第111話 修学旅行の班分け
今日は授業のうちの一教科分が、通常授業ではなくなっていた。
うちの中学では9月後半に修学旅行があるのだ。そして今日は、その修学旅行における班分けを決める日だそうだ。
修学旅行の大半の日程はクラスごとに纏まって行動するのだけど、半日程度、班での自由行動時間が取られていて、その間一緒に行動するのは、同じクラスの中で有志で組まないといけない。
これは一人での行動は認められず、4人以上6人以下で組む決まりだそうだ。
(俺、そういうの苦手なんだよな。「仲の良い友達と組んでください」って)
そもそもクラスに親しい人が殆どいないし、普段あまり話さない相手と否応なしに組まないといけないからな。
小学校の時の修学旅行は悲惨だった。誰も親しい友達がいなかった俺は、班分けで一人だけ余り物になり、最終的に先生の指示で、少数だった班に無理矢理組み込まれたのだ。
ろくに話した事もないようなクラスメイトの中に放り込まれ、旅行中は始終周りを窺って、オロオロしながら過ごした。当然、疲れただけで楽しい思い出なんかひとつも残ってない。
そんな小学校時代の修学旅行に比べれば、今回は同じクラスに友達が一人いる分だけ、ずっとマシな状況だ。できれば雪乃崎くんや更科くんとも同じクラスだったら更に良かったのだけど。
「鳴神、班を組むか」
「うん、よろしく。早渡海くん」
早渡海くんと同じ班を組むところまではすんなり決まった。だけどその後は、他の人はどうしようか、となってしまう。4人以上6人以下。つまり最低あと二人は誰かを入れないといけない。
「あ、鳴神……だっけ? そっち二人?」
どうしようかと悩んでいるところに、ちょうど声を掛けてきたクラスメイトがいた。俺はその相手を見て驚く。一応は話した事がある相手だったからだ。
「仁良坂くん。うん、二人だけ」
一年の時も同じクラスで、一度臨時のパーティに誘われた事がある仁良坂くんだった。彼はもう一人のクラスメイトを背後に連れていた。
「俺らも二人だからさ、班組まないか?」
「そうだね。他は大体、もう組み終わってるみたいだね。早渡海くん、それでいい?」
答えながら教室の中を見回すと、クラス内はもう班分けがほぼ終わっている雰囲気だった。ここで断る選択肢はないようだ。
「ああ、構わない」
早渡海くんは淡々と答える。彼はいつも動じないな。誰と組もうが萎縮しない感じがする。
(それにしても意外だな。仁良坂くんは明るい雰囲気な人だから、このクラスにも友達が多いみたいだし、彼が余るとは思わなかった)
「じゃあ班結成って事で、一応自己紹介からはじめよっか。俺は仁良坂 夢路(にらさか ゆめじ)。ダンジョン攻略を一緒にしてるパーティメンバーは、水上以外とはクラスが別れちゃってさ。クラスの友達連中はさっさと別のヤツと組んじゃうし、どーしよっかって思ってたトコなんだ。鳴神と早渡海とはあんま喋った事はないけど、これを機によろしくな」
彼はどうやら一年の時にクラスメイトと組んだパーティを、そのまま継続しているようだ。軽いノリで組んだって感じだったのにそれをそのまま続けられるなんて、社交性が高いな。
「オレは水上 基(みかみ もとい)。仁良坂とはダンジョン攻略のパーティメンバーをやってる。そんで早渡海の事は、小学校が一緒で、剣道の道場も一緒だから知ってる。そいつの無愛想さも承知してる。鳴神とは、1年の時も同じクラスだったな。これまではあんま話した事はなかったけど。……まあ、急増メンツでうまく行くかわかんないけど、よろしく頼むな」
水上くんが自己紹介を続ける。そうか、彼が早渡海くんの知り合いだったのもあって、俺達に声を掛けてきたのかも。早渡海くんの性格も把握してるみたいだし、トラブルになる心配はなさそうかな?
