、シーカーの運動能力は人外だ。
(今回の身体測定で改めて、シーカーの能力が凄いのを再確認した訳だけど、調子に乗って物を壊したり、人を脅して遊んだりするような生徒はいないみたいだな)
周囲を見渡してみても、みんな楽し気に、あるいは真面目な様子で身体測定を受けている。
平和な日本だからなのか、あるいはそんな事をすれば、折角鍛えたレベルを剥奪されると理解しているからか、シーカーをしている生徒達に、目に余るような乱暴な言動をしている人は、今のところ見当たらない。
(治安が良くて、校則が緩い高校を選んだおかげかな?)
願わくば高校生活の三年間、平和に楽しい学校生活を過ごせたらいいな。
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