第106話 友達とシーカーギルドへ行ってみる
*お知らせ
以前、101話で石躁に覚えさせた新魔法「鉱石崩壊」は、設定的に石属性だけでなく、金属属性も含んでいると気づきました。
主人公はネットで属性をあらかじめ調べていたのに、作者の勘違いで石躁の属性が3属性になって魔法の威力が下がってしまうのは気の毒です。
それと、ゴーレムとアンデッドは下級の中でも「普」の難易度のダンジョンであって、下級の「易」の難易度のダンジョンを攻略した後でないと出てこないので、そんなに先にしか出てこないモンスター用の魔法を一足飛びに買おうとするのを、ガイエンさんが忠告して止めないのも不自然かと思い至ったので、石躁の新魔法と共に、結聖の新魔法も削る事にしました。
石躁と結聖の分は、新魔法の購入自体が「なかった事」に改稿されます。作者の想定不足で一度書いた内容を改訂する事になってしまいまして申し訳ありませんが、ご了承ください。
「俺が前に講習に行ったシーカーギルドは東京のウテナの街で、それなりに人がいたよ」
昼食を食べ終えてから、揃ってシーカーギルドに移動しようとなった時、どの街のギルドに行くかという話になった。今いる街はオルブだけど、ここの街のギルドはそもそも場所を知らないんだよな。
「俺が地図を貰ったのはキセラの街のシーカーギルドで、あんまり人が行かなくて空いているらしいって教えてもらったよ」
俺はできれば、いつ行っても人混みがすごいというウテナの街は避けたい気持ちだ。俺は小さい頃から、人混みがどうにも苦手なんだよな。祭りの時は雰囲気もあってそれなりに楽しめたけど、やっぱり後でどっと疲れたし。
「じゃあ、キセラの街の方がいいね」
「そうだな」
「そうしようか」
みんなの意見が一致したので、俺が貰った地図を参考に、まずキセラの街の第三街区 中央通り 西公園ゲートまで移動する。その後、みんなで地図を見ながら歩いて10分弱のところで、シーカーギルドの建物についた。
「ここがシーカーギルドだね。ほら、看板が「スライムと戦う人の絵」。あれがシーカーギルドの目印だよ」
更科くんが木の看板を指さして教えてくれる。
「あの丸いの、スライムなんだ……」
多分、意図的に最弱スライムなのだろう。本当に初心者用のギルドなんだな。
4階建ての建物の中に入る。中は斥候ギルドと似た構成で、受付用のカウンターがあって、その奥に続き部屋がある構造になっていた。
……ところで、俺はそのカウンターで受付に座っている竜人族の人に見覚えがあった。
「あれ? 確か、訓練所で受付をしていた……」
つい声に出して呟いてしまい、その声が相手にも届いた。こちらを見たその人が、俺の顔を見て納得して頷く。
「ああ、人形と一緒に、何度も訓練所に通ってきている子だな。俺はエッガボルブ。シーカーギルドの職員だ。あそこの訓練所はシーカーギルド所有の訓練所を、一般公開しているんだ。それであちらの受付をやっている日もある」
何故、訓練所の受付にいたのかを説明してくれ、そして自己紹介もしてくれた。彼はエッガボルブさんというのか。そういえば、いつも行く訓練所からシーカーギルドの建物までは、かなり距離が近い。あそこはシーカーギルドの所有だったのか。
「そうだったんですか。いつもお世話になってます。改めまして、俺は鳴神 鴇矢といいます」
俺が自己紹介すると、更科くん達も続いて名乗った。
「そうか、今日はシーカーギルドに何の用だ?」
「できれば、ダンジョンの歩き方講習と戦闘講習が受けたくて。講習はいつやってるんでしょうか?」
用事を問われて、道中に受けられれば受けたいと話していた講習の名を上げる。更科くんは一度、歩き方講習を受けているけれど、どうせならみんなと一緒にもう一度受けてもいいと言っていたのだ。
「講習か。前は決まった講習日があったんだが、最近は利用客が少なく、特定の講習日は設けていないんだ。その代わり、希望者が訪れた時に手が空いている職員がいれば、すぐに講習をやる。忙しい時は予約制になるが、そこまで忙しい時も滅多にないな。今日は手が空いているから、これからどうだ? 俺で良ければその二つの講習を受け持とう」
エッガボルブさんが、そう説明してくれた。……それにしても、決まった曜日に講習をする必要がないくらい、ここのシーカーギルドは暇しているのか。どうやら予想以上に人が来ていないようだ。
「わあ、いいんですか? ありがとうございます!」
更科くんが真っ先に喜びの声を上げた。
「ありがとうございます」
「お願いします」
俺達も一緒に、講習を受ける事に同意してお礼を言う。
「ではステータスボードを出してくれ。初回は登録と受付だ。次回からも受付にはステータスボードを使う。訓練施設の利用は、屋内一部屋なら一時間200DG。屋外1区画なら1時間100DGとなる。訓練場の利用だけなら、シーカーギルドで受付をせずとも、直接そちらで受付する事も可能だ。講習は「ダンジョンの基本の歩き方講習」と「基本の戦闘講習」と「ダンジョン内キャンプ講習」の三種類だ。講習の料金はどれも、一人70DGになる。こちらは人形も一体一人分として料金が発生するので注意してくれ。何か質問はあるか? なければ一人ずつ受付を行う」
エッガボルブさんがシーカーギルドの主な利用方法とその料金を説明してくれた。その後、一人ずつ登録と受付を行う。俺の番の時、一瞬だけ肩がピクリと動いた気がしたが、彼は何も言わず、表情も変えずに受付作業を終えた。
(マレハさんから既に、「人がいることろで功績を口に出して言わない」って話が回ってるのかも)
まあ、ここでそれを聞く訳にはいかないので、俺も気にしないようにしてスルーする。
その後まずは、案内された二階のゲートから初心者ダンジョンの1層に飛んで、現地で「ダンジョンの基本の歩き方講習」を受けた。
モンスターに挟み撃ちされないよう、前後に気を付ける事。足元や天井や壁など、全体を見て違和感があったら罠や隠し扉の可能性もあるので注意して見る事。怪我をした場合は無理をせず一度撤退するか、ポーションで治す事など、ごく基本の注意事項をともにダンジョン内を歩いて、その講習は終わった。
ネットでの評判がいまいちなのもあって、どんなものかと思っていたけど、どうやら本当に基礎を学ぶ講座のようだ。既に初心者ダンジョンの下の方まで降りてからだと、学べる事は確かにあまりないと言える。それこそ、一度もダンジョンで戦った事のない人向けの講習のようだ。
その後、今度はキセラの街に戻って来て、訓練施設に移動して、「基本の戦闘講習」を受ける事になった。
戦闘は、パーティごとに分かれてやる事になった。俺は人形達と、雪乃崎くんと更科くんは一対一で、早渡海くんは彼と人形達とで、という組み合わせだ。連携も含めて、できるだけ普段の戦闘に近い形で講習を受けた方が効果的だかららしい。
雪乃崎くんの講習を見学して、俺の番が来たので、人形達と一緒に木製の武器でエッガボルブさんと対峙する。思い切って全力で攻め込むも、俺達の攻撃はすべて躱されたりいなされたりで、まともに当たらなかった。
エッガボルブさんにとっては、俺達のような初心者ダンジョンに通っている新人の相手は、赤子の手を捻るようなもののようだ。彼一人に対して俺と人形達全員でかかっていっているのに、ちっとも相手にならない。
「足さばきが悪い、無駄な動きが多すぎる」
「攻撃を大きく避けすぎて、次の動作に移るのが遅くなっている」
「態勢を崩した後、戻すのに時間をかけすぎだ。もっと素早く動くよう意識しろ」
「そこの斧使い、立ち位置をもっと気をつけろ。仲間の射線の邪魔になっているぞ」
「顔の近くに攻撃を受けそうだからといって、目を瞑るな。見ないと避ける事もできないぞ」
「痛覚がないとはいえ、攻撃を受ける前提で動くな。破損は次の行動の妨げになる」
俺にも人形達にも、注意点が次々と飛んでくる。
俺の時だけでなく、雪乃崎くんの番でも更科くんの番でも、同じように注意点の嵐だった。
一方、早渡海くんの場合は細かい注意点がいくつかあっただけで、逆に褒められる要素の方が多かった。
「随分、基礎がしっかりしているな。武術を習っているのだな」
「はい。幼少の頃より、剣道と柔道を習ってきています」
言葉少なに打ち合っているが、二人ともなんだか満足げだ。とりあえず、レベルが違うのだけは見て取れる。二人の戦いを見て参考にするにも、何をどう参考にしたらいいのかすらわからない状態だ。
一組あたり10分程度の戦闘を3巡繰り返して、戦闘の講習は終わった。
基本的な戦闘を習えるという講習は、俺にも人形達にもすごく為になったと思う。俺はこれまで、基本がわからないまま、ずっと独学でやってきた訳だし、こうしてきちんと基礎を習えるのはありがたい。
それに俺だけでなく、人形達にもちゃんと助言しながら戦闘訓練をつけてくれるのが、すごくありがたかった。直すべきところを助言してもらえるので、人形達にとってもすごく為になっている。
「この講習のみ、基本というには高度な気がしますが」
「まあ、他の講習と違って、多少は相手のレベルに合わせて調整できるからな」
早渡海くんの疑問に、エッガボルブさんがそう答えていた。
(そっか、個人に合わせて指導してもらえるから、余計に身になるのか)
他の街のシーカーギルドの場合、混んでいれば個人に合わせた戦闘講習は受けられないのかもしれない。手隙なここのギルドだからこそ、こうしてじっくり手合わせしてもらえたのかも。
「また戦闘講習を受けに来てもいいでしょうか」
「勿論だ。誰か手が空いている者がいれば、いつでも講習をするぞ」
俺が訊ねると、エッガボルブさんはあっさりと頷いてくれた。どうやら、戦闘講習は何度受けに来てもいいようだ。それなら絶対にまた来よう。
「ありがとうございます。また来ます」
俺の言葉に、雪乃崎くんも熱心に頷いていた。彼もまた戦闘講習を受けに来るつもりのようだ。
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