第125話 友達みんなで食事会 中編
「話は尽きないでしょうけど、そろそろ食事も始めましょうか。みんな、遠慮せず食べてちょうだい」
ついつい話し込んでしまっていた俺達に、シェリンさんが声を掛けてくる。
「そうだな! せっかくの料理が冷めてしまう前に、まず食べよう! ぼく達が食材ダンジョンで取ってた食材もあるんだぞ!」
「美味しそうでしょ? お肉は私達で狩ってきたのよ。牛肉や羊肉は私達の実力じゃまだ無理だったけどね。あと兎肉はそちらの国ではあまり食べないって聞いたから、鶏肉と豚肉が多めなの」
エルンくんとシシリーさんが賛成して、料理の材料を用意したと胸を張って説明を始める。
「そうだったんだ。わざわざありがとう」
確かに兎肉は日本ではそんなに食べないもんな。気を遣って俺達の食べ慣れた食材を多めに用意してくれたらしい。
「トキヤ、主役なのだし、乾杯の音頭を取れ」
アルドさんが俺にジュースの入ったコップを手渡してきて、そう言った。
「ええ!? 俺が!?」
俺が主役という意識がそもそもなかったのでびっくりしてしまう。でも、そう言えば俺の差し入れに対するお礼も兼ねているって、更科くんが言っていたっけ。友達や知り合いで集まっての食事会って認識の方が強かったのだけど。
「そうだそうだー!」
「何か一言挨拶しろ!」
悪ノリしたように陽気に騒ぐホルツさん達。何を言えばいいか迷ったけど、こうして食事会を開いて、集まってくれた人達へのお礼を言う事にした。
「えっと……、みなさん、今日は、食事会を開いてくれて、それとこうして集まってくれて、とても嬉しいです。……それじゃ、乾杯!」
精一杯、声を張り上げて乾杯する。食堂内のみんなが揃って、「乾杯!!」と歓声を上げた。
近くにいたコップをぶつけようとしてくる。あわあわしながら、どんどん周りの人とコップをぶつけて乾杯していく。
食堂のテーブルが纏めて中央に集められ、大きなテーブルクロスがかけられている。そしてその上には大量の料理が所狭しと置かれている。
ローストビーフ、ミートソーススパゲティ、鶏肉の唐揚げ。貝の網焼き、フライドポテト。トマトとブロッコリーのチーズ焼き。小魚の唐揚げ、もやしと豆とベーコンの炒め物。海老と野菜のシーザーサラダは野菜が飾り切りにしてあって華やかな見た目になっている。これはシェリンさんが俺の持ってきた差し入れの本を読んで、さっそく作ってくれたものらしい。
鳥串や豚串、牛串に羊串もある。魔道具のコンロの上で、弱火で温められている卵スープもあった。
それに、チーズや極太ウインナーを薄切りにしたものが載ったお皿に、薄切りのバケットが載った籠もある。
豚の丸焼きだけでもすごいご馳走なのに、他にもいっぱいのご馳走がテーブルに並んでいる。それに加えて、母の差し入れの料理だ。
「これからピザとグラタンも焼いてくるから、楽しみにしててね」
「こんなにテーブルに料理が載っているのに、他にもまだあるんですか!」
まだ更に料理が出てくると知って、俺はびっくりする。いくら大人数でも、これ全部は食べきれないんじゃないかな?
