第60話 アセクシャル疑惑、余力を溜める、六度目のスクロールドロップ

 6月の中頃。

 外で降る雨の音を聞くともなしに聞きながら、俺はネットでダンジョン関連の情報を流し見ている。

 先日の「救済ダンジョン」の件は世間を大いに沸き立たせ、ダンジョン攻略を更に後押しする世論で賑わった。


 これまでダンジョン出現によって世界全体に最も大きく与えた影響は、地球温暖化の進行を抑制できた事だろうか。

 30年かけてコアクリスタル発電で二酸化炭素を出さない方法へ切り替えていった結果、世界全体の50パーセント以上がコアクリスタル発電に変更された。

 その結果、二酸化炭素の排出量は減り続けている。今後もその動きは続くだろう。

 また、ダンジョンからのドロップアイテムである「オゾン層を作成・修復する魔道具」を使用する事で、上がる一方だった地球の平均温度を下げる事にも成功している。

 その他の、人類全体が抱えている問題だってそうだ。

 食糧危機や貧困問題もダンジョンを攻略すれば解消できるし、ポーションで病気や怪我、老化さえ解消できる。ダンジョンはもはや世界の国々にとってなくてはならないものになっている。


 そうした国々が大半を占める一方で、いまだにダンジョンを立ち入り禁止にしたまま、民間に開放していない国も、ごく少数ながら存在する。

 宗教の教義や軍事的脅威などを理由に、国民にダンジョン利用を禁止し、悪と説く国だ。

 大国の多くがダンジョン利用に前向きで、それに触発されるように他の国も負けじと参戦する中で、真逆の方針をとる国にとって、ダンジョンを利用する他国は忌々しい存在だ。

 そこに新たに救済ダンジョンが加わった事で、そういった国はますます追い詰められている。

 ダンジョンを開放するよう求める民間の戦闘組織と軍との衝突も起きているというし、それらの国はまだまだ平和が遠い状態だ。

(本当に本気でダンジョンを自分の国に広げたいんだったら、一度国外のダンジョンへ行ってゲートを作れるようになってから帰国して、周りの賛同者をどんどんダンジョンへ送り込んでしまえばいいのに。ゲートについての正しい情報を知らないのかな? それとも単に、戦争したい理由にダンジョンをこじつけてるだけ?)

 どうしてそこまでして戦争を選ぶのか、俺には理解できない。


 まあ、そういった一部の例外を除けば……だけど、世界は概ね良い方向に向かっているように見える。

 だが、ダンジョンが出現した事で、明らかに悪化している問題もあった。

 先進国の一部で、ダンジョン出現前から深刻化していた少子化問題だ。これは日本が特に深刻だけど、他の国でも徐々に顕現化している。


(ポーションで老化を解消した場合、若返りはするけど、子供が極端にできにくくなるっていうからな……)

 見た目が若い者同士で結婚しても、実際にはかなりの歳の差婚となった場合、あるいは両方が高齢の場合では、子供が非常にできにくく、それが少子化に拍車をかけている。

 世間の老人の数は(見た目上では)減っているけれど、実際には超高齢化社会を更新し続けている訳だ。

 そして、そういった先進国では、子供を作れる世代の人の数が減り続けている。

 政府も子育て費用の補助や出産一時金などで対策を打っているが、殆ど効果は出ていないように思える。

 人は何故、貧しく苦しい時代に多くの子供を産み育て、豊かになると少子化傾向になるのか。


(俺は、恋愛的な意味で誰かを好きになるとか結婚とか、全然考えられないから、その方面は考えてもわからないな……)

 最近になって気づいたのだけど、俺は人見知りのぼっち気質という以外にも、恋愛に興味がない性質も、併せ持っているような気がしている。

 女性の知り合いは殆どいないけど、どんな女性を見ても、そういった情欲的な感情が浮かんでこないのだ。かといって、同性にそういう意味で興味を抱く事もない。

 年齢的には思春期真っ盛りのはずなのに、そういった方面は避けたい気持ちしか浮かばない。


(こういうの、アセクシャルって言うんだっけ? 性欲がない訳じゃないから、病気じゃないと思うけど……)

 まあ、元々から人見知りだったのだし、恋愛ができなくても不自由はない。

 親に孫を見せる役割は、兄か姉が俺の分までやってあげてほしいと、人任せな気分だ。






 現在の俺のレベルは、基礎27、人形使い27、身体強化27、知力強化27、記憶力強化27、痛覚耐性26、精神力強化26、精霊召喚26、槍術26、剛体25、体力増強25、気配察知24、危険予測24、氣力増強23、魔力増強22、俯瞰21、投擲21、剣術20、魔法耐性20、雷耐性18、弓術18、麻痺耐性14、気絶耐性14、インベントリ7となった。


 青藍は基礎27、初期スキル(自動修復、自律行動、学習知能)27、身体強化27、剛体25、盾術25、剣術24、氣力増強23、投擲23、知力強化20、記憶力強化20、魔法耐性19。

 専用スキルは硬質化22。強化は筋力+1、素早さ+3、頑丈さ+1。

 紅は基礎27、初期スキル(自動修復、自律行動、学習知能)27、身体強化27、剛体25。槍術24、氣力増強23、投擲22、知力強化19、記憶力強化19、剣術17、魔法耐性16。

 専用スキルは硬質化21。強化は素早さ+4、筋力+1。

 紫苑は基礎27、初期スキル(自動修復、自律行動、学習知能)27、身体強化27、剛体24、弓術24、氣力増強22、投擲22、知力強化19、記憶力強化19、気配察知17、俯瞰17、剣術16、魔法耐性14。

 専用スキルは硬質化20。強化は知力+2、器用さ+2。

 山吹は基礎25、初期スキル(自動修復、自律行動、学習知能)25、身体強化25、剛体22、氣力増強20、斧術18、投擲17、知力強化16、記憶力強化15、魔法耐性12。

 専用スキルは硬質化18。強化は筋力+4。

 黒檀は基礎16、初期スキル(自動修復、自律行動、学習知能)16、身体強化16、剛体15、氣力増強15、投擲14、気配察知14、危険予測14、俯瞰14、知力強化13、記憶力強化12、罠感知12、罠解除12、鍵開け12、罠作成12、縄術11、隠密11、消音11、登攀10、剣術10、魔法耐性10。

 専用スキルは硬質化15、小型化10、遠隔操作10、視覚共有10。強化は素早さ+1、器用さ+2、知力+1。


 炎珠は基礎22、火(+風)属性。現在は火の矢の姿をしている。

 覚えている魔法は「ファイヤーボール」「ファイヤーバレット」「ファイヤージャベリン」「ファイヤーアロー」。

 石躁は基礎20、石+土属性。現在は石の檻が半分ほど土に埋まった姿をしている。

 覚えている魔法は「ストーンウォール」「石柱撃」「石の檻」「土操作」。

 花琳は基礎14、緑属性。現在は葉が茂り花も咲いた木の枝に緑の蔦が絡まった姿をしている。

 覚えている魔法は「蔦の戒め」「森の癒し」「木の癒し」「緑草の安らぎ」「治癒の緑花」「治癒の緑花畑」「干し草の守り」。


 青藍、紅、紫苑の3人は、もう全長が160センチに育った。俺の身長が今167センチくらいだから、追いつかれる日も近いな。スキルレベルも随分上がったし、本当に頼もしくなってくれたものだと感慨深い。

 山吹は25レベルで150センチ、黒檀は16レベルで105センチ。一番小さい黒檀でさえ1メートルを超えた。

 炎珠がこの前ファイヤーアローを二本同時に出せるようになったのといい、精霊も順調に成長している。石躁は覚えている魔法の数こそ少ないものの使い勝手は良い魔法ばかりだ。特に土操作で作るお落とし穴は、次の層でも活躍が期待できる。

 花琳は一番覚えている魔法の数が多く、多彩な支援で活躍をしてくれているし。

 みんなそれぞれ個性があって頼もしく、戦力として頼りになる仲間だ。





 ヒツジ10匹の群れを相手にしても、安定して倒せるようになった。いつもだったらここで、「さあ次の層へ行くぞ!」となるところだけど、今回からはもっと余力を溜める為に、基礎レベルを上げる期間を設ける事に決めた。

 ヒツジの電撃魔法を自分のミスで受けてしまって、気絶させられたのがきっかけだ。今後、敵のモンスターが強くなるにつれて、ミスで受けるダメージは深刻になっていく。

 できるかぎり安全に配慮して先に進みたい俺としては、これまでより基礎レベルを上げる事でミスを減らし、リカバリーしやすくしようと考えたのだ。

 地力を溜める期間ってだけで、ペースを落とす訳じゃない。むしろ戦闘自体は積極的にこなしていく。見つけた敵全部に挑んでいくつもりでいこう。


 あとはこの隙間期間を使って、10層の水中対策のスキルを買ったり、水中戦闘訓練もしたい。

 9層のウシは群れる事もなく魔法も使ってこない、物理系の相手だと事前にネットで調べてわかっている。だから却って取れる対策が思いつかない。それこそ基礎レベルを上げたり、突撃に備えて大盾を用意したりするくらいか。

 なので大盾を買った後はしばらく買いたいものがなくなるので、更に次の層に備えた準備を始めようという訳だ。


 それで更に資金が余れば、耐性系のパッシブスキルを買い込んでスキルレベルを上げておきたい。

 人形達はどの属性が得意かわからないけど、俺は耐性系スキルは確実に、全部あった方が良いのだ。今のうちから徐々に揃えるのを意識していこう。(氣の運用に支障がない範囲で調整しつつ)




「あっ、スクロールだ! やったな!」

 その日、恒例のヒツジとの戦闘で6度目のスクロールがドロップした。

 インベントリのスクロールを買って所持金が一気に乏しくなっていたから、スクロールのドロップはありがたい。高く売れるものなら尚更嬉しい。

 さっそく、次の日にダンジョン協会の買い取り窓口まで持っていった。勿論、溜まっていた他のドロップアイテムも一緒にだ。

「ウィンドアロー? ……ファイヤーアローの風版か」

 鑑定の結果、ドロップしたのはウィンドアローの魔法スクロールだと判明した。ダンジョン街での売値は4千DG(4万円分)で、ここでの買い取り額は9万円だ。


(風属性か。……でも、次の精霊の属性は今のところ、結界が張れる聖属性を一番の候補に考えてるところだし。どっちにしろ売っていいな)

 特に入手しづらい希少なスクロールという訳でもないし、そのまま売却する事にした。

 スクロールと他のドロップアイテムの売却分を合わせたら、合計で20万円以上になった。学校が休みの期間じゃないのに、十日未満でかなりの金額だ。

 やはり8層までくるとかなり稼げる。以前に比べれば雲泥の差だ。


(ダンジョン攻略してると、金銭感覚狂いそうになるよな。気を付けないと)

 一度に手に入る金額が大きいせいで、金遣いが荒くなって身持ちを崩したシーカーの話なんかも聞くし。俺はダンジョン攻略に必要な品以外は堅実に行かないとな。

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