第145話 支援食材の効果とシーカー用食料品店

(RPG系のゲームでエリクサーを頻繁に使う派か使わない派かで、結構意見が分かれるよな)

 ふと、そんな事を思う。

 ゲームクリアまでエリクサーを後生大事にとっておいたって、何の役にも立たない。必要な時に適時使う為にこそあるのだ。という派閥と。

 必要になる場面まで取っておくと決めたはいいものの、その「本当に必要な場面」が、慎重にレベル上げをしながら進めるせいでついぞ訪れずに、ゲームクリア時点でエリクサーを大量に余らせる傾向の派閥だ。


(俺はどちらかというと、わりと慎重に使う派だったな……)

 前世でのゲーム履歴を思い出して遠い目になる。今世では本物のダンジョン攻略に忙しく、その手のゲームはまるでやっていないのだが。

 多少ある隙間時間も、学校の勉強やネットでの情報集めや趣味の読書に費やしているので時間が取れないというのもあるし、データだけのゲームよりも、自分自身が本当に強くなれる現実を優先してきた結果でもある。

 ……何故今こんな事を考えているかというと、下級以降で現れる食材についている特殊効果に、何となくRPGゲームの特効薬を連想したからだ。



 ネットで調べた結果分かったのは、支援効果のある食材すべてに共通するのが「基礎ステータス向上」にある事だった。

 どの食材を食べてもその効果はある程度発現するのだ。量を多く食べてもその効果は増大しないが、食べた量に応じて継続時間は長くなる。

 また、食材によって大まかに傾向が分かれており、特に重視したステータスを一時的に向上させる事も可能らしい。


 肉類→基礎ステータス向上の他、氣力回復向上、怪我回復速度向上の効果が高い。

 穀物類→基礎ステータス向上の他、滋養強壮、体力、速度向上の効果が高い。

 野菜類→基礎ステータス向上の他、魔力回復向上、各病気回復速度向上の効果が高い。

 果物類→基礎ステータス向上の他、解毒効果、知力、精神力回復向上の効果が高い。

 魚介類→基礎ステータス向上の他、破呪、破邪、各種耐性系能力向上の効果が高い。

 海藻類→基礎ステータス向上の他、精神の不調改善や気分の向上といった効果が高い。

 調味料→基礎ステータス向上の他、他の食材の効果を高める。


 級によってどれくらいパーセントが上がるのかは違うし、それぞれの食材によって更に細かな数値が違ったりはするものの、概ねこういった傾向だ。


(難しい事は考えず、ただ特殊効果のある食材を食べれば、それだけでもステータス向上の効果は得られる訳だ)

 シンプルな効果はありがたい。

 それに、支援効果で凝りたいと思えばいくらでも凝って調整もできるので、素人が難しく考えなくてもある程度効果を得られる一方で、プロが材料に凝って考え抜いて作った物は、保存も効く上に味も良く、きちんと指定された効果が見込めるのだろう。

(普段使用する分は店売りでいいな。俺は料理を面倒に感じる方だし)

 基本は店買いの方針で行く予定だ。

 とは言っても、一人暮らしした場合や、あるいはダンジョン泊をする場合などに備えて、料理の手順を覚えておかなければならないのには変わりない。

 実際に一人暮らしになったらきっと、人形に作業の殆どを任せて、自分は別の事をするようになりそう予感がするけども、それでも料理の手順や分量を肝心の俺がわかっていなければ、人形に指示する事もできないのだ。

(ほうれん草の代わりに小松菜や春菊を使うのは許容範囲かどうかとか、食べる俺自身の好みの問題もあるしな)

 人形にレシピを提示して後はお願いと任せるには、料理はちょっとばかり複雑なのだ。その上、好みは俺にしかわからない。人形に口も味覚もついていない以上、俺が指示するしかないのである。


(今度の休みにダンジョン街に保存食を買いに行こう)

 人形達や精霊達が食材による支援効果を受けられないというのもあって、俺にとって食材の支援効果はそこまで重要じゃない。その一方で、俺だけでも支援効果を受ける事で戦いが楽になるなら、それを取り入れない理由もない。

 それにこの先、基礎レベルを上げるだけでは攻略できないような敵が出てくる可能性もあるのだし、切り札は一つでも多い方がいい。




 そんな訳で休日の午前中、キセラの街の北東通りにやってきた。シーカー用食料品店は斥候用品店の隣、武器屋の向かいにあった。

「こんにちは」

「イラッシャイマセ」

 店内に入ると、明らかに機械とわかる形状と材質のロボットがいた。そして店内に流れるBGMが明らかに日本の有名ボカロ曲である。その有様にちょっと面食らった。

「……なんでボカロ?」

 他に突っ込むべき事があるのに、真っ先に出たのはそんな疑問だった。

「BGMハ、日本ノオ友達カラ、再生プレーヤート一緒ニモライマシタ。ワタシニ似合ウトノコトデス」

 独り言に近い呟きに、ロボットが流暢に答えてくれる。

「そ、そうなんですか。確かにイメージにピッタリですね」

「アリガトウゴザイマス。オ客サマノオ名前ハ? ワタシハ食品加工機械SKー6639ト申シマス。コチラデハ「ロロサク」ト呼バレテオリマス。オ友達ガツケテクレタデスヨ」

