第58話 魔法と魔力の相関、両親と大学の話をする
*昨夜「近状報告ノート」にてオマケを掲載しました。
今日は9層に続く階段を発見したので、一度降りて、ゲートで直接9層まで行けるようにしておく。
昨日は雷撃魔法の直撃で気絶してしまう事態が発生した。なので雷撃魔法対策のスキルレベルが上がるまでは、6匹までの群れを相手にして、慎重に戦う事に決めた。
(スキルレベルと、後は基礎レベル上げもだな)
基礎レベルが上がれば、すべての属性への耐性も強くなる。先を急ぎすぎて、ダメージを食らった際に大怪我を負う事のないように、もっとじっくり基礎レベルを上げる事を意識しよう。
それと、戦闘開始前に花琳を召喚して「干し草の守り」をかけてもらう。これでもし魔法を食らったとしても、ダメージは緩和されるはず。この魔法も、都度忘れずにかけ直さないとな。
「炎珠召喚、ファイヤーアロー!」
6匹のヒツジ相手の戦闘の開幕に、炎珠を召喚して魔法を頼む。すると、いつもとは違う現象が起こった。魔法によって出現した炎の矢が2本、ヒツジに向かって飛んだのだ。
「炎珠、ファイヤーアローを2本、出せるようになったのか?」
俺の疑問を肯定するように、炎珠が炎でできた体を上下にゆらりと揺らした。
戦闘は問題なく終わり、炎珠も召喚時間が切れて帰還した。その後、人形達とドロップアイテムを拾い集める。俺はスキルで周囲の警戒もしつつ、先ほどの現象について思考に耽る。
(魔法は、使い手によって威力が変わるんだよな)
使い手が魔力を多く込めればその分だけ効果が上がり、魔力の量を減らせば効果が減る。だから同じ魔法でも、まったく同じ効果にはならない。(ただし魔力を減らしすぎると魔法として成立しないので、その魔法を成立させるのに最低限必要な魔力量というのは存在する)
そもそも、魔法にはレベルが存在しない。
スキルには、どれもレベルが存在するのに。
その理由は、魔法がどれも、魔力を込める加減と使い手の意思で、使い方が大きく変わるからだ。
例えば、前に聞いた中級魔法「ファイヤーレイン」は、火の粒を空から雨のように降らせる広範囲魔法だ。
だけど魔力さえ豊富にあれば、ファイヤーバレットの魔法にたくさんの魔力を込めて、範囲を広げて使う事で、ある程度は似た効果を出すのも可能となる。
今回のファイヤーアローもそうだ。
今までは魔力が少なく、一度に1本しか出せなかったのが、レベルが上がって保有魔力が増えた事で、2本同時に出せるようになったのだろう。
今後もっとレベルが上がれば、3本、4本と増やす事も可能になっていくはず。
(ガイエンさんのところで魔法のスクロールを買う時も、今の俺じゃ使いこなせないとか教えてもらえるけど、あれは「一回使う分の魔力もまだない」って意味だしな)
高い金額を出して強い魔法を買っても、最低限、一回分を使えるだけの魔力すらなければ、魔法を無駄に遊ばせるだけになる。だから覚える魔法は、魔力をどれくらい使うのかという基準を目安として、下級、中級、上級、特級といったふうに分かれているのだ。
(レベルが高い人が使えば、下級のファイヤーボールも、ボールの大きさじゃないくらい、すごい大きさと威力になるんだろうな)
自分では魔法を覚えていない分、魔法に関しては半端な知識のみで、実際に使ってわかっている訳じゃない。
効率を考えれば自分で魔法を覚えるより、その分の魔力を精霊の召喚に回した方が良いのは確かなので。
(それでも、自分で魔法を使う感覚が欲しいからって、自分が魔法を覚える方が人気なんだよな)
姉もそうだし、雪之崎くんもそうだ。効率よりロマンが優先される事もある。
ロマンだけじゃなく、魔法の効果に己の意思を反映させたいとかもあるのかもしれない。
精霊は言葉が話せないから、魔法を使って欲しい時、意思の疎通がままならない時はある。
こちらの言葉は通じているから、精霊への指示の仕方を考えたり、魔力の量を指定したりと工夫すれば、それなりに理想に近い状態まで持っていけるのだけど。
(あとは属性カスタマイズの問題もあるか)
精霊は属性が多くなると、その分だけ魔力ロスが多くなる性質を持っている。その為、覚えさせる魔法の属性には、慎重にならねばならない。
これは普通の人が魔法を使う分には、そういう縛りはない。魔力さえ足りれば、好きな属性の好きな魔法を覚えられる。そういう部分を煩わしく感じて、サモナーを選ばない人もいそうだ。
(まあ俺は、サモナーと人形使いで十分満足してるけど)
前世でファンタジーが大好きだった影響で、魔法も勿論好きだ。でも、どうしても自分で使用しなければ、みたいな拘りはない。それよりも、効率良く強くなれる方が良いと思って、サモナーを選んだ。
それに精霊も人形同様、愛着が沸いている。
4体目の精霊が召喚できるようになるまではまだ先だけど、そろそろ次の精霊の属性を何にするかは、考えておいた方が良いかもしれない。
