第154話 中学卒業、卒業祝いパーティ

 卒業式の時期になった。

 俺が前世の記憶を取り戻したのは、小学校の卒業式が終わった日。そう考えれば、丸三年が経ったと言える。

 この三年で俺も随分成長したり変化したりしたと思う。出会いもたくさんあったし、親しくなれた人も多い。


 出会いが多かった一方で、この時期に付きものの別れもある。

 仁良坂くんのパーティメンバーは四人とも、俺が進路に選んだのとは別の高校に行くそうだ。折角仲良くなれてきていたのに残念だけど、こればかりは仕方ない。

 彼らが行くのはシーカー優遇措置があって、シーカー活動の為なら出席日数が考慮されるという高校だ。偏差値も低めで入学しやすい。

 専門学校とは違って一応は普通科なので、もしシーカーにならなかったとしても、最低限の学歴は保てる。普通科卒業という学歴を維持した上で、勉強よりもシーカー活動を優先させたい人には、そういう選択もアリなのだろう。

 学校が別々になってしまうと中々会う機会もなくなるだろうけど、メールや電話番号は交換してあるのでいつでも連絡はとれるし、また機会があれば会えるかな。


 卒業式は、数人が代表として全校生徒の前で卒業証書を校長から手渡されて、それ以外の生徒はクラスで担任から証書を手渡されるという方式だった。全校生徒一人一人に授与なんかやっていたら、どれだけ時間がかかるかわからない。だから手早く済む方がいいんだけど、ちょっと情緒に欠けるかな。

 卒業式の後にはクラスの打ち上げがあって、俺も早渡海くんも顔を出して参加した。

 その後は適当なところで打ち上げを抜け出して、キセラの街で雪乃崎くんや更科くん、エルンくんやシシリーさんと合流して、ジジムさん達の食堂の一角で軽い卒業祝いパーティをやった。

 パスタやピザといったイタリアン風の料理を頼んで、みんなでジュースのコップで乾杯する。


「「卒業おめでとう!」」

「「「「ありがとう!」」」」

 エルンくんとシシリーさんの掛け声に、四人で返事する。これは、俺達と違ってエルンくん達は卒業ではないからだ。

「こちらの学校は、一つの街に一つずつしかない。小等学校が六年間で、高等学校が六年間だな」

「そっか、中学と高校で分かれてないんだ」

 俺達と同じ歳で同じ学年に当たるのに、彼らにとっては卒業ではない理由を、エルンくんからそう説明された。まあ、日本でも中高一貫校は似たような形態か。

 ダンジョン街には子供の数が少ないから、学校の数も少ないようだ。小等学校と高等学校に通うのは義務だそうだが、学校そのものの選択肢はないんだな。一応、別の街に引っ越せば別の学校に行くのは可能ではあるものの、教育内容に差はないそうだ。ダンジョン街においては、どこの学校に通っても、できるだけ同じ内容を過不足なく学べるように整えられているのだという。


「それじゃあ大学もないの? 高等学校を卒業した後でまだ勉強したい人達って、どうしているのかな」

 それらの説明を聞いて雪乃崎くんが抱いた疑問に、エルンくんが口の中のピザを急いで飲み込んで答える。

「魔道具を学びたいなら魔道具職人の弟子になるし、ポーション作りを学びたいなら薬師の弟子になる」

「専門職の弟子になって、技術と知識を学ぶのか。総合的な学習施設はないのか?」

 今度は早渡海くんが質問する。専門的な職業につく為には、まずは誰かの弟子になる必要があるようだ。あるいは司書になりたい人は図書館に勤務するとか? とにかく、先人に学ぶか特定の施設で学ぶかしないといけないようだ。

 地球にも昔から徒弟制度はあるんだから、それも珍しい形態ではないのだろうけど、高等学校を卒業したら、次の学校に行くって選択肢は一切ないのか。

「図書館の司書になるとか、学校の先生になるとか、自宅で本を集めるとか、学校卒業後も学ぼうと思えば学ぶ手段は、それなりにあるんじゃないかしら? でも、学校のように人を集めて授業するような形態はこっちにはないわ」

 シシリーさんが早渡海くんの疑問に答える。やっぱり大学に相当する教育機関はないのか。ダンジョンシステムの方針が、高度な勉強よりも攻略優先なのかもしれない。



「そういえば、二人とも親と離れて暮らしてるんだっけ? こっちじゃそういう子って結構珍しいって聞くけど」

 更科くんがふと思い出したのか、二人にそう問いかける。

 前にダンジョン街では子供をとても大切にしていて、周囲の人も一緒になってみんなで子育てをするって聞いた。それを考えれば、まだ未成年なのに親元を離れて暮らしている子供は、かなり珍しいのかもしれない。

「ぼくは幼少時、集落に大人が30人くらいしかいない環境で育ったから、もっと同世代の子供がいる環境に行きたいと申し出て、兄の元に居候する事にしたんだ」

 エルンくんがあっさりと答える。別に何か複雑な事情があってとかではなくて、単に同世代がいる街での暮らしを自ら望んだだけらしい。

「私は両親が極度の引っ越し好きで、ずっと両親に付き合わされて、年に何度も引っ越す環境だったの。だからもう少し落ち着いた暮らしがしたくて、古本屋を営む祖父母の元で居候させてもらう事にしたのよ」

 シシリーさんの方は、両親の引っ越し好きという生態に付き合い切れなくなって、祖父母を頼ってこの街に移住してきたようだ。

 年に何度も住む場所を引っ越すって、そりゃあ慌ただしいだろうな。折角親しくなれても、ご近所さんともすぐに別れないといけなくなる訳だし。家の立地も家の中身も、引っ越しの度に全部ガラッと変わるとしたら、それは俺も落ち着かない。シシリーさんが両親の元を離れてでも平穏な暮らしを望んだのもわかる気がする。

「そうだったんだ」

 そんな感じで、それぞれが両親の元を離れての暮らしを自主的に選択した者同士という事もあって、エルンくんとシシリーさんは、学校で元々仲が良かったようだ。そこに更科くんが加わって、今のパーティが結成されたそうだ。


 友人間で開かれた卒業パーティはそんなふうに、家族の事や学校での出来事、あるいはこれからの生活への希望など、とりとめのない内容をみんなで話しながら、食事を楽しんで終わった。




 その数日後には、母と一緒に高校用の制服や教科書などの、高校生活で必要な品を買いに行った。兄は大学入学なので制服はいらないが、入学式に着るスーツを買う為に一緒に来ていた。

 他にも入学のお祝いとして、俺は自分用の包丁を買ってもらった。兄は入学祝いに、月面基地で暮らしている宇宙飛行士であり学者でもある人の書いた、分厚い実録本を買ってもらっていた。兄は本当に宇宙が好きなんだな。

 高校生活がどうなるかはまだわからないけれど、とりあえずは春休み中に、できるだけダンジョン攻略を進めておきたい。折角の長期休みを、思う存分堪能しよう。

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