 ピロポロと電子音が鳴って、顔にあたる部分の内部が青や赤の光で点滅する。ハイテク機械な見た目そのままなのだけど、受け答えが自然すぎる。通信で別の場所に繋がっていて、そこで他の人が答えている可能性もあるけど、ダンジョン街では地球の電子機器は軒並み使えなくなるはず。単にコアクリスタルで動く機械って可能性もあるけど。


「ロロサクさんですね、俺は鳴神 鴇矢です。鴇矢と呼んでください。よろしくお願いします」

 日本でもレストランなどでロボットを見かける事があるが、このロボット……いや、このヒトは多分、そういうのとは違って、自立した生物扱いなのではないだろうか。俺が店内に入った時、BGMに合わせて鼻歌(?)らしきものを歌ったりしていたし、店内を掃除して回っていた姿は、無機物なはずなのに生き物を思わせた。動作もとても滑らかだし。

 ……機械が人間に進化する漫画とかもあるし、多分このヒトもそういう類で、れっきとしてこの街の住人の一人なのではないかな。もしかしたら違うかもしれないけど、そういう想定で接しよう。

 ……それにしてもダンジョン街にはファンタジー世界の異種族の住人だけじゃなく、SF世界のAI的な住人も住んでいるらしい。今まで全然知らなかった。


「あの、下級で使用する支援食材を使った保存食を買いたいんですけど」

「ハイ、コチラノ棚ガ下級用デス」

 案内された先には、ドライフルールやドライ野菜、ビーフジャーキーやサラミ、クッキーやシリアルバー、乾パンに似た固めの棒パン、カップに入った食品や袋に入った食品、野菜ジュースや果物ジュースなど、様々な食品が並んでいた。どれもそのまま食べられるものか温めるだけ、あるいはお湯や水を入れるだけで食べられる類のものらしい。

(レトルト食品ってこっちにも合ったんだ。カップラーメンとかはないみたいだけど)

 今まで見かけなかったので、こちらにはインスタント食品は流通していないのかと思っていたが、そんな事はなかったようだ。

 ただ、わざわざ乾燥させたりして保存期間を伸ばさなくても、謎ラップに包んであるなら品質には問題なしという事なのか、普通のお弁当類やお菓子類なんかも結構置いてある。その辺りは保存食の傾向が地球とは違う。

「ありがとうございます。……ラップに包まれてますね。これ、こちらでも入手できるんですか?」

 指し示された棚の商品は、すべて謎ラップと思しきものできっちりと包装してあった。

(これ、ダンジョンでのドロップアイテム以外にも、加工した後の食品にも使える物なんだ。なら、地球でも取り入れられれば、賞味期限とかなくなるし食品ロスも少なくなるし、すごく便利そうなのだけど)

 だが、このラップを地球の会社が取り入れているのは見た事がない。


「コチラノ品質保持ラップハ、包装スルノニダンジョン内ノ設備ガ必須ナ為、ソチラデハ使エナイデスヨ? ヨク聞カレマスケドネ」

「あ、そうなんですか」

「チナミニ、ソノ設備ヲ使ウニハ、30層ノ店舗資格ガ必要デス」

「なるほど、それで地球にはまだ普及していない訳ですか」

「ハイ。ソノヨウデス」

 ロロサクさんが俺の疑問に先回りして答えてくれた。ダンジョン内にある専用設備がないと、包装できない代物のようだ。それでは地球に持ち帰って、地球の商品を包むのには使えない。このラップは一度剥がすとすうっと空気に溶けるように消えてしまい、再利用は不可能だし。

(やっぱりみんな、このラップが地球でも使えるかどうか気になるんだな。そして勝手に「謎ラップ」って呼んでたけど、正式名称は「品質保持ラップ」なのか)

 そういう事情なら、いずれ地球からの移住者での店舗資格者がもっと増えれば、地球の製品をラップ包装するといった商売を始める人も出てきそうだ。

 品質保持ラップは便利なので、できれば早くそうなって欲しいなと願いつつ、下級食材の棚で適当に王しそうな物を見繕う。

 流石に特殊効果食材ばかり使っているだけあって、値段は普通の食品の何十倍にもなるが、普段の食事には使用せず、攻略前や攻略途中にのみ食べるものだし、自分で料理するよりは良いので、値段が高くても気にしない事にする。


「これを会計お願いします」

「ハイデス。オ買イ上ゲイタダキ、アリガトウゴザイマスー」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る