第74話 四体目の精霊、家族で外食
「おお、精霊召喚のスキルが上がった! これで4体目の精霊と契約できる!」
その日ウシと戦っていたら、戦闘が終わった後にレベルアップの感覚がして、ステータスを確かめてみたら、精霊召喚スキルが、新たな精霊と契約できるレベルである31まで上がっていた。
そこでいったん9層での戦いを切り上げて精霊ダンジョンへ向かう。そうして、ふわふわとこちらに寄ってくるモヤの姿の精霊のカケラの一体と、無事に契約を交わした。
「よし、契約できた。今日からよろしくな」
4体目の精霊は事前に決めていた予定通り、聖属性の精霊にするつもりだ。ステータスボードで、その名前を「結聖(ゆいせい)」と名付ける。
「これでよし。結聖、これから魔法を覚えてもらう為に、スクロール屋に行って召喚するから、また後でな」
実は結聖は、当初は聖良(せいら)という名前にしようと思っていたのだ。だけど考えてみたら、それではひらがな表記では、青藍と一字違いになってしまう。声で指示を出す時に混乱を招きかねない。なので他と被らない名前を考えて、結界の結と聖属性の聖を合わせて結聖とした。
精霊ダンジョンから帰還して、今度はキセラの街へと移動する。いつものスクロール屋でガイエンさんに魔法スクロールを注文する。注文する魔法の内容はあらかじめ決めてあったのでスムーズにいった。
そんな訳で結聖に覚えてもらったのは、聖属性の魔法7種類だ。
・「スフィアバリア」(球体状の結界。魔法をかけられた対象に合わせて移動する)
・「フィールドサークルバリア」(円状結界。地面に固定式。一度設置すると移動できない)
・「ヒール」(怪我回復魔法。単体魔法)
・「オーラヒール」(氣力回復魔法。単体魔法)
・「スタミナヒール」(体力回復魔法。単体魔法)
・「エリアヒール」(怪我回復魔法。範囲魔法)
・「エリアオーラヒール」(氣力回復魔法。範囲魔法)
聖属性にした本命の目的である球体結界の魔法と、地面に固定式の結界の魔法。それに加えて回復系の魔法が5種類となる。
回復は花琳の緑属性にもあって既に覚えてもらってるけど、どちらかが魔力切れやクールタイムで召喚できない場合に備えて二人とも回復魔法が使えるようにしておきたかったので、この選択になった。
聖属性の他の魔法はアンデット特効の攻撃魔法なんかがあるけど、それはまた必要になったら追々揃えていくつもりだ。
俺はグロもホラーも苦手だから、できればアンデットダンジョンには行きたくないけど、色んな種類の敵が出るタイプのダンジョンでは、アンデットだけを避けるって訳にもいかないだろうし、そう考えれば苦手なものにも慣れておく必要はあるだろう。だからアンデット特効の魔法も、いずれは覚えさせないとな。
たくさんの聖属性の魔法を一気に覚えた結聖は、モヤの姿から、水晶玉のような丸い透明な玉に白い翼が生えて、頭上に天使の輪が浮かんでいる姿へと変化した。聖属性イコール天使のイメージなのだろうか。
結聖の結界魔法を試してみる為に、9層に戻ってウシと戦ってみる事に。
ただ、ウシに突撃させる結界の内部にいるのが俺だと、結界を破られてしまったら危ないので、俺は慎重に距離を取って紫苑と紅に護衛してもらった状態で、結界を試す役目は大盾を持った青藍と山吹に任せる事にした。
「頼むぞ、二人とも。もし結聖の結界が破られても、落ち着いてウシの突進を止めてくれ」
斥候の黒檀が、少し離れた場所にいるウシに投げナイフを投げて、素早く青藍達の方向へ移動し、うまくウシを誘導してくれる。
「結聖召喚、青藍と山吹を中心にして、魔力全開でスフィアバリアを頼む!」
召喚によって現れた結聖が魔法を使い、青藍と山吹のいる位置に、球状の透明なガラスのような見た目の膜が現れて、二人を素早く覆っていく。そこに黒檀によって釣られたウシが、勢いをつけて突撃する。
鈍い衝撃音と共に、結界に罅がはいり、直後にパリーンと大きな音がして、結界が砕けた。結界はそのまま姿を消していく。ウシはそのまま前進し大盾に突撃したが、結界でだいぶ勢いを削がれたのか、無事にそこで止められた。
そこからはいつもの手順でウシを狩る。そして苦戦する事もなく順調に倒せた。
「結界は破られたな。まあ、結聖はまだ、契約を交わしたばかりでレベル1だから、魔力量も少ないし仕方ないか。レベル1の魔力であれだけ勢いを止められたなら、それだけで儲けものだな」
結聖はもう時間切れで帰還している。結聖は今の一戦だけでも、いくつかレベルが上がったようだ。9層までくると、モンスターから得られる経験値もだいぶ多くなってるな。
しばらく他の手で戦って時間を潰してから、結聖の魔力が回復した頃を見計らって、今度はフールドサークルバリアの方も試してみよう。固定式と移動式で使用条件の違う二つのバリアだが、強度にも違いがあるのかとかも、調べておかないとな。
まあ、結聖のレベルが上がった以上、本人の持つ総魔力量も増えているのだから、レベル1の時点での全力とはまた条件が変わるから、正確な比較はできないんだけどさ。
夏休みの前半は、飛ぶように過ぎていった。
前半の期間の間に10層に降りる階段も見つけた。一度階段を降りて、10層に直接行けるようにしておくのも忘れない。
