第153話 下級魔物素材ダンジョン2の2層、穴堀オオイノシシ
イタチ相手の戦闘も安定したし、中継ゲートを通過して数日後に次に降りる階段を見つけた。
最初の頃こそ苦戦したものの、武器を片手剣と盾に変えてからは大きな破損もほぼなくなって、問題なく対処できるようになった。
多分、素早さ特化のイタチよりも、先のモンスターの方が戦いやすいんじゃないかと思う。
2、土属性・穴堀イノシシ(魔物素材ドロップ:毛皮、牙、肉各部位)
フィールド:土の斜面フィールド
推奨スキルもしくは魔法:土耐性
ドロップ:コアクリスタル、下級ポーション(ダイエット補助薬、経口タイプ)、菜種オイル(瓶入り)、紅花オイル(瓶入り)、鉄の片手剣、スクロール
「2の2層の敵は、土属性の魔法を使う穴堀イノシシだ。足元を急に落とし穴に変えてくるから注意が必要だ。突進の勢いがあるから、直撃しないように気を付けてくれ。イノシシは4体から7体くらいの群れで行動するそうだ」
ネットで調べた事前情報を人形達に伝え、ゲートで移動する。
みんなの武器は今日はいつもの得意武器に戻してある。
ゲートを出てすぐの地面は足元がしっかり踏め固めてあったものの、それ以外の場所は、まるで耕したばかりの畑のように柔らかく、崩れやすい土質だった。
しかもフィールド全体が傾斜地になっており、崖というにはなだらかだけど、まっすぐ立つには都合が悪い場所が殆どだった。
ブーツで恐る恐る踏み出してみると、足首まで土に埋まった。
(これ、前のブーツだったら、ズボンや靴の中まで土塗れになってそうだな)
ブーツを新しくする際に、膝下までの長さの物に変えていて良かった。
「これは、敵の攻撃を避ける時も、あまり派手に転ばないように気を付けないといけないな」
この斜面で下手に転がると、そのままかなりの距離を転がり落ちていってしまいそうだ。
黒檀がフィールドに罠がないか調べたところ、落とし穴があちこちにポコポコ仕掛けられているらしい。どうやら他の罠がない分だけ、落とし穴が大量なようだ。
崩れやすい土のフィールドに、見分けにくい落とし穴だ。うっかりすると、調べて潰した範囲以外のところを踏み抜いてしまいそうだ。
(そういえば、ここのフィールドには果物はないのかな?)
他のフィールドでは、木に果物が生っている事が殆どだったのだけど、ここのフィールドには見渡す限り、木がまるでない。代わりにところどころに緑色をした、茎の太い植物が生えていた。
「これって確か、山菜のウドだったっけ? ここは果物の代わりに山菜が採れる仕様なのか」
山菜にはちょっと時期が早いんじゃないかと思ったが、考えてみれば他のフィールドの果物も、季節を問わずいつでも生っていたのだから、ダンジョン内で採れる食材には季節は関係なかった。
周囲を警戒し罠を潰しながら探索していくと、気配察知で4体の群れが近くにいるのを察した。
初戦なら最小数である4体は、丁度いい相手だろう。遠隔指示で黒檀に、敵をこちらに誘導してくるように頼む。
敵が来るまでの間に、残る面子で足場をちょっと踏み固めて立ちやすくする。
ネットでの注意点では、イノシシは土魔法で足場を崩しにくるとあったから、ここで足場を少し踏み固めたところで意味はないかもしれないが、少しでも戦いやすいように整えておく。
「来るぞ」
黒檀が誘導してイノシシの群れを引き連れてくる。
黒っぽい焦げ茶の毛皮で、鼻の脇から飛び出した二本の牙がかなり大きい。そして体長も普通の猪よりもずっと大きい。大きさと見た目だけだと、熊と見間違う程だ。しかも小型のツキノワグマの方ではなく、ヒグマと同じくらいの大きさはあった。
(そりゃ、オオイノシシとは書いてあったけど。予想よりずっと大きいな)
大きさに比例して重量もかなりあるようで、イノシシ達が駆けるごとに足元の土が舞い上がって、背後に細かい土を巻き上げている。
この柔らかい斜面のフィールドも移動しなれているのか、こちらに突進してくるスピードはかなりのものだった。
「大盾を!」
俺は急いでインベントリから大盾を取り出して、青藍と山吹に二人がかりで構えさせた。まさかイノシシがこんなに大きいとは思っていなかったので、大盾をあらかじめ用意していなかったのだ。
「石躁召喚! 石の壁で突進を止めてくれ!」
突進の勢いを弱める為に、石躁にもストーンウォールを頼む。石の壁が素早く伸びて、俺達の前を三メートル程の範囲の壁が出現する。直後、そこにイノシシ二体がガツンガツンと重音と衝撃の余波を響かせつつぶつかった音がした。
そして石の壁からは突進位置がずれた二体のうちの一体が、青藍達の構える盾と正面から激しくぶつかり合う。