「俺は早渡海 神琉。鳴神とは友人で、水上とは顔見知りだ。仁良坂とは去年同じクラスだったな。よろしく頼む」
二人の自己紹介の後、早渡海くんがそう続けた。どうやら早渡海くんは去年、仁良坂くんと同じクラスだったようだ。
「俺は鳴神 鴇矢。早渡海くんとは、彼の幼馴染を通じて友達になったんだ。仁良坂くんと水上くんとはあんまり話した事ないけど、修学旅行の期間、よろしくね」
俺達の自己紹介は、前の二人に比べて明らかに短いな。このメンバーでうまくやれるか不安だけど、やるしかない。
班ごとの自由行動でどこに行くかを四人で話し合って決めながら、俺はひっそりと、慣れない人相手でも頑張ろうと決意を固めた。
「え!? 二人とも今、ソロで10層なの!?」
「すごいな、ペース早いじゃん」
自由行動での行き先を決めた後の雑談で、今初心者ダンジョンのどの層を攻略中かという話題になった。
俺と早渡海くんは二人とも、ちょうど10層に入ったばかりだった。仁良坂くんや水上くんは、その事にかなり驚いている。
「俺ら、まだ8層だよ」
「ヒツジの雷撃や雷体質がキツくってさ。どうやって倒したんだ?」
彼らは同じパーティなので、当然同じ層だ。一年の時と同じメンバーでそのまま続いているのなら、四人パーティだろうか。
「俺も早渡海くんも人形使いだからかな? ヒツジの魔法は、人形には殆ど効果がなかったんだ」
ヒツジの攻略方法について訊かれたので、俺が代表して答える。早渡海くんの場合は剣道と柔道の習い事もしているので、人形だけが理由じゃないかもしれない。
「え、そうなん? 人形って最初弱いって聞いたから取らなかったけど、成長すると強くなんの?」
「成長すれば頼もしくなる」
「そうだね。今はすごく頼もしく感じるよ。……まあ、レベルを上げて成長するまでは頼りないのも本当だし、スキルを覚えさせるのに、かなりお金もかかるけど」
俺達が揃って頷くと、「ほへー」と、仁良坂くんは感心したうに声を漏らした。
「人形以外で、8層攻略に役立ったのは何かあるか?」
水上くんにそう問われ、俺は首を傾げた。
「耐性系は取ったよ。魔法耐性、雷耐性、麻痺耐性、気絶耐性の四つだったかな。……その他は、衝撃を和らげてくれる緑魔法も使ったよ」
当時を思い出しながら、取得した耐性スキルや魔法を答える。
「そんなにいるもんなんだ!?」
仁良坂くんが目を見開いて驚いた。
「鳴神は一度、ヒツジ相手に気絶したと言っていたか。それで安全の為に気絶耐性も取ったと言っていたな」
早渡海くんが俺の説明を補足してくれる。……そういえばそうだった。気絶耐性は、俺がヒツジの雷撃に直撃して気絶した経緯から、念の為に取ったんだっけ。
「そうだった。ネットで推奨されてるのは、魔法耐性と雷耐性と麻痺耐性の三つだったかも」
「気絶か……。結構、危険な目に合ってんだな」
水上くんが悩まし気に唸っている。
「モンスター相手だし、やっぱり危険はあるから。俺が気絶した時は、草で足を滑らせて、雷撃が直撃しちゃったっていうミスだったけど」
「そっかー。ミスは誰にでもあるもんな。俺らもやっぱ耐性系、もっと取った方がいいかもな」
「そうだな。またみんなで集まって、話し合ってみるか」
仁良坂くんと水上くんが、顔を見合わせて頷いている。
そんな感じで残り時間は始終、ダンジョン関連の話ばかりしていた。
(とりあえず、ダンジョンって共通点がある分、少しは話しやすくて良かった……)
話題が続かず気まずいって感じにならなくて済んだ事に、俺は密かに安堵した。
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