第67話 オルブの街で友達と過ごす一日  後編

 お昼は更科くんお勧めの食堂で、蟹の身がどっさり入ったパスタを食べた。

 パスタの量も多いし、サラダとスープもついてるし、何より蟹の量がすごい。サラダにまでたっぷりとほぐされた蟹の身が入っているのだ。

 これで150DG(千五百円分)なんて信じられないくらいだ。日本だと蟹だけでそれくらいしそうだ。

 パスタの味はクリームとペペロンチーノ風の二種類あって、俺はペペロンチーノ風を頼んで食べたけど、まさに絶品だった。また食べに来たいと決意したくらいだ。



 午後は木陰で飲み物を飲みながらしばらく休憩した。

 食べたばかりですぐ訓練というのも体に悪いだろうという事で、南国感溢れる広い公園の一角で、1時間ほどのんびりと過ごした。

 水泳の練習も結構体力を使うから疲れていたし、俺は休憩中はうたた寝してしまった。

 柔らかな風が気持ちよくて、みんなも雑談したり昼寝したりしながらのんびり休んだようだ。



「これから行く真水の訓練施設は、街の中心を流れるスウェアリ大川から水を浄水して引いてるんだよー。この街の東区と西区は、スウェアリ大川を境に区分けされてるんだ。上流には大きな湖もあって、そこの湖も湖水浴ができるくらい水が綺麗なところでね。今は5つ目の街を湖周辺に作るか、それともやっぱり海辺に作るかで協議中だって話を聞くよっ」

 公園から訓練施設のある場所にゆっくり歩いて移動しながら、更科くんの話を聞く。

「更科くん、本当に詳しいんだね」

「それが趣味だからねっ」


 訓練施設に到着し、料金を4等分して場所を借りる。

 こちらは25メートルくらいの大きさの真水のプールだ。深さは3メートルある。

 そんなに高くない値段でこの大きさのプールひとつを丸ごと貸し切りできるなんて、贅沢な話だ。午前中の浜辺の一区画貸し切りもそうだけど。

 ダンジョン内は利用されている土地が少ないのかな。そもそも街の数が地球よりずっと少ないみたいだし、人の数も少ないんだろう。

(そもそも特殊ダンジョンの1層って、全部が繋がった、同じひとつの世界なのかな? それともダンジョンごとに、まったく違う別の世界なのかな?)

 例えば、このオルブの街からキセラの街まで、直接の移動は可能なのだろうか。同じ空間、同じ星、同じ大陸にあるのなら、それも可能だろうけども。

 ダンジョン内はゲートで繋がっているけれど、物理的、地理的に繋がっているかは俺はしらない。

 地球人で特殊ダンジョンの1層内の地図を作っている人とか、いるのだろうか。気になるから、後でネットで調べてみよう。


「ここは係員さんに頼むと、初心者ダンジョン10層のピラニアとか、他の水中ダンジョンで出てくるモンスターを有料で放してくれるサービスがあるんだっ。今日は試さないけど、水中訓練に慣れてきたら実戦を試せるようになってるよ!」

「ええっ、大丈夫なの!? ソレ」

「モンスターを放してもらう数を細かく調整できるし、倒せば消えるのは他のダンジョンと同じ仕様だし、ぶっつけ本番で試すより安全じゃない?」

「……後日、もっと水中訓練に慣れてから、試してみたいな」

(実際にモンスターと戦うところまで体験できるのはありがたいけど、しばらくは無理そうだな)

 俺は午前中頑張っても殆ど泳げるようにならなかったので、実戦に入るのはまだ先そうだ。


「せっかく連れてきたんだ。人形にも水中戦闘の訓練をさせないとな」

 早渡海くんが係員さんから、人形に模擬専用の木の武器をレンタルする。俺も一緒に武器をレンタルする。紫苑と黒檀には、遠距離武器の代わりに片手剣を持たせた。剣術スキルがあるからある程度は扱えるだろう。

「どうせならカミルの人形と鳴神くんの人形で布陣を分けようっ」

 意気揚々と更科くんが提案する。

「鳴神くん、ここのプールは深いから、溺れないように気をつけてね」

 雪乃崎くんには心配そうに言われた。ここ、水深3メートルだもんな。浜辺の浅い海水より溺れやすそうだ。

「うん、気を付けるよ」



 プールでは、人形も交えて模擬戦をしてみる事になった。

 俺と早渡海くんは人形を連れて別チームに、そこに雪乃崎くんと更科くんが一人ずつ加わる形で訓練を開始した。だけどまるで形にならない。俺に至っては溺れかけて助けられる回数も数回あったし、戦いどころじゃなかった。