休み期間中は基本的に一日中ダンジョンに潜って戦ってばかりいるから、ドロップアイテムが溜まるのも早い。部屋にアイテムを置いておく場所も限られているし、インベントリだって容量は限られている。それで仕方なく、四日に一度くらいは買い取り窓口まで売却に行っている。
8層でも多くなったと思っていた売却益は、9層に入って益々増えた。おかげで貯金額もかなり順調に貯まってきている。
あとは、友達と待ち合わせて行う水中訓練で、みんなで水中装備をつけて、ピラニアを放っての訓練もした。またそれ以外にもこっそりと、個人での水泳練習にも1度だけ行ってきた。
個人練習でプールを貸切るのも勿体ないかと思って、オルブの街の普通の海水浴場の方へ行った。楽しそうに遊んでいる人が大勢いる中で、一人ぽつんと泳ぐ練習をするのって、結構しんどかった。でも、いつまでも溺れそうになってばかりなのは情けないし、少しでも早く、まともに泳げるようになりたかったのだ。
そういった努力と、レベルの上がった水泳スキルの補助のおかげもあって少しずつ、泳ぎも形になってきている。
あとは以前から引き続き、週に一度くらいの割合で、キセラの街の訓練施設で通常の戦闘訓練もやっている。
こっちは友達を誘わずに人形達だけを連れて行っている。クロスボウの射的訓練とか、予備の武器である片手剣の訓練とか、人形達と一緒に多対1の訓練とか、こちらの訓練施設でもやる事は多いのだ。
そしてお盆前の時期、家族のみんなでオルブの街の食堂に、蟹のパスタを食べに行った。
以前俺が蟹が絶品だったと言ったのがきっかけで、そのうち家族みんなで行こうって話になっていたあれだ。それぞれ予定もあったのでちょっと話が出てから行くまでが遅くなってしまったが、それでも無事にみんなで食べに行けた。
父の仕事の都合でその食堂に行くのが夕飯になったので、パスタセット以外にもメニューの品が増えていた。どうやら、昼よりも夜の方がメニューの品数が豊富らしい。
そこで、せっかく家族みんなで来ているのだしと父か奮発して、色んなメニューを頼む事が決まった。蟹のパスタ二種類以外にも、海鮮類がたっぷり乗ったパエリア、魚を揚げて真っ赤なソースをかけたもの、蟹を丸ごと一匹ボイルしたもの、岩牡蠣の網焼き、貝の酒蒸し、卵と野菜のスープ、海老と野菜のサラダ……、とにかく色んな種類を頼んで、みんなで取り分けて食べる事にした。
「鴇矢がお勧めするだけあって、本当に美味しい蟹ね」
蟹がたっぷり乗ったクリームパスタを食べて、母はご満悦だ。どうやらお眼鏡に適ったらしい。
「パエリアも美味しいわよ。今度また、友達連れて来ようかしら」
姉はパエリアが気に入ったようだ。パエリアは上に魚、海老、貝と具材がたっぷり乗っていて、下のご飯には魚介類の旨味がしみ込んで、これも美味しかった。
「蟹ー、めっちゃ美味い蟹だ、すげーな。贅沢にたくさん食べれていいな」
兄はボイルした蟹の脚から、中身を取り出すのに夢中だ。兄は受験勉強が佳境に入って、ここのところ少し気を張り詰めた感じだったけど、今日の家族での外食が、丁度いい息抜きになったようで良かった。
「この魚、ソースが思ったより辛くなかった。魚の身も淡泊で癖がなくて食べやすいし」
俺は真っ赤なソースがかかった揚げた魚を取り分けて食べてみた。ピリ辛ではあるけれど、そこまで極端に辛くない。真っ赤な成分の殆どはトマトのようだ。肝心の魚の揚げ物も、生臭くなくさっぱりとして食べやすい味だった。
「こんなに頼んでこの値段で済むとは、日本では考えられないなあ」
父は味にも値段にも感心しきりだ。全部で1万6千円くらい? 確かに5人でこれだけの品数を頼んで、この値段で抑えられるのはすごい。
「ちょっと頼みすぎじゃない?」
俺は大きなテーブルに並べられたたくさんの品々を見て不安になる。とにかく量がすごい。全部食べ切れるのだろうか。
「あら、家族みんなで外食する機会なんて滅多にないんだから、せっかくだから堪能しましょ」
色んな料理をちょっとずつ小皿に盛って食べながら、母が満面の笑みでそう宣う。
「牡蠣の網焼きも、ジューシーで美味いな……」
父は網焼きの岩牡蠣が気に入ったようだ。俺も同じものを食べてみる。生の牡蠣は苦手だけど、火を通してあれば食べられる。熱々の網焼きは格別だった。
「確かにこの牡蠣、すごく美味しいね」
みんながどれどれと牡蠣をとると、あっという間に牡蠣が消えた。更に追加で牡蠣が頼まれる。……既に十分多い量がテーブルに乗っているのに。
「ねえ、デザートも頼みましょうよ」
姉が楽しそうに言う。水を差すのは躊躇われたが、俺としては今テーブルに乗っている分だけでも、食べ切れるのか怪しい気持ちだったので、仕方なく止めた。
「それは流石に、これを全部食べ切れてからお腹の空き具合をみて、考えた方がいいと思うよ……」
しかし最終的にはなんと、テーブルの料理を全部食べ切って、更にデザートにレモンシャーベットまで注文して完食した。主に母と姉が、本当にすごく食べた。……二人とも、普段はそんなに量を食べないのに、美味しいものとなると別腹なのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます