第147話 下級魔物素材ダンジョン1の2層、風刃イタチ

 2の1層で順調に次の層へ降りる為の階段を見つけたので、今日から1の2層の攻略に移る事にした。



 1ー2層、風属性・風刃イタチ(魔物素材ドロップ:毛皮、爪)

 フィールド:森林フィールド

 推奨スキルもしくは魔法:風耐性

 ドロップ:コアクリスタル、下級ポーション(病気回復薬、経口タイプ)、赤砂糖(袋入り)、鉄の短剣、スクロール




「2層で出てくるモンスターは、風刃の魔法を使ってくるイタチだ。3体から6体の群れで行動する。風の刃は目では見えないから、そこが特に注意だな。とはいえ、気配察知や危険予測、俯瞰である程度の察知は出来るそうだ。それらのスキルは覚えてもらったけど、まだレベルが低いから、無理はしないようにな」

 俺は人形達に注意事項を伝える。

 先日、風魔法の察知にそのスキルが必要と知って、慌てて揃えたのだ。

 もっと早く風魔法の特性について調べておいて、その三つのスキルをもっと早くからみんなに覚えさせておけば良かったと、今更ながら後悔している。近接戦闘では必要ないかと判断して買わずに来たのが裏目に出た感じだ。

 いらないスキルで氣の残量を圧迫するのは勿論駄目だけど、必要なスキルはちゃんと覚えさせてやらないと、こういう時に後手に回るんだな。俺がもっとしっかり考えて取捨選択していかないと。


「イタチはキツネより動きが素早いらしい。爪と牙も鋭いそうだ。そこにも注意してくれ。あと、フィールドも初となる森林フィールドだ。黒檀は新しい罠がある可能性にも注意してくれ。……それじゃ行こうか」

 事前の注意点を全員に共有して、順番にゲートを潜る。ゲートの先には緑豊かな森林が広がっていた。まばらな林と違って、下草も伸び放題でかなり密集している。棘のある植物や低木もかなり生えているので、普通の服を着ていたら、歩くだけでも怪我をしそうだ。

 黒檀が早速、罠の発見の為に周囲をつぶさに観察している。


「……ゲート付近にはモンスターはいないようだな」

 気配察知や俯瞰で見る限り、近くにはモンスターの気配はない。

 ダンジョンでは基本、ゲートを潜って即モンスターと出会う確率は低いのだが、絶対ではないので、そこも一応気を付けておかないといけない。出会い頭に戦闘になる可能性もゼロではないのだ。


(そういえば、モンスターとの戦闘で痛み分けになって、ダメージを与えた状態で一度緊急脱出して、自分の怪我を治してからもう一度再戦する場合、同じモンスター相手であっても、その怪我は癒えてるっていうな)

 ダンジョンから出ると、ダンジョン内部で負った怪我がすべて癒えるというシステムを利用して、自分だけが有利に戦おうとしても駄目らしい。普通にレベルを上げて、一度の戦闘で敵に止めを刺せるまで強くなれという方針なのだろう。

 俺がそんなふうにちょっと脱線した考え事をしている間にも、黒檀が周辺の罠を発見してくれた。

「今までの罠に加えて、蔦で足を引っかけて、それに引っ掛かった際に木を削って尖らせて矢にしたものが飛んでくる罠か……。それに、落とし穴の底にも木の杭が仕掛けられてると。段々罠の凶悪性が増してくるな」

 黒檀に先導されて、みんなでどんな罠があるのかを確認して回る。木の矢は先端に鏃がついていないけれど、削って尖らせてあるので、それだけでも結構狂暴だ。それに落とし穴の底に仕掛けられた木の杭も、そこに落ちたらただでは済まない。

 罠の進化ぶりを目の当たりにして、ついため息が漏れた。

 この調子でどんどん設置されていく罠の種類は増えて、その凶悪性も増していくとなると、真剣に危険度が洒落にならない。モンスターとの戦闘だけでなく、罠での負傷や死亡の確率が上がっている。この先は今まで以上に警戒した方が良さそうだな。


 黒檀に罠を無効化してもらいながら、慎重に歩を進める。イタチは木にも登れるだろうから、地面だけでなく頭上にも常に警戒しないといけない。

「! 近くにいるな」

 気配察知スキルでモンスターの気配を捉えた。黒檀も気づいてそちらに誘導に行く。気配察知を覚えたばかりの人形はまだ、察知できる範囲が狭い為に気配がわからなかったようだ。やっぱり覚えるスキルを精査して、必要そうなものは更に追加していこう。

 下級の普のあたりで覚えるのを推奨されているスキルも幾つかある。それを覚えるより先に、初級で覚えるべき基本は覚えさせて、きちんと習熟させておかないと。



「来るぞ」

 みんなに警告して武器を構え直す。

 それからすぐ、黒檀が4体のイタチを引き連れて戻ってきた。甲高い警戒の鳴き声と共に、茶色の体毛をしたイタチが襲ってくる。


 イタチの大きさはキツネの三分の一程度だった。細長い胴体をしていて、普通にしていれば愛嬌のある顔立ちをいている。今は戦闘態勢に入っていて目を吊り上げ歯をむき出しにして威嚇してくるせいで、かなり狂暴な見た目になっているが。

 事前情報にあった通り、爪も牙も非常に鋭そうな見た目で、とても素早い動きをしている。山吹が振り下ろした斧をさっと回避する素早さと、しゅるりと胴体を曲げて左右にブレて狙いを定めさせない体の柔軟性には目を見張った。


「っ、魔法が来るぞ!」

 気配察知で感知した俺がみんなに警告し終わるより早く、一体のイタチから風刃が放たれる。風のゴウッとした音と共に至近距離から放たれた魔法を完全に避け切れず、紅が肩に切り傷を負った。

「紅!」

 硬質化スキルを取ってからは大きな破損を負う事もほぼなくなっていたのに、今回の魔法で受けた破損はかなり大きい。それに驚いて、俺は思わず声を上げる。あの風魔法は人形の硬質化を超える威力があるようだ。

 続いて俺の射った矢も、素早い動きで躱されてしまう。

(威力のある魔法と素早くて小柄な体躯か。油断ならない敵だな!)


 先程魔法を放ったのとは別の個体が放った魔法で、今度は山吹が腰に破損を負ってしまう。同時にまた別の個体から放たれたもう一発の魔法の方は、青藍がうまく盾で防いだ。その代わり、青藍のバックラーの表面には大きな刃の痕が残った。金属で補強した盾を破損させる程の威力だ、俺が生身に食らったら、かなりの大怪我を負いそうだ。俺は特に、魔法を放たれても察知して避けられるだけの距離を置かないといけない。

 俺と紫苑と黒檀は慎重に敵から距離を置いて、後衛として飛び道具で攻撃する。だがその殆どの攻撃は避けられてしまい、中々ダメージに繋がらなかった。

 そんな中で着実にイタチにダメージを与えているのは、青藍と紅だ。青藍は片手剣で、紅は槍でうまく相手を捉えている。特に紅の槍での攻撃は、当たれば一撃でイタチに致命傷を与えている。

「防御力は大した事ないんだな!」

 素早さがあるとはいえ防御力が低いようで、前衛の攻撃が当たれば、ほぼ確実に仕留められる。ただ、山吹は筋力特化で素早さが低く、武器も重い斧のせいか、攻撃を避けられてばかりだ。


「山吹、武器を槍に交換しろ!」

 俺はインベントリから予備の槍を出して、山吹に向かって放り投げた。この敵相手に斧は不利だと判断したのだ。山吹はイタチの攻撃に対処しつつ、槍を拾って斧を地面に軽く放った。軽い槍に武器を交換した事で動きは少しだけ早くなったが、それでもまだ空振りの方が多い。それだけイタチが素早いのだ。

 それでも何とか、全員の奮闘によって、イタチの撃退には成功した。攻撃を当てたのは主に紅と青藍、そして黒檀だった。俺と紫苑の矢は距離があるからか、避けられてしまう事が多かった。



「はあっ、2層から一気に難易度が上がったな」

 俺は額の汗を拭いながらため息をつく。

「これは、魔法感知か魔力感知みたいなスキルを取らないときついな」

 たった一戦で、山吹が二発、紅が一発の魔法を食らって破損してしまっていた。このままではヤバい。俺が食らったら尚更ヤバい。

「いったん引き上げて、ネットでスキルを調べてから、スクロール屋に買い物に行こう」

 イタチのドロップアイテムを拾い終えた後、みんなにそう宣言する。このまま戦闘を継続するには、どうにも苦戦しそうな気がしてならなかった。


(初心者ダンジョンでも、2層のネズミは素早さと小ささに苦戦したんだよな。こっちのイタチはそれに加えて、威力が強くて見えない魔法か。一筋縄ではいかないな)

 1層と2層で難易度が違い過ぎる気がする。一度引き上げて、必要なスキルを買いに向かう事にした。





 その日、スクロール屋で買ったのは、全員に「魔力感知」、「斬撃耐性」、「風耐性」。

 そして、本来なら下級の「普」辺りで氣の残量を考えながら覚えていくべきスキルの内の一つなのだけど、今回どうしてもこれだけは欲しいと判断して、「瞬発力強化」を買った。他の下級で覚えるべきスキルはまだ買わないけれど、このスキルだけは今すぐ必要と判断したのだ。

 あとは覚えていない人形向けに「精神力増強」と「剣術」も買った。精神力が上がれば集中力もアップして戦闘に有利になるかと思ったのと、素早い敵が相手の時は、長柄の武器よりも片手剣の方が有効かと思って。

 そして花琳には、一時的に速度を上げられる魔法「速花の寿ぎ」と、その範囲魔法である「速花囲の寿ぎ」の二つを覚えてもらった。また、結聖にも、同じく速度上昇の魔法である「ホーリースピード」と「エリアホーリースピード」の二つを覚えてもらった。

 片手剣も数が足りない分は武器屋で買い揃えた。

 ……これでイタチの速さに対抗できるようになるといいけど。



 俺のレベルは基礎45、人形使い45、身体強化45、知力強化45、記憶力強化44、痛覚耐性44、精神力強化44、精霊召喚44、槍術44、剛体44、体力増強44、気配察知44、危険予測44、氣力増強44、魔力増強44、俯瞰39、投擲39、剣術37、魔法耐性37、雷耐性36、弓術36、麻痺耐性36、気絶耐性36、インベントリ36、水泳35、水中呼吸35、水抵抗軽減34、平衡感覚29、直感29、嗅覚強化29、視力強化29、聴覚強化29、毒耐性29、火耐性29、氷耐性29、変温耐性29、即死耐性29、魔力感知1、斬撃耐性1、風耐性1、瞬発力強化1。


 青藍は基礎45、初期スキル(自動修復、自律行動、学習知能)45、身体強化45、剛体45、盾術45、剣術45、氣力増強44、投擲44、知力強化44、記憶力強化43、魔法耐性37、水抵抗軽減37、平衡感覚29、直感29、気配察知6、危険予測6、俯瞰6、魔力感知1、斬撃耐性1、風耐性1、瞬発力強化1、精神力増強1。

 専用スキルは硬質化44、遠隔操作12、視覚共有12。強化は筋力+3、素早さ+3、頑丈さ+1、器用さ+1。

 紅は基礎45、初期スキル(自動修復、自律行動、学習知能)45、身体強化45、剛体45。槍術45、氣力増強42、投擲42、知力強化42、記憶力強化40、剣術40、魔法耐性37、水抵抗軽減37、平衡感覚29、直感29、棒術28、気配察知6、危険予測6、俯瞰6、魔力感知1、斬撃耐性1、風耐性1、瞬発力強化1、精神力増強1。