 人形達は水底を歩いて移動するのには、そこまで苦労しないようだ。でも、木製の武器で模擬戦をしたところ、水の抵抗でいつもとは勝手が違うようだ。水抵抗軽減スキルはあるけど、すべての抵抗をオフにするスキルじゃないし、武器にはそのスキルの効果もないから、色々と戸惑うようだ。

 俺も今回は武器を木の槍に戻してみたけど、これじゃ武器を持たずに人形に掴まるのに集中した方がまだマシかもしれない。

 早渡海くんは泳ぎも上手く、武術も習っているからか、全員の中で一番習熟が早いようだ。雪乃崎くんと更科くんは泳ぐのはできるけど、水中戦闘はまだ慣れないようで苦戦中。


「今日一日だけで形にするのは無理だね、これは」

「また予定を合わせてみんなで来ようよっ」

「そうだな、まだ水中装備も試していないしな」

「うん、そうだね」

 また何度か通う事に決定した。毎回みんな都合が合う訳じゃないから、その都度、行ける人だけ集まって、夏休み中に数回は通おうと話が纏まる。



 夕方、訓練を終えてゲートの前でみんなと別れた。

「今日は楽しかったよっ! またみんなで一緒に遊びに行ける機会があると嬉しいなっ」

 満開の笑顔で更科くん。

「為になった。……偶には遊ぶのも、いい気晴らしになるな」

 いつもの淡々とした感じで早渡海くん。

「僕も来て良かったよ。誘ってくれてありがとう。鳴神くん」

 穏やかな笑顔で雪乃崎くん。

「俺も楽しかったよ。みんな、またね」

 それぞれ挨拶して、ゲートを潜って消えていく。俺もそれを見送ってから、最後に人形達と一緒にゲートを潜って家に帰宅した。




 夕飯時、家族に浜辺で遊んだ話や、絶品の蟹パスタの話をしたら、特に蟹の部分に食いつかれた。食べに行ってみたいと要望が出たので、更科くんのブログのURLを紹介しておいた。彼のブログには、ゲートから食堂までの道筋が地図付きで載っているのだ。

(でも一応、一度現地まで行った俺が案内した方が確実かな?)

 あっちではネットが繋がらないから、もし道順がわからなくなっても、途中で調べるという訳にはいかない。店名も読めない言語で書かれているから当てにできないし。

「俺が案内してもいいよ」

 そう言うと家族はちょっと驚いたようだ。

「それなら、家族みんなで一緒に食事に行くのもいいな」

「そうね、偶には外食も良いわよね」

「まあ、そんなに美味しい蟹だっていうなら、気になるわよね」

「じゃあ、夏休み中にでもみんなで行ってみるか」

 両親は嬉しそうだしかなり乗り気だ。兄と姉も肯定した。どうやら夏休み中に、家族とも蟹パスタを食べに出掛ける事になりそうだ。



 夜、疲れで目をしぼしぼさせながらもなんとか勉強を終えた後、眠る前にこれだけはと、昼間気になった、特殊ダンジョン内がすべて同じ世界なのかどうかについて調べてみた。

 ネットには、「おそらく違う惑星である」という結論が載っていた。

 街役場の反対で、あちらで観測衛星などは打ち上げられなかったものの、ドローンなどの機器を使って地形を調べてみたり、星の位置の相違を調べてみた人や組織はあるようだ。

 その結果、ゲートに表示される街以外に、作成途中の街がある場合こそあるものの、地球から繋がる通常のゲートのある街は見つけられず。また、星の位置も特殊ダンジョンごとに違うようだと結論づけられていた。

 観測が足りなかった可能性もあるが、それぞれが別の惑星であり、もしかしたら世界さえも違う可能性があるようだ。

 日本国内だけでも、特殊ダンジョンは11個もある。世界全体ではもっとたくさん。そのすべての1層が別の惑星だとしたら、一体どれだけの面積になるのか想像もつかない。とにかく広い世界が、ダンジョン内に広がっているようだ。


(もしかしたら、あちらの街の人達が随分色んな人種がいるのって、別の惑星、あるいは世界の出身だからっていうのもあるのかも?)

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