第78話 斥候ギルドに行ってみる
さて、斥候用品店の次は斥候ギルドだ。まずはナナルーさんに言われた通り、ゲートを通って中央通りの東口公園まで移動する。その後、地図を見ながら目的の建物を探して歩く。
そうして無事に、斥候ギルドの看板が掲げられた場所についた。建物というよりは、壁で区切られた敷地全体がギルドの施設であるようだ。入口の門から内部を覗くと、敷地内はかなり広く、建物も複数あって、5階建てから平屋まで、様々な種類の建物が建っていた。
また、屋外の訓練施設にも、広い面積を取ってあるようだ。この辺り一帯が斥候ギルドの所有する敷地なのだろう。
とりあえず、一番目立つ大きな建物が入口からすぐ近くにあって、そこに入るように矢印で誘導されているので、そちらに向かってみる。
「いらっしゃいませ、斥候ギルドにようこそ」
俺が入口から入ったのに合わせて、受付カウンターの内部で立ち上がって、優雅な仕草で一礼した男の人がいる。
深い紫色の髪をふんわりとしたオールバックにして、長方形の細長い眼鏡をかけた、若い背が180センチくらいの男性だ。目の色は水色で、見た目の歳は20代半ばくらいだろうか。髪の色はともかくとして、見た感じは地球人と変わらない種族に見える。
「こんにちは」
話しかけられたので、反射的に俺も挨拶を返した。
「私は、当ギルドの職員のマレハと申します。どうぞお見知りおきを」
とても丁寧な言葉遣いと仕草をする人だ。俺もつられて頭を下げる。
「俺は鳴神 鴇矢と言います。よろしくお願いします」
「トキヤさんは、当ギルドのご利用は初めてでしょうか?」
「はい。斥候としての訓練が斥候ギルドで受けられると聞いて、それを受けたくて来ました」
「でしたらまず、ステータスカードを提示していただいて宜しいでしょうか。ステータスカードを使って会員登録致しますと、当ギルドの施設を有料で利用できるようになります」
「わかりました」
言われるがままにステータスボードを具現化させて、マレハさんに手渡す。マレハさんはステータスボード魔道具に通して滞りなく手続きする。
「ではこれで、会員登録を完了致しました。次回以降はこちらの受付にてステータスカードを提示頂ければ、当施設をご利用いただけます。本日、訓練は受けられますでしょうか?」
「はい、お願いしたいです。それとあの、斥候スキルを持っているのは、この人形一体だけなんですけど、できれば訓練には全員で参加したいんですけど」
全員での訓練参加を希望してみる。斥候系のスキルを持ってなければ利用できないと断られたら、黒檀一人で訓練を受けてもらう事になるけど、受けられるなら全員でやってみたい。
「当ギルドの利用料金はお一人様での計算になりますので、人形使いの人形もまた一人分として料金を頂く事になりますが、それで宜しいでしょうか?」
「はい、構いません。6人分お願いします」
どうやら、料金さえ払えば問題なく利用できるようだ。
「ギルドの通常の訓練施設をご利用になる場合には、施設の営業時間内であればいつでもご利用頂けます。使用料金はお一人一時間70DGの時間割となります。初回はギルド職員の案内が必要ですが、次回からは受付で手続きさえして頂ければ、職員の同行なしで、お好きにどの施設でどの訓練をして下さっても構いません。講師が行う罠解除の講習は、週に四回、月、水、土、日に、午前の部と午後の部に分かれて行っております」
「なるほど、わかりました。丁寧な説明をありがとうございます」
スラスラと流れるようなスムーズさでギルドの利用方法を説明された。仕事に手慣れてるなと感心する。
「これよりすぐに、訓練施設をご案内いたしましょうか?」
「はい、お願いします」
「他の者に受付を任せて参ります。少々お待ちください」
マレハさんは一旦、受付のあるカウンターの奥の扉から奥の部屋へ行き、代わりの人に受付を頼んできたようだ。
「お待たせいたしました。それではこれより、訓練施設を一通り案内させて頂きます」
一番最初の訓練は室内で椅子に座って、簡単な鍵がかかった箱を開ける鍵解除訓練から開始した。
でも、これは講習を受けてからでないと難しいようで、全員で挑戦してみたけど、誰も解除できなかった。鍵穴に適当に棒や針金を突っ込むだけでは鍵が開かないのは当たり前だ。今度は講習のある日を狙ってギルドに来よう。
その次の罠作成訓練は建物の外で、地面に草で足を引っかける罠を作ったり、トラバサミを設置したり回収したり。ピアノ線で足を引っかける罠を作る為、ピアノ線を目立たないようにピンと張る練習や、木や建物の影から手鏡を使ってこっそり敵を観察する練習なんかもやった。
次に案内された基本技能を鍛える訓練場所は、アスレチックジムに似た仕様だった。
沼地の訓練では、水に浮かんでいる板の上を飛び跳ねて移動する訓練とか、飛び石の上を素早く移動する訓練もあった。
でも、今日俺は着替えを持ってきていなかったので、沼地関連の訓練は、残念だったけど、また次回に回してもらった。一度も水に落ちないで済むなんて甘い考えには到底なれなかったので、着替えの用意は必須なのだ。
張った縄と地面に立てられた丸太だけで構成された不安定な足場を素早く移動する訓練とか、蔦に掴まってターザンのように移動する訓練とか、高い木に登る訓練とか。指定の崖を杭を打ちながら登り、そこからロープを垂らして他のメンバーを引き上げる訓練とか。
ものすごい高い平均台(下にマットが敷いてある)を渡る訓練や、ピアノ線をあちこちに張り巡らされた通路を、ピアノ線には一切触れないようにして潜り抜けていく訓練もあった。
人形は人と違って肉体が柔らかくないので、体のパーツが干渉しあい、柔軟性に欠けるのも初めて気づいた。体を小さく折り畳んだりし辛いのだ。逆に関節なんかは、人が曲げられないような角度にまで曲げられたりもした。
一通りの訓練を全員で試すだけでも、結構な時間がかかった。そして疲労のない人形はともかく、俺はヘトヘトになったし、全然できないものも多かった。基礎レベルやスキルレベルが上がっているのにこの有様だ。元々の身体能力だったら多分、挑戦する気にもなれなかっただろう。今後何度もここに通っては、時間をかけて習得していくしかない。
「ちなみにトキヤさんの斥候役の人形は、どのようなスキルをお持ちか、訊ねても宜しいでしょうか?」
すべての訓練を終えた後、眼鏡をくいっと持ち上げて、マレハさんが訊ねてくる。
「はい、身体強化、剛体、氣力増強、投擲、気配察知、危険予測、俯瞰、知力強化、記憶力強化、罠感知、罠解除、鍵開け、罠作成、縄術、隠密、消音、消臭、登攀、剣術、魔法耐性、水抵抗軽減。専用スキルは硬質化、小型化、遠隔操作、視覚共有、ペイント、です」
ステータスボードを表示させて、それを見ながら答える。必要だろうと思われるスキルを手あたり次第取ったので、わりと多めになっているな。そう思った俺とは裏腹に、俺の答えを聞いたマレハさんは、ゆっくりを首を横に振った。
「……ふむ。そのままでは、少々足りないかと思われます。斥候には、今挙げたものの他に、できれば「平衡感覚」「直感」「嗅覚強化」「視力強化」「聴覚強化」といったスキルもあった方が宜しいかと存じます。強化系は必要な時のみ氣を使うタイプなので、日常生活に支障は出ませんのでご安心を。人形では視力、聴覚、嗅覚は覚えられないかもしれませんが、その場合はトキヤさんが代わりに取得すべきでしょう」
前触れなしにお勧めスキルをずらずらと並べられ、心の準備ができていなかった俺は焦った。全部のスキル名を聞き取れた自信がない。慌てて腰のポシェットからメモ帳を取り出し、マレハさんに頼んだ。
「え、待ってください、その、スキルの名前をもう一度お願いします! 今メモしますので!」
再度、スキル名をゆっくりと繰り返してもらって、ひとつずつメモ帳にメモしていく。これ、平均感覚とか直感とかのスキルは黒檀だけじゃなく、俺も取った方が良さそうだ。他の人形にもいるかもしれない。移動や戦闘に有効利用できるだろう。
……目、耳、鼻がない人形でも、強化系のスキルが使えるといいけど。元々今日の予定では、斥候ギルドを出たら耐性スキルを買う為、スクロールを買いに行く予定だったし、強化系のスキルについてもガイエンさんに聞いてみて、メモした分も一緒に買わないと。……今カードに入ってる金額で足りるかな? 足りなければ一度日本に戻って、あっちの銀行からお金を降ろしてこないと。
「ありがとうございます、これらのスキルも揃えます」
頭を深く下げてお礼を言う。マレハさんに教えてもらえなかったら、これらのスキルを取得しそびれたままだったろう。俺も一応ネットで斥候系のスキルについては調べたのだけど、まだ漏れがあったようだ。
「実技講習用の施設は偶に中を弄りますが、それでも同じ施設ではマンネリになりがちです。ですので、できれば複数の街の斥候ギルドの施設に通い、いくつかの施設を順番を定めず不定期に巡るのをお勧めします。施設によって罠の位置や内容などを変えてありますので、慣れずに訓練が行えます」
マレハさんからは更にアドバイスが貰えた。
「はい、わかりました。教えてくださってありがとうございます」
(なるほど、罠解除の訓練用の箱とか平均台とか沼の板を渡る訓練なんかの基本技能はどこの施設でやってもいいんだろうけど、実際に体験する実技講習だと、同じ施設に立て続けに入ると、罠の位置を覚えちゃうのか)
俺はまだ、キセラの街とオルブの街の二か所にしか行った事がないけど、斥候ギルドを巡る為、いくつかの街へ行ってみないと。ネットに4つ分の地図が載っていたし、それを参考にしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます