第148話 イタチ対策、高校受験

 どうもうちのパーティは、小型で素早さ特化の敵が苦手な傾向らしい。

 1層は適正レベルよりかなり下だと感じたし、まるで苦戦しなかったのに、2層に入った途端にかなり苦戦して、人形が破損してしまったのだ。

 なので、風刃イタチの素早さに対抗する為に、みんなの武器を一時的に片手剣に変えてみた。とは言っても、元々片手剣を使っている青藍は勿論、俺と黒檀も武器の変更はしなかったが。

 俺が片手剣を使わないのは、痛覚があって指揮を執っている俺が近接戦闘で大怪我を負って、指揮系統が乱れるのを避ける為だ。

 そして黒檀が片手剣を使わないのは、元々の武器である投げナイフと短剣の方が、片手剣より軽い武器である為だ。

 そうして武器を変更して再び戦闘を試してみた結果、多少は空振りが減ったので、成果はあったと思う。


 ただ、人形達の破損はあまり減らなかった。至近距離からの魔法を避けるのが困難だったのだ。

 魔力感知のスキルは体内で練られる段階から魔力を感知できるので、魔法が放たれてから位置を察知する他のスキルよりも魔法を早く感知できる。なのでその分だけ、風刃を避けやすくはなった。

 それでも他の魔法と違って、魔法が不可視である事と速度が速いせいで、回避し損ねる回数も多い。

 そこで俺は黒檀以外のメンバーに、盾術スキルを覚えさせる事にした。青藍は既に覚えているから除外だけど。

 それとメンバー全員に、格闘術のスキルも覚えさせる。

 至近距離からの魔法で回避が難しい時は、せめて盾で防御して、できるだけ破損を防ぐ作戦だ。イタチとの初戦で、青藍が盾を使ってうまく防御していたのを思い出して採用する事にした。

 黒檀にだけ盾を持たせないのは、斥候として出来るだけ身軽でいて欲しい為だ。小型でも盾を携帯しているとどうしても嵩張ってしまうからな。それに黒檀は後衛なので、魔法を至近距離から発動される心配は少ない。

 格闘術の方は、主に受け身を取りやすくする為に取得した。回避の為に咄嗟に地面に転がる際には、受け身が取れた方が怪我が少なくて済むし、態勢を整えるのも早くなる。


(俺の場合は腕に装着式のクロスボウを装備してるから、手で持つタイプの盾だと攻撃ができなくなるんだよな。逆の手に小型の盾を装着する形にするか)

 それぞれの好みや事情に合わせて、武器屋で盾を購入していく。俺は装着式の小型の盾にしたし、山吹はやや大きめの四角い盾を選んだ。紅と紫苑は青藍が持っているのと同じような、丸いバックラーを選ぶ。

 魔法が盾の防御力を上回る為にどうしても破損が多くなり、補修や買い替えが多くなりそうだけど、これは必要経費だ。人形の破損は時間経過で治るとはいえ、やっぱり俺の気分的に、余計な破損は負って欲しくないからな。

(防具に関しては、人形はどうしても関節の可動が気になるし、防具屋のホルツさんも、なくていいだろって言ってたから用意しなかったけど。大丈夫かな)

 これまでは硬質化のおかげで破損がほぼなかった事もあって、人形の防具についてはなくても問題ないと考えてきた。だけど今回大きめの破損を負った事で、改めてホルツさんに人形の防具をどうするか相談したのだけど、答えは変わらずだった。

 特注で、人形の関節の可動を妨げない装備も作れない事はないけれど、値段が高くなるわりには、人形の自己修復機能つきの硬質化には及ばないと言われた。

(ここで高い費用を出して防具を用意するのも、人形達を信用してないみたいで申し訳ないし。盾と格闘術のスキルで対応できるかどうか、もう少し様子をみよう)


 そんな感じで、先日に続いて新しいスキルや装備を更に追加して、イタチとの戦闘を再開する。

 その結果、盾の破損は増えたものの人形の破損はかなり減ったので、大きく安堵した。




 イタチとの戦闘がようやく軌道に乗ってきたと思ったら、ついに一月に入ってしまった。

 流石にここからは、受験勉強に集中する。

 ダンジョン攻略は受験が終わるまで休みになってしまうが、それも仕方ない。これで俺だけ志望校に落ちたら悲惨だし。

 そうして勉強ばかりの日々を送ると、尚更ダンジョンが恋しくなる。俺は本当にダンジョン攻略が生き甲斐なのだなと改めて思ったり。


 勉強を頑張って、偏差値的には大丈夫のはずと思いつつも、ドキドキしながら2月を迎えた。

 寒い中、滑り止めの私立高校、そして本命の公立高校を立て続けに受験を受ける。

 ……結果はどちらも無事に合格していた。俺だけじゃなく、他の三人も同じように合格。これで四月からは友達みんなで同じ高校に通える事に決まった。


 そして兄も、日本で三指に入る程の有名大学に無事に合格した。

 偏差値の低めのところを受験した俺と違って、兄は正真正銘の難関突破だ。本当に凄い。

 兄と俺の合格祝いに、母がご馳走をたくさん作って、家族で盛大にお祝いした。

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