 専用スキルは硬質化42、遠隔操作12、視覚共有12。強化は素早さ+4、筋力+3、器用さ+1。

 紫苑は基礎45、初期スキル(自動修復、自律行動、学習知能)45、身体強化45、剛体45、弓術45、氣力増強45、投擲43、知力強化41、記憶力強化41、気配察知40、俯瞰40、剣術40、魔法耐性37、水抵抗軽減37、平衡感覚29、直感29、危険予測6、魔力感知1、斬撃耐性1、風耐性1、瞬発力強化1、精神力増強1。

 専用スキルは硬質化41、遠隔操作12、視覚共有12。強化は知力+3、器用さ+3、筋力+2。

 山吹は基礎45、初期スキル(自動修復、自律行動、学習知能)45、身体強化45、剛体44、氣力増強42、斧術42、投擲42、知力強化42、記憶力強化40、魔法耐性37、水抵抗軽減37、平衡感覚29、直感29、棒術28、槍術28、気配察知6、危険予測6、俯瞰6、魔力感知1、斬撃耐性1、風耐性1、瞬発力強化1、精神力増強1、剣術1。

 専用スキルは硬質化39、遠隔操作12、視覚共有12。強化は筋力+7、素早さ+1。

 黒檀は基礎43、初期スキル(自動修復、自律行動、学習知能)43、身体強化43、剛体43、氣力増強43、投擲43、気配察知43、危険予測43、俯瞰42、知力強化42、記憶力強化42、罠感知42、罠解除42、鍵開け42、罠作成42、縄術42、隠密41、消音41、消臭41、登攀41、剣術40、魔法耐性37、水抵抗軽減37、平衡感覚29、直感29、魔力感知1、斬撃耐性1、風耐性1、瞬発力強化1、精神力増強1。

 専用スキルは硬質化39、小型化38、遠隔操作37、視覚共有37、ペイント34。強化は素早さ+3、器用さ+3、知力+2。


 炎珠は基礎45、火(+風)属性。現在は火の盾の姿をしている。

 覚えている魔法は「ファイヤーボール」「ファイヤーバレット」「ファイヤージャベリン」「ファイヤーアロー」「ファイヤー」「ファイヤーウォール」「ファイヤーエンチャント」。

 石躁は基礎45、石+土属性。現在は石の檻が半分ほど土に埋まった姿をしている。

 覚えている魔法は「ストーンウォール」「石柱撃」「石の檻」「土操作」「石化」「石化拡散」。

 花琳は基礎44、緑属性。現在は花の咲いた盆栽のような姿をしている。

 覚えている魔法は「蔦の戒め」「森の癒し」「木の癒し」「緑草の安らぎ」「治癒の緑花」「治癒の緑花畑」「干し草の守り」「眠り草の誘い」「眠り草原の誘い」「痺れ草の罠」「痺れ草原の罠」「毒草の囁き」「毒草原の囁き」「速花の寿ぎ」「速花囲の寿ぎ」。

 結聖は基礎41、聖属性。水晶玉に白い翼が生えて、天使の輪が浮かんでいる姿をしている。

 覚えている魔法は「スフィアバリア」「フィールドサークルバリア」「ヒール」「オーラヒール」「スタミナヒール」「エリアヒール」「エリアオーラヒール」「ホーリースピード」「エリアホーリースピード」。

 金煉は基礎30、金属属性。日本刀の短刀の刃渡り部分だけのような姿をしている。

 覚えている魔法は「切れ味強化」「錆び防止」「錆び落とし」「刃渡り修復」「鉱物毒」「鉱物毒拡散」。

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