第110話 食事会の誘い、通常ダンジョンの仕様に気づく
夏休みが終わった。今日からまた学校である。
始業式が終わってHRも終わった後で、いつもの4人で集まる。更科くんに話があると言われて、明日のお昼まで待たずに集合したのだ。
「久しぶりーって程でもないね?」
「まあ、先日も水中訓練で顔は合わせたからな」
「でも、学校でこうして会うのは久しぶりだね」
そんな感じで挨拶を交わし、早速本題に。
「あのね、エルンとシシリーが、鳴神くんにぜひ、差し入れのお礼をしたいんだって。あと、俺達の友達にも会ってみたいって」
どうやら、こちらの友達とあちらの友達が一同に会する機会を作りたいらしい。
「ええ? そんな、お礼がいるような豪華なものを贈った訳じゃないんだけど」
単に友達が集まる機会を作るだけならともかく、俺へのお礼がメインみたいに言われると、微妙に気後れしてしまう。
「二人とも、すごく喜んでたよ。それでジジムさんの食堂を貸し切りにして食事会を開きたいんだって。ジジムさん達も鳴神くんに差し入れを貰って、ぜひそのお礼がしたいって言ってたから、場所を提供してくれる事になったんだって。その機会にできればカミルや雪乃崎くんも一緒に参加して欲しいんだけど、どうかな? 俺のパーティメンバーも紹介したかったし」
食堂の貸し切りとは、かなり大がかりな食事会だな。俺へのお礼だけなら逆に大仰すぎるって、申し訳なくなっていたかも。でも友達と集まるのがメインなら、人が大勢になるんだろうし、借り切りもあり……かな?
「いつの予定だ?」
早渡海くんが更科くんに質問する。
「できればみんな一緒に集まれる日がいいから、具体的な日付はまだ決めてないんだ。みんなの都合次第だね。早ければ今月中、都合が悪ければ来月か再来月でも」
日付の予定はまだ立てていないらしい。みんなが参加できる日に予定を立てたいようだ。
「僕がお邪魔していいのかな? 鳴神くんへのお礼の食事会でしょ?」
雪乃崎くんがちょっと躊躇するように言う。
「雪乃崎くんにも、ぜひ参加して欲しいんだ。みんなに会ってみたいっていう要望もあるし、こっちとあっちの友達みんなで一緒に集まって食事してっていうのも楽しいと思うんだ」
「そうだね、せっかくの機会だし、雪乃崎くんさえよければ、俺も参加して欲しいな」
俺からも重ねて誘う。思えば雪乃崎くんとは、これまで一緒にキセラの街に行った事がない。オルブの街で水中訓練は一緒にしたけど。
「実は僕、9月いっぱいは親戚と臨時にパーティ組んで、休日にダンジョンに潜るのを約束しちゃってるんだ。だから10月に入ってからでもいいかな? この前親戚の家に手伝いに行った時、7層で手も足も出ないから、レベルが上がるまでアドバイスと手助けが欲しいって、そこの子達に頼まれちゃってさ。僕自身がようやく7層に慣れてきたばかりだから、そんなに手助けできるかわからないんだけど、それでも先に約束しちゃったから、蔑ろにしたくないんだ」
夏休みの時に言っていた、ダンジョン固有の野菜や果物を育てている親戚の事だろう。雪乃崎くんはそちらに手伝いに行った際に、そこの子供達に臨時パーティでの助っ人を頼まれていたらしい。その先約があるから余計、躊躇していたのかも。
「それなら、10月に入ってからで!」
特に急ぐ必要もないからか、更科くんは即決して雪乃崎くんに答えている。やっぱりみんなが一度に集まる機会を作りたいっていう方がメインっぽいな。
「10月の半ばくらいに予定を立てればいいんじゃないかな? 9月は修学旅行もあるし、10月の早いうちは文化祭もあるし、その期間が終わってからの方が気楽だと思うし」
俺も更科くんを援護する。どうせみんなで集まる機会なら、雪乃崎くんにもぜひ参加して欲しい。本人が嫌がっているなら無理にとは言わないけど、別にそういう様子でもないようだし。
「じゃあ、10月に入ってからでいいなら、僕も参加させてもらうよ」
雪乃崎くんも俺達の勧めに頷いてくれた。
「じゃあ、10月の第3日曜日の、午前11時から午後3時くらいでどう?」
更科くんが10月の半ば頃で予定を立てる。エルンくんやシシリーさんの予定を先に確認しなくていいのか心配になったが、それくらい先ならまだ予定は入っていないと見当をつけているのか、それとも食事会開催の為に、あらかじめ彼らの予定を把握しているのか。まあ、パーティメンバーである更科くんが予定を整しているのだから、多分大丈夫なのだろう。
「それなら大丈夫」
「問題ない」
「俺も大丈夫」
俺達三人が頷いた事で、計画は本決まりになったようだ。
「良かった! じゃあその予定で計画立てるから、参加よろしくね!」
更科くんがとても嬉しそうに手を叩いて喜んだ。
そんな感じで10月半ば頃に、大勢で集まっての食事会が予定された。
午後からは昨日に引き続き、10層でピラニアとの戦闘だ。
今日の朝、起きて日課のマラソンに行く前に、少し筋肉痛になっているのに気づいたから、念入りにストレッチしてからマラソンに行った。やはり水中で重しをつけての戦闘となると、いつもとは違う筋肉を使うようだ。なので今日もあまり一度に長時間は潜らないようにして、休憩を長めに設けて、体の様子を見ながら挑む予定だ。
(水中で戦闘中に体が痙攣するとか、洒落にならないからな。気を付けないと)
慣れない内は慎重に慎重を重ねるくらいでいかないと、思わぬ事故が発生するからな。肝に銘じておかないと。
ダンジョンに潜る前のストレッチも念入りに熟し、人形達と共に、気合を入れてゲートを潜った。
(あれ? 特殊ダンジョンの地図はあるのに、通常ダンジョンの地図って全然ないな?)
