第102話 斥候ギルドでマレハさんと話をする

 今日は午前中、人形達全員と共に、斥候ギルドで講習を受ける事にした。

 他の街の斥候ギルドにもいずれは行ってみたいと思ってるけど、それはまたの機会にする。 時間に余裕がある時に行って、少しゆっくりと、初めての街の探索もしてみたい気分だから。

 斥候ギルドで、受付のマレハさんに聞いてみたところ、講習には罠解除講習と鍵開け講習の二種類があるそうだ。また、別の街のギルドではあえて別の曜日に講習を開催しているので、ここのギルドの開催曜日に来れない場合は、他のギルドに行くと良いとも教えてもらった。

 斥候ギルドの受付では、手続きにステータスボードの提示が求められる。なので俺はあらかじめ周囲に他の人がいないのを確認してから、マレハさんにステータスボードを渡した。

「おや。トキヤ様が、あちらの本の導入の加速に一役買って下さったのですか」

 ステータスボードの功績欄が目に入ったらしく、マレハさんがそう言った。事前にその可能性を想定していたにも関わらず、ズバリ功績の話をされた事にびっくりして、俺は飛び上がってしまった。

 近くに会話を聞いている人がいないか、改めて周囲を見渡す。幸い先ほどと変わらず、俺と人形達以外には近くにいるお客さんはいなくって、ほっと安堵の息を漏らす。

(先に誰もいないのを確認してたのに、つい焦っちゃったな)


「どうなさいました?」

 マレハさんが方眉を器用に跳ね上げて、怪訝そうな表情でこちらに質問してくる。

「あ、その。実はですね」

 まあ、今の態度は我ながら不審だったよな。ここで誤魔化すのも変かと思って、俺は簡潔に事情を説明する事にした。

「俺が本の導入を加速させるきっかけになったのは確かなんですけど、それが他国にバレるとマズいんです」

「他国とは? あちらの世界の……でございましょうか?」

 俺の説明が簡潔すぎて訳がわからなかったのか、マレハさんは不思議そうに目を瞬く。

「はい。キセラの街がある国は俺の住んでいるところで、本の導入に積極的です。けど、本の導入をしないで済むように、あるいは導入を少しでも遅らせる事で、こちら側に正確な情報を与えないよう印象操作してるところもあったみたいで。……そういう国の人に、俺が本の導入を進めたってバレたら、逆恨みされる可能性があるんです」

 今度はもう少し詳しく、地球側の事情を説明した。

 まあ、俺が本の導入を加速しなくても、いずれは誰かが本を欲しがって要望を上げただろうし、自国の歴史を隠す気がなければそれに普通に応じていただろうから、遅かれ早かれ、本はこちらに入ってきていたはず。

 なのでその国が、どこまで情報操作を続けられたかは不透明だ。

「なんという事でしょう。功績を上げるのは素晴らしい事でございますのに。まさかそれを逆恨みするような不逞な輩が存在するとは」

 マレハさんは俺の話を聞いて、わかりやすく憤慨した。


「あくまでも、可能性の話です。自国の歴史や実情をこちらに知られたくない国は、本の導入の話が急に舞い込んだ事で、随分と慌てていたらしくて……」

 その慌てていた国が、本の導入を加速させたのが俺だと知って逆恨みするかどうかは、今のところ未知数だ。「いずれはそうなっていた事」とあっさり流される可能性だってゼロではない。

 ただ、できれば知られないままの方がより安心だ。実際にはどう動くかわからないからこそ、自衛しておくに越した事はない。

「そうでございましたか。事情を知らなかったとはいえ、迂闊にトキヤ様の功績の件を口にしてしまい、申し訳ございませんでした。個人的に、本の導入が早まった事を大変嬉しく思っておりましたので、一言お礼を申し上げたく思いまして」

 マレハさんが優雅な仕草で、深々と頭を下げて謝ってくる。俺は慌てた。別にマレハさんが謝るような事じゃない。

「俺もこちらの人達の役に立てたなら嬉しいです。功績を口にした事も、気にしないで下さい。うちの国の関係者に隠しておくよう勧められたので、一応は気を付けているだけなんです」