最後の一体は止めるものもなくフリーのままで、槍を構える紅へと向かった。だが素早さに長ける紅はその突進を直前でひらりと躱してみせて、更にはすぐ傍を駆け抜けるイノシシの脇に槍を繰り出して攻撃まで加えてみせた。
「ブモォ!」
紅の反撃に怒り狂い、低い唸り声を上げるイノシシに、更に追い打ちとばかりに紫苑と黒檀の矢と投げナイフが次々と刺さっていく。だが矢やナイフのような軽い攻撃では、この巨体にとってはさほど深い傷にならないようだ。
また、一度石壁と大盾によって突進を止められた他の個体も、衝突の衝撃から立ち直りつつあり、攻撃の為に再び動き出そうとしている。
それを押し留めるように、山吹と青藍がそれぞれ大盾の影から左右に飛び出して、各々の武器でイノシシを一体ずつ相手に戦闘し出す。特に山吹の柄の長い斧はイノシシ相手にも高い攻撃力を発揮するようで、一撃で一体のイノシシの脚を一本、半ばまで深く傷つけた。これで足を負傷したあのイノシシは、あの場からろくに動けないだろう。
「花琳召喚! 毒魔法の範囲をイノシシ達に掛けてくれ!」
「ブモオ!!」
俺が花琳を召喚して毒の範囲魔法を使ってもらうのとほぼ同時に、俺の足元がズボッと崩れて穴が開いた。今のがイノシシの土魔法なのだろう。俺は崩れた足元から離れる為に咄嗟にその場を飛びのいて後退ったが、幸い態勢はそう大きく崩さずに済んだ。
「炎珠召喚! ファイヤージャベリン!」
俺は立て続けに精霊を召喚していく。石の壁にぶつかった後、また突進しようと足に力を込めていた個体の背中に、炎珠の攻撃魔法で大きな火傷と刺し傷を負わせた。突進しようとした出鼻を挫かれ、痛みに怯んだその瞬間、紅の槍が深く首元に突き刺さる。
(よし、あれは致命傷だな)
これでまずは一体目を倒した。
次に目を移すと、青藍が一人で抑えていた個体に、紫苑と黒檀の飛び道具の第二弾が突き刺さる姿が映った。全体を見ると、山吹が抑えている個体に関しては、山吹の方が常に優勢で推移している。体に大きな傷を幾つも負って、明らかに動きが鈍っている。
最後の一体は俺の方に向かおうと、よろけながらも動き出した。石壁に頭を打った際にダメージを負ったのか、牙が片方、半分ほどに欠けている。そして花琳の毒が効いているのか、動きも精彩さが欠けていた。
向かってくるイノシシは真っ先に対処しなければならないので俺がクロスボウを射ると、矢が鼻先に刺さった。とはいえ、それだけでは大きなダメージにはならない。
(いったん大きく後ろに下がるか、それとも)
一瞬だけ対処に迷ったが、丁度そこに、一体目に止めを刺し終えた紅が駆けつけてきてくれた。紅は俺とイノシシの間に割って入って、槍で勢いよくイノシシを切りつける。
紫苑と黒檀の援護もあって、青藍と山吹がそれぞれ一体ずつイノシシを仕留めた。
その後、残り一体になった最後の個体を、紅を中心に青藍と山吹が三方から囲んで、危なげなく止めを刺した。
「……よし、全部倒せたな」
ズドン、と地揺れを起こして横倒しになったイノシシがすうっと消えていくのを確認して、俺は大きく息をついた。
「オオイノシシっていうから、5層のブタよりは大きいのかなって思ってたけど、まさかヒグマサイズだとは思わなかったな。ちょっと焦った」
予想より大きかったのと、大型モンスターを複数同時に相手にするのは初めてだったので、つい過剰と言える程に精霊を召喚して、大盤振る舞いしてしまった。クールタイムを考えると、ドロップアイテムを拾い終わったらすぐに次の戦闘に、とはいかなさそうだ。
(でも、もう少しイノシシ相手に慣れてくれば、一度の戦闘で精霊二体までに抑えながら戦えるようになるかな?)
ドロップアイテム拾いを人形達に任せて、今の戦闘を振り返ってみる。
その大きさには驚いたが、それでもそこまで大きな問題もなく、順調に倒せたと思う。人形達も誰も破損していないし。
魔物素材ダンジョンは1よりも2の方が強いと言われているのに、1の2層のイタチと比べると、イノシシの方がやや戦いやすい程だ。
(つまりそれだけ、俺が無意識に素早さの優先度を下げてきてしまったんだな)
それを改めて実感して、反省しきりだ。
特に、後衛だからと素早さをまるで上げていなかった紫苑には申し訳ない気持ちだ。強化できる数値があと+1しかないので、紫苑と山吹の素早さは、他のみんなより劣ったままになってしまう。
……とはいえ、その分素早さ以外の項目が強化されているのだから、彼らの活躍の場がない訳じゃない。それぞれの得意分野と苦手分野を把握した上で適材適所に配すれば、彼らも今後も活躍できるはずだ。
(つまりは俺の采配次第って事だな。頑張ろう)
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