第129話 レーベの街の斥候ギルド
雑貨屋の店内の扉を潜ると、その先のは階段になっていた。天井に魔道具のランプが埋め込んであるので、視界には困らない。そして霧除けの魔道具が設置してあるからか、外よりも空気がカラッとしている気がした。
階段を降りると、人が三、四人くらい同時に通れる道幅の地下道へ降り立った。こちらも定期的にランプが設置してある。通路のあちこちに階段に続く脇道があって、その階段の横には、どの店に通じる階段なのか、説明用の絵と文字の看板がかかっていた。
(街全体の地下に道を通してあるのか……。工事が大変そうだな)
いくら霧で視界に困るとはいえ、ここまで大規模な地下道を作るのは大変だったのではないだろうか。そうまでしてこの高原に街を作るのを選んだのは何故だろう。不思議に思いながらも、教えてもらった道順を辿る。しばらく歩くと、無事に斥候ギルドの内部に出る扉へと辿りついた。
階段を上がって扉を開くと、そこはもう斥候ギルドの建物内だ。見える位置に受付のカウンターもある。
「いらっしゃいませ、こちらのギルドのご利用は初めてでしょうか?」
受付にいた人から声を掛けられた。声を掛けてきたのは白い髪に薄い緑の目で、額に鱗が少しだけある種族の男の人だった。中性的な容貌をしており、顔だけを見ると女性と見間違いかねないような人だけど、体格はしっかり男性の体型をしている。
「はい、他の斥候ギルドで、複数のギルドを回った方が良いと勧められまして」
俺がそちらへ近づいて答えると、その人は目を細めて微笑んだ。
「そうですか。私は受付のイェーカです。基本の利用の仕方は他のギルドと変わりませんので、説明は省略しますね。こちらのギルドは他のギルドと違って、地形を利用した訓練所が多くありまして。そちらは初回の案内が必要となっています。ちょうど霧も晴れましたし、よろしければこれから案内しましょう」
イェーカさんにそう言われて窓から外を見ると、また霧が晴れて青空が見えていた。この街の天気は本当に急変しやすいようだ。
(途中でまた、霧にならないといいけど……)
ちょっと不安に思いながらも、折角案内してくれるというのだし承諾する。
「ではお願いします」
そうして、イェーカさんの案内でこのギルド特有だという地形を利用した訓練に向かった。
だがこれがまた、大変な訓練内容ばかりだった。
まず、山中にある傾斜のキツイ沢を登る訓練。これは登山に近い状態だが、水のある沢を登るので、苔なんかで足元が滑ってしまい、非常に登りにくい地形だった。大丈夫だと思って掴まった石が崩れ落ちてきたり、同じように捕まった木が、根っこごと抜けてきたりと、予想しない事でバランスを大きく崩したりもした。こういう地形にも慣れないと危ないんだな。
次に行ったのは、傾斜が先ほどよりももっとキツイ崖を登り降りする訓練だった。こちらは草木が殆ど生えておらず、掴まるものもない状態だ。そして足元は崩れやすい柔らかな土になっており、降りるのも登るのも苦労させられたし、終わる頃には土塗れになってしまった。
その次に行ったのは、岩の岸壁を登るロッククライミングの訓練だ。こちらは土ではなく、大きな岩がそのまま崖になった地形だ。そこを太く頑丈なロープと、あらかじめ足場に打たれている杭を頼りにして登って降りる訓練だ。これは土の傾斜とはまた違った感覚を要求された。
背丈の低い笹の群生の根本を、笹より背が出ないように進む訓練なんかもあった。
高地にある街だからこその実施できる訓練方法なのだろう。ここのギルド特有の訓練は、確かにシーカーに必要な要素だと思う。シーカーギルドではなく斥候ギルドの方でこういう訓練をしているのは意外だが。
そして案内された最後の訓練では、バンジージャンプが行われた。イェーカさん曰く「ダンジョン内では急に足場が崩れて、空中に投げ出されるような事も起こりますので」との事だったが、この訓練はかなり肝が冷えた。俺はかつて遊園地の乗り物でさえ酔って吐くくらいに、この手のものが全般的に苦手だったのだ。今は基礎レベルのアップで三半規管も鍛えられているとはいえ、やった事もないバンジージャンプにいきなり挑戦させられるとは思わず、躊躇してしまった。
それでも笑顔で「さあどうぞ」と背を押されて、結局はやり切ったのだけど。冷や汗と脂汗が同時に噴き出す恐ろしい体験となった。
……人形達にとってはバンジージャンプは、なんてことない訓練だったようだけどな。まあ、痛覚のない人形に、この気持ち悪さが理解できないのは当たり前だ。なので俺一人だけが、落下に対して要訓練なのである。
「……うう、気持ち悪い」
バンジージャンプの衝撃ではギリギリ吐かずに済んだけど、やっぱり気分は悪くなってしまった。急に高さが変わる感覚や、体に一気に重力がかかる感覚にはどうにも慣れない。だけどこれもダンジョンを攻略していく上で、徐々に克服していかないといけないんだろう。
バンジージャンプで案内が必要な場所は終わりとの事だったので、建物に戻ってからイェーカさんと別れて、しばらくの間は座って休憩した。
ようやく気分が落ち着いてきたので、着替えてから他の訓練施設も一通り巡ってみる。
室内の訓練施設は、概ね他のギルドと変わらない印象を受けた。確かに罠の位置などは違っていたけど、訓練の根本の部分は共通している。今後はこの三つの街のギルドを行き来して、罠の対処や特殊地形の踏破に慣れていこう。
昼食の為に家に戻り、午後からの予定を立てる。
(今日の地形踏破訓練で、足元が滑ったりしたし、登山用、戦闘用の靴を用意した方がいいかも)
普通の戦闘靴では、岩山や沢登りのような地形には、そこまで適応していなかったように感じられたのだ。それで午後からは靴屋に行って、新しい靴を買う事に決めた。
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