 本の導入が早まりそうだと喜んで貰えたなら俺も嬉しいし、功績を見てお礼を言おうと考えたマレハさんは、本当に全然悪くないのだ。どうか気にしないで欲しい。


「そういった事情であれば、ステータスボードで功績を見かけても、あちらの人がいる前では迂闊に口にしてはいけないと、早急に話を回しておきましょう。ギルドには横の繋がりもありますから、そちらの住人には知られないように話を回す事も可能です」

 俺の話を聞いたマレハさんから、そんな提案がなされた。

「そうして頂けると俺としてはありがたいのですが、本当にいいんでしょうか? なんだかそちらにご迷惑をおかけしてしまったみたいで、申し訳ないです」

 俺のせいで余計に増えるのではないだろうか。

「いいえ、迷惑などではございませんとも。我々の為に尽力して下さったトキヤ様が、それが原因となって不都合な事態に置かれるような事がありましては、こちらとしてもお詫びのしようもありません。せめて功績の件が、今回のような形で不意に広がる事がないよう気をつけさせて頂きたいのです」

 マレハさんはとても熱心に言葉を重ねて、躊躇っている俺を逆に説得してくる。

「……そこまで言ってもらえるなら、ご迷惑をおかけしてしまいますが、どうかよろしくお願いします。ステータスボードを提示する事が多いギルドの受付で話が出ないだけでも、だいぶ違うと思いますから」

 ステータスボードを提示しても、功績欄について職員さんが口に出さないよう気を付けてくれるなら、確かにとても心強い。仕事を増やして申し訳ない気持ちはあるけれど、マレハさんも積極的に勧めてくれるし、ここは甘えさせてもらう事にした。


「畏まりました。それと勿論、斥候ギルドだけでなく、他のギルドや銀行や街役場にも話は通しておきますので、どうかご安心ください」

 力強く断言されて、俺は驚いた。

「え? 斥候ギルド以外にもですか!?」

 まさかそこまで手を回して貰えるなんて、思ってもみなかった。

「ええ、他のギルドは当然として、主要な機関には話を通しておきます。ステータスボードを提示する必要がある場所は基本、網羅しておきましょう。そうしておけば、話が漏れる心配も少なくなるかと存じます」

「まさか、そこまでして頂けるなんて。本当にありがとうございます、マレハさん」

 俺は勢いよく頭を下げて、マレハさんにお礼を言った。

(マレハさんには随分と面倒をかけてしまうな)

 今度斥候ギルド宛てに差し入れを持ってこようと心に決める。

「お気になさいませんように。こちらといたしましても、そのような輩に情報を渡す手助けをしてしまうのは不本意でございます。知っていれば対策が取れます。事情をお教えいただいてありがとうございます」

 何故か面倒をかける側である俺がお礼を言われてしまった。とんでもないと首を振る。



 功績の話が終わったので、改めてステータスボードで人数分の受付を済ませる。その際、ふと思いついた事があったので、ついでに質問してみる。

「ダンジョン攻略の注意点とか、戦闘の講習みたいなのは、斥候ギルドではやっていないんでしょうか?」

 そういった講習がもしあれば受けてみたい。

「そちらはシーカーギルドの役割でございますね。あちらでそういった講習を行っておりますよ」

 マレハさんはそう丁寧に教えてくれて、更にその場でシーカーギルドの地図もメモに描いて俺にくれた。

「地図まで描いてもらってありがとうございます。シーカーギルドの存在を知らなかったので、とても助かりました」

 俺はメモを受け取って、頭を下げてお礼を言う。おかげで受けてみたかった講習を受けられそうだ。

「どういたしまして。シーカーギルドは、シーカーの基本を教えるギルドなのですが、斥候ギルドより知名度がないのか、あるいは必要と思われていないのか、講習を受ける方が随分と少ないようです。ですが基本は大事ですので。トキヤ様がそちらの講習も受講なさるのは、きっと良い経験となるでしょう」


(シーカーギルドの講習を受ける人は少ないのか)

 そういえば俺も実際にこうして教えてもらうまでは、シーカーギルドの存在そのものを知らなかった。よっぽどマイナーなギルドなのだろうか。あとでちょっとネットで調べてみよう。

「はい。今度行ってみる事にします」

 俺は改めてマレハさんにお礼を言った。罠解除と鍵開けのどちらの講習を受けるか迷ったけど、今日はとりあえず鍵開けの講習を受けてみる事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る