「まずは豚の丸焼きを、ジジムから切り分けて貰って食べてみてちょうだい。今日のメイン料理だから」
「はい、楽しみです」
主役の特権という事で、俺が真っ先に豚の丸焼きを切り分けてもらう事になった。その近くに行くとまた、こんがり焼けた表面がテラテラと光っていて美味しそうだ。匂いも一段と強くなる。
「これ、交代でずっと焼き続けるんですか?」
切り分けてもらいながら、ジジムさんに質問してみる。確か丸焼きは内側が生焼け状態だから、クルクル回しながら切り分けていって、小さくなったらまた焼いて、といった作業を繰り返すんだよな。でもそれじゃ、ジジムさん達がゆっくり料理を楽しめないんじゃないだろうか。
「いや、一時間くらい交代で焼いたら、残りは火から降ろす予定だ。余った分は後で解体して、食堂の料理にでも使う」
ジジムさんが大振りのナイフで肉に切れ込みを入れながら答えてくれた。
「そうですか。それなら良かったです。いくら交代しながらでも、何時間もずっと火の番は大変ですもんね」
途中からでも料理を食べる方に専念できるなら、食事会の時間も長めに設定してあるのだし、みんな存分に食べられるだろう。
「そうだな。それに他の料理もあるから、丸焼きだけで腹を膨らます訳にもいかんだろう」
「なるほど、それもそうですね」
かなり大きめの切り身を皿の上に載せられる。これは食べ応えがありそうだ。
俺の後にも人が並んでおり、次々と豚が切り分けられていく。やっぱりみんな、メインである豚の丸焼きからいくようだ。
「おおー、香ばしくて美味しい」
フォークでがっつり刺して一部を噛みちぎると、肉からジューシーな肉汁が溢れてくる。表面に甘辛いタレが丹念に塗ってあるようで、肉の味と合わさって絶妙な美味しさに仕上がっていた。
「大胆で豪快な料理なのに、こんなにも美味しくなるんだな」
早渡海くんも同じように驚いている。
「おお、これは美味いな!」
「おう、確かにこの肉は柔らかくて美味えな。こっちの海老を揚げたのも、いい感じだぜ」
ホルツさんとガイエンさんは、豚の丸焼きを食べ終えた後、さっそく母の差し入れの料理を食べてみている。日本料理は珍しいから気になったのだろう。
「ハンバーグとエビフライですね」
俺は彼らが食べたものの名前を教える。
「トキヤくん、これはなんていう料理なのかしら?」
シェリンさんからも質問が来た。ダンジョン街では見慣れない料理なので、気になっていたらしい。
「それはポテトサラダです。茹でて潰したじゃがいもに、野菜やハムなんかを混ぜて、マヨネーズで和えたサラダです」
「マヨネーズ? それは調味料なの?」
「はい、あちらで幅広く使われている調味料です」
どうやらこちらには、まだマヨネーズがなかったようだ。あれは万能調味料だから、一度認識されたら、こちらにも爆発的に広まりそうだ。
「……あの、気になるなら、貴方も食べてみたらどうでしょう? 全員が食事会に参加した方が、鳴神くんも楽しめると思いますし」
雪乃崎くんが、豚の丸焼きを回しているジジムさんに料理を勧めている。
「ジジムさん、どうぞー」
それを見て更科くんが、ジジムさんがガン見していた料理……コロッケを、お皿に取り分けて渡している。豚の丸焼きを回しながらでも、手元まで持って行けば、回す合間に食べられるんだな。俺も母の差し入れの料理を中心にお更に盛り付けて、ジジムさんの元へ向かった。
「すまんな、ありがとう。これは……ジャガイモが主体だな。じゃがいもを潰して、他の具材と混ぜて、衣をつけて揚げてあうのか。随分と手間のかかった料理だ。冷めていても味わい深い」
「コロッケも日本の人気料理の定番ですよねっ」
「ジジムさん、こちらもどうぞ」
「うむ、ありがとう。この白い食べ物……これがトウフか。本では読んだが、実物は初めて食べた」
俺がお皿に載せて持っていって勧めた揚げ出し豆腐を食べて、感動しているジジムさん。そうか、豆腐を食べるのはこれが初めてになるのか。
「これは衣をつけて味付けしてあります。豆腐そのものは、もっと淡泊な味わいですね」
揚げ出し豆腐はわりとしっかり味付けしてあるから、初めて豆腐を食べる人にも食べやすいと思って、この料理にしたんだろう。母も色々と考えて差し入れを作ってくれているな。
「どの料理も美味しいっ。鳴神くんのお母さんは料理上手だねー」
更科くんに母の料理の腕を褒められた。
「母は料理教室の助手をやってるし、調理師免許も持ってるから」
「そうだったんだ。どの料理も美味しいし見た目も綺麗だと思ったら、プロだったんだ」
横で聞いていた雪乃崎くんが感心している。
「プロ、なのかな? どこからが料理のプロって言うのかって、よくわかんないよね。まあ、俺も母の料理は美味しいと思うよ」
調理師免許を持っていたら、その時点でプロなのかな? それとも料理本とかを出すくらい有名になったらプロなのかな? 料理ってやろうと思えば誰でも始められるものだから、なんとなくプロの線引きが曖昧な気がする。
「毎日このレベルの料理が食べられるって、鳴神くんが羨ましいね」
それは確かに、言われてみればそうかも。毎日の食事が美味しく食べられるのって、贅沢な話だな。母さんに感謝しないと。
トマトとチーズとバジルが載った薄いタイプのピザと、ホワイトソースのグラタンが、熱々の状態で運ばれてくる。運んでくるのはシェリンさん、シギさん、ドモロさんだ。
「このグラタンは、トキヤくんに貰った料理の本を見て、ジジムが作ったのよ。ピザもグラタンもお替りはまだまだあるから、遠慮なく言ってね」
食堂に響き渡る声で、シェリンさんが宣言する。
この二つは焼きたて熱々の状態で食べる為に、あえて後出しにしたのだろう。俺もグラタンの小皿を貰って、まだグツグツいっているグラタンをスプーンで掬いを、ふーふーと覚ましながら口にする。小さめの海老がプリッとしていて歯ごたえが良くて美味しかった。
「すごく美味しくできていますね。具の海老もキノコも美味しいです」
「このグラタンっていう料理、チーズ焼きに少し似ているけど、それよりも手が込んでいるし、色んな具材を入れられるのね。色々と組み合わせを試している最中だけど、どれも面白いわ」
チーズ焼きは野菜をクリームに浸してチーズを乗せて焼く事もあるそうで、グラタンはそれと少し似ているとの事だ。でも、先に具材に一度火を通してから、クリームにとろみをつけてオーブンで焼くグラタンとは、やはり別物になるようだ。
グラタンの次にピザも食べてみる。こちらはアメリカ方式のもっちりと分厚い生地ではなく、イタリア方式のパリッとした薄い生地で作られていた。トマトが甘酸っぱくてさっぱりとしていて、チーズやバジルとマッチしていて、何枚でも食べられそうなシンプルながら美味しい味付けだった。
ご馳走を続けてあれこれ食べていると、すぐにお腹がいっぱいになってしまう。一度食休めに冷たいお茶でも飲むかと、端っこに用意されているテーブルの方に寄って行ったら、エルンくんも寄ってきた。
「トキヤ、こっちの薄切りのバケットに、まずこの特製バターを塗って、ウインナーの薄切りとチーズとトマトの輪切りを乗せて、この魔道具でこんがり焼くと美味しいんだぞ」
どうやら俺にお勧めの食べ方を教える為に、わざわざこっちに来てくれたようだ。そしてこのテーブルの上のウインナーやチーズなどの食材は、そのまま食べるものではなく、パンと一緒に載せて焼いて食べるものらしい。
この四角い、中に入れて焼くタイプの魔道具は、トースターみたいなものなのかな?
「ありがとうエルンくん、試してみるよ。それにしても、エルンくんは料理できるんだ?」
折角なので、教えてもらった通りにパンにバターを塗って具材を乗せて、魔道具にセットする。
彼の兄のアルドさんが、インスタントラーメンでさえ食堂に持って行って作ってもらうくらい、料理の腕が壊滅的なせいで、エルンくんがトースターで焼くだけのものとはいえ、料理ができる事にほっとする。
「兄上の料理の腕は壊滅的だが、ぼくはバケットを温めるくらいなら問題なくできるぞ。まあ、あまり手の込んだ料理はできないが……」
「それでも、料理ができるだけいいんじゃないかな」
ジュースのコップは乾杯で飲み終わった後に、使い終わった食器を置く為のテーブルスペースに置いてきていたので、新しいコップを手に取って、冷えたお茶を注ぐ。茶色いお茶は麦茶やほうじ茶に似ている味がした。
話している間にバケットの上のチーズが蕩けてきて、いい感じになってきたので、火傷に気を付けながら取り出して、はくりと食べてみる。
「うん、美味しいね。これ、バターにニンニクとかパセリとか、色々混ざってるのかな」
「そうだ、シェリンさんの特製バターは風味が良くて、この組み合わせが特に美味しくなるんだ」
そんな感じに気軽な立食形式で、あっちに行っては食べて、こっちに行っては人と話しをして……といった感じで、食事会は和やかに進んだ。
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