第131話 五体目の精霊とマイナースクロール祭りの提案

 季節は11月に入り、寒さが尚更身に染みるようになったので、やっぱり自分用の小型ストーブを買った。燃料がコアクリスタルで賄える環境に無害なタイプだ。今後極寒フィールドなんかに行く時などにも役立つだろう。変温耐性がもっとレベルアップすればマシになるのかもしれないけど、今はまだ体感で暑さ寒さがマシになったかどうか、自分ではわからない程度でしかない。

 10層では、壁に背をつけたままで、少しずつ横に移動して左右の先を確認した。ずっと入口付近から動けないっていうのも、やっぱりストレスになるから、少し変化をつけてみた。

 その結果、10層の地底湖フィールドはそれほど広くなさそうな事が判明した。水底を戦いながらゆっくり移動しても、数時間で左右の行き止まりまで到着したので。

(このまま壁沿いに移動してぐるりと一周してもいいんだけど、それで魔法陣が見つかるとは限らないしな)

 それに今後の為にも、壁がない状態で全方向からモンスターに襲われても対処できるようになっておきたい。やはりもっと実力をつけて強くなるのが正道だろう。




(お、レベルが上がった)

 ピラニアとの戦闘中にレベルアップの感覚がしたが、確認は後にして戦いを続ける。その後、部屋での休憩中にステータスボードを確認してみたら、精霊召喚がついに41になっていた。

「よし、これで五体目の精霊と契約できるな!」

 新たな精霊と契約できれば、また一段と戦力が強化できる。俺は早速契約ダンジョンに赴き、精霊のカケラと契約を交わした。


「よろしくな、おまえの名前は金煉(きんれん)だぞ」

 契約した精霊に呼びかけて、ステータスボードから名づけを行う。金属属性の精霊にするつもりなので、金のついた名前にした。煉は……なんとなく? 特に深い意味はなく、語感でつけた。


 その後、いつものスクロール屋に金煉用の魔法を買いに行く。

 そこでガイエンさんから、頼んでいた残りのスクロールも見つかったと言われた。

「人形専用スキルの残りも見つけたぞ」

「ありがとうございます!」

 喜びに、声がつい大きくなってしまった。

「遠隔指示」二つと「視覚共有」三つ。以前買った分も合わせて、今いる人形達全員分になる。これで声を出さない状態でも、人形達にスムーズに指示が出せるようになった。

「では、この予約していたスクロールと、金属属性の魔法の、「切れ味強化」、「錆び防止」、「刃渡り修復」、「鉱物毒生成」、「鉱物毒拡散」の魔法をお願いします」

「おう。今度の精霊は金属属性か」

「はい、そうする事にしました」



 金煉用に買ったのは、以下の六つの魔法だ。


「切れ味強化」(金属属性。刃物の切れ味を一時的に強化する魔法)

「錆び防止」(金属属性。金属の錆びを防止する効果を金属に付与する魔法)

「錆び落とし」(金属属性。金属から錆びを落とす効果のある魔法)

「刃渡り修復」(金属属性。刃物の傷を少しだけ修復する効果のある魔法)

「鉱物毒」(金属属性。対象の体内に鉱物毒を生成し、ダメージを与える単体魔法)

「鉱物毒拡散」(金属属性。対象の体内に鉱物毒を生成し、ダメージを与える範囲魔法)



 このうち、戦闘に役立つのは「切れ味強化」と「鉱物毒」と「鉱物毒拡散」の三つだけで、それも純粋な攻撃魔法ではないという構成になった。けど、それでもちゃんと役に立ってくれそうな属性を選んだつもりだ。

 ガイエンさんが奥の部屋から、俺の頼んだ魔法のスクロールを持ってきてくれる。

 会計を済ませてから店内で金煉を召喚して、金属属性の魔法をすべて覚えさせると、金煉の姿は薄いモヤから、日本刀の短刀の刃渡り部分だけのような姿になった。刃物に関係する魔法が多めだったからだろうか。精霊には実体はないから、見た目がこれでも、うっかり触って怪我する心配はない。



 買い物はこれで終わった訳だけど、いつもマイナースクロールを探してきて貰って申し訳ない思いから、ガイエンさんに「いつも本当にすみません」と改めて謝ると、「客の要望に応えるのが楽しくてやってる事だから気にすんな。それにスクロールを倉庫に溜め込んでる連中の中にも、捨てられるよりはいずれ誰かに使って欲しくて集めてるヤツや、倉庫が多すぎるから整理しろって家族からせっつかれてるヤツもいるしな。多少は減らしてやった方があいつらの為さ」と気軽に言われた。

 どうやら、同じようにスクロールをコレクションしている仲間内の人でも、それぞれ目的が異なっているらしい。

(集めるのが楽しくてコレクションしてる人ばかりじゃないのか。倉庫に積みあがってるスクロールの山を減らしたい、減ってもいいって思ってる人が複数いるのなら、何かやりようはあるかも?)

 今の発言を聞いてふと思いついた事があったので、ガイエンさんに提案してみる。


「それなら、マイナースクロール祭りなんかどうでしょう?」

「祭り? ダンジョンではどんな不人気なスクロールでも、値引きできない仕組みだぞ」

 ガイエンさんが怪訝そうな表情になる。まあ、値引きもしないのに祭りをするっていう発想には、あまりならないか。

「いえ、値引きはしなくていいんです。在庫のスクロールを台車にでも積んで纏めて持ってきて、その山の中からお客さんに自分で欲しい物を探してもらう催しでも開ければ、ガイエンさんが一人で目的の物を探さなくてもいいかなって思ったんです」

 イメージとしては値引きセール品をレジ前のカートで投げ売りするようなものだけど、ダンジョンシステムの制限で値引きはできないので、あくまでも値段は正規のままだ。

 とりあえず、衆目にマイナースクロールの存在を知って貰う機会があれば、いずれ他のお店でも取り扱いが増えたりしないだろうか。……まあそうでなくても、在庫の山を減らす機会にはなるかもしれない。

(スクロールが溜まるのが楽しくて集めてる人は参加しないだろうけど、捨てられるよりはいずれ誰かに使って欲しいと思ってる人や、在庫を減らすように家族にせっつかれてる人は、もしかしたら参加してくれるかも?)


「大規模な祭りは準備が大変そうですけど、屋台を使って小規模に実施するとか、お店の一角で開催してもいいんじゃないでしょうか」

 別に大規模な催しだけが祭りって訳じゃないんだし、開催者の負担にならない規模で実施すればいいと思う。

「お客さんの側としても、スクロールの山の中から自分で欲しい物を探すのって、宝探しみたいで楽しいかもしれません。自分であれこれ見て回ってみれば、知られていないだけで、人にとっては役に立つスキルや魔法が新たに見つかる可能性もありますし。案外、面白そうな企画として、受け入れてもらえるんじゃないかと思うんです」

 俺がそんなふうに祭りを開催する意義を語ると、ガイエンさんは考え込んだ。

「うーむ。確かに、正当に使ってもらえる機会になるなら、乗るヤツもいるかもしれんな」

 ガイエンさんは腕を組んで唸った。


「スクロールの鑑定ができる魔道具をお客さんに貸し出すサービスがあれば、お客さん自身の手で、欲しい物を探せると思うんです。……あ、でもこれだと、魔道具やスクロールを盗まれたりしないように、防犯対策がいりますね……」

 鑑定用の魔道具もスクロールも高額な品物なので、どうしても盗難対策はいるだろう。お店に被害が出たりしたら、祭りどころじゃなくなる。

「倉庫から無分別のスクロールを持ってきてそのまま積んでおくだけなら、手間もかからないかと思ったんですけど、……防犯対策に手間がかかるなら駄目ですね」

 つい思いついた勢いのままに提案してしまったけれど、もっと考えてから、負担の少ない案を練って喋れば良かった。マイナースクロールを取り扱うお店が増えればガイエンさんの負担も減るんじゃないかと思ったけど、やる事が多くなると負担が増えてしまうだけだ。

「やっぱり、今回の話はなかった事に」

 俺が案を取り下げると、ガイエンさんは「まあ待て」と片手を上げた。

「俺が一々倉庫を探さなくても、客自身に自分で欲しいモンを探させるって案は面白いと思うぞ。それに賑やかな祭りは俺も好きだしな」

 ガイエンさんが慰めてくれる。


「だが、盗んだヤツはすぐ衛兵に捕まるだろーが、それでも防犯対策はした方がいいな。衛兵に協力してもらえればそれが一番だが、どうなるかな。……まあ、まずは収集家の仲間内で話してみて、祭りの開催をする事で話が纏まるようなら、街役場に祭りの申請と、衛兵の出張申請をしてみっか。それが駄目でも、店内の片隅に在庫を積んでおくくらいなら、一人でもできるしな」

 ガイエンさんは祭りに乗り気になったようだ。あとは実際に仲間内で賛同者が集まるかどうかだが、それは話してみないとわからない。

「もし祭りが行われるようなら、俺も手伝える事は手伝います」

 実際に祭りが行われるかはまだ不透明だけど、もし開催されるなら俺もできるだけ手伝おう。




 ガイエンさんのお店を出た後は、アルドさんの武器屋に寄って武器の損傷具合を見てもらったり、ついでにシシリーさん宛ての折り紙を届けてもらうように頼んだりもした。俺、シシリーさんの住んでいる場所を知らないままなんだよな、そういえば。

 アルドさんは、エルンくんがパーティで集まる時にでもついでに持たせるから気にするなって言ってくれたけど、何度も受け渡しを頼んでしまって申し訳ない。


 その後は金煉の魔法の使い勝手を確かめる為に、7層や8層でモンスターと戦いながら、新魔法の効果を試した。

 毒も効果的だったけど、刃物の切れ味強化が地味ながら確実に効率アップに繋がっていて、かなり効果的だった。これならピラニアの殲滅速度も上がりそうだ。

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