夜、日課の勉強を終えてからネットでダンジョン関連のサイトを見ていたところ、ふと、通常ダンジョンの地図がまるでない事に気づいた。
そこで詳しく検索して調べてみたところ、今まで気づかなかった事実を知った。
俺はずっと、通常ダンジョンは、まったく同じ作りのものが個人やパーティ用に別々にコピーされて、同じ作りの別空間を攻略する仕様だと思っていた。
だけど改めて調べてみたところ、別空間を攻略するのはその通りだったけど、どうやら通常ダンジョンは同じように見えて、細かいところが違うらしい。
建物内の通路の道順がそれぞれ違ったり、次の層へ行く為の階段の方角や位置が別々であったり、草原にたまにある木の位置が違ったりするらしい。
(……あー、あらかじめ地図を見てショートカットする人用の、ズル防止機能って事?)
全部が同じでない理由に、なんとなく見当がついた。
フィールドの広さは同じだし、モンスターの種類も強さも出現頻度も同じだし、ドロップアイテムも同じだそうだが、丸っきり同じフィールドがそのままコピーされている訳じゃなくて、個別にランダム生成されているようだ。
下級から現れる宝箱や罠などの位置も変わるようだ。
また、一度その層をクリアした人が未クリアの人とパーティを組んで再挑戦する場合、未クリアの人用に新たにダンジョンが生成され直すとか、未クリア同士でパーティを組んだ場合は、後から挑戦した人の方に合わされるとか、色々と細かい決まりがあるようだ。
(へえ、実は通常ダンジョンって、こんな仕様になってたんだ)
俺はこれまで、ダンジョン探索も次の層への階段探しも、自分なりに楽しんでやっていたから、ネットでダンジョン内部の地図をあらかじめ探そうとした事がなくて、ずっとこの仕様を知らずに勘違いしたままだった。
地図描きはあまり自信がないから、そのうち人形が増えたら地図を描くマッパーを任せたいとは思ってるけど、探索そのものはダンジョン攻略の楽しみのひとつと捉えていたのだ。
(でもそうか、常に最短でショートカットする人ばかりになるのは、ダンジョン運営サイドとしては、歓迎してないって事か)
まあ、特殊ダンジョンの方は地形が変わったり迷路の道順が変わったりはしないので、地図も罠の位置もネットで出回っているし、多少のショートカットはダンジョン運営サイドも認めているのだろう。
ただし宝箱は、同じ場所に連続では出ない。一度箱の中身が取られると箱ごと消えて、また一定時間経つと同じ層のどこかに設置される仕組みだという。
(俺は人とモンスターを取り合うとか、宝箱を巡って競争するとか苦手だから、特殊ダンジョンには挑んだ事がないんだよな)
特殊ダンジョンの1層にある街には良く訪れているが、街の外に出てモンスターと戦ったり、2層以降へ行ったりした事はない。
(2層への階段は確か、どの特殊ダンジョンでも、「街」あるいは「街1」の近くにあるっていう決まりなんだっけ)
特殊ダンジョンの1層で街を作る際には、2層へ降りる階段のある場所の近くに「最初の街」を作る決まりがあるようだ。でも2層へ行く階段はひとつじゃなく、他にも各地に散らばっているとか。
降りる階段の場所によって、2層のどこに繋がっているかが違うから、あえて街の近くの階段ではなく、別の場所の階段を探す人もいるという。
特殊ダンジョンの仕様は、人と臨時でパーティを組んだり助け合ったりという醍醐味もあるというけど、俺にはすごくハードルが高い。多分俺は、今後も必要がなければ、ずっと通常ダンジョンにばかり潜るんじゃないかな。
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