「ドロップアイテムも集め終わったし、次に行くか」
人形達が頷くのを確認し、次のヒツジの群れを探しに行く事にする。
「そうだ。次の戦闘が始まる直前には、花琳の守りの魔法も忘れずにかけないとな」
魔力が少ないうちはどうしても、こまめなかけ直しが必要になる。これも魔力をより多く込められるようになれば、もっと時間や効果が上がって使いやすくなっていくんだろうな。
朝は、以前より一時間半ほど早起きし、マラソンに一時間かけて、その後支度に30分かけるのが、最近の習慣になった。
そして夜は主に、勉強に時間を当てている。
これはゴールデンウィーク中で、学校が休みの期間も変わらない習慣だ。
以前、毎日勉強しようと決意した時は、一日1時間が集中力の限界だったけれど、2年になる頃には2時間程まで勉強時間を増やせたし、3年になった最近では、3時間程度まで集中して続けられるようになった。(これ以上勉強時間を増やすと、睡眠時間やダンジョン攻略の時間が削られてしまうから、もうこれ以上は増やさないけど)
無気力だった昔と比べると、随分と精力的な日々を過ごしていると、自分でも感心する。
それができるのも、ダンジョン攻略で能力が上がっているおかげだ。そうでなければ、体力も気力もついてこなかったろう。
ただ、俺は勉強自体が元々苦手……というか、はっきり言ってしまえば嫌いだ。学生がやらなければならない義務だから仕方なくという面が大きい。
将来を考えれば高校は行っておいた方が良いと思っているし、両親と話し合って、大学まで行くよう勧められれば、大学も視野に入れて考えるつもりはある。
ただ現状、勉強が嫌いなのと、ダンジョン攻略を優先させたい気持ちが強くて、大学に行く気にはあまりなれないでいる。
将来、もしもダンジョン攻略ができなくなった場合を考えれば、大学まで行っておいた方が就職に有利だっていう言い分はわかる。
ダンジョンが今後もずっと地球に存在するのかとか、自分がずっとダンジョン攻略を続けられるかとか、心配の種もある。
だけどやっぱり、俺にとって将来仕事にしたいと思えるのは、ダンジョン攻略を職業とするシーカーなんだよな。
ダンジョンだってこの世界に出現してから30年、変わらずにあり続けている訳だし、「もしも」を考えすぎて萎縮しても仕方ない。開き直って過ごすしかないと思う。
そろそろ、初心者ダンジョンも終わりに近くなってきた。初心者ダンジョンを卒業し、下級ダンジョンで戦えるようになれば、シーカーとして最低限、生活していくだけの資金は稼げるようになる。
高校を卒業するまでに下級ダンジョンでの活動に慣れておければ、大学に行かずにシーカーに専念するのは可能だと思う。
(いい学校に行って、いい会社に就職するのだけが、人生って訳じゃないんだし)
生き甲斐に感じているダンジョン攻略を、できればこのまま続けていきたい。
そりゃ、ダンジョン攻略に必要な知識とかは、勉強した方が良いんだろうけど……、必要に応じて本を読んだり、習い事をしたりしするやり方だって、できなくはないと思う。
(大学に行った方が選択肢は増えるし、知識も増えるんだろうけど)
そんなふうに思ったところで、ふと「言い訳だらけだな」と、自分の思考に自分で突っ込みが入った。
結局は、勉強や学校から逃避してるだけじゃないのかって。
(うーん。俺は別に、苦手なものは全部克服しなくちゃいけないなんて、熱血漢じゃないんだけど。むしろストレスが溜まり過ぎて心を壊す前に、逃げるのだって大事だと思ってるし)
人生なんてできるだけ、生きやすい方が良いに決まってる。
でも、生きていく上で、逃げてばかりではどうしようもなくなる時もある。
線引きが難しい。この場合、大学進学は、苦手だからと逃げていいものなのか、覚悟を決めて立ち向かうべきものなのか。
……両親はどう言うだろう。前に話した時はどちらかというと、大学まで行って欲しいような口振りだったっけ。
きちんと話し合わなければ、お互いの気持ちなどわからない。家族であっても言葉にしなければ、伝わらない事の方が多いのだ。
俺は思い切って率直に、今の気持ちを両親に話してみる事にした。
「そうか。……そうだな。無理にとは言わないけれど、私は、できれば鴇矢が大学まで行ってくれれば良いと思っているよ。その方が就職に有利だというのもあるが、鴇矢は人見知りする性格だから、尚更な」
父は俺の主張を一通り静かに聞いた後で、こう言った。
「人見知りするから、行って欲しい?」
(逆じゃなくて?)
人見知りするから余計、学校に行くのが億劫なんだけど。
それでも最近は話ができる友達ができて、少しは学校も楽しくなってきてる。だけどやっぱり、根本的にぼっち体質だってのは、変わってないんだよな……。
「多くの人と知り合う機会を作って、人の輪を広げて欲しいんだ。大学は、人との出会いの場でもある。鴇矢には今後もっと友人を増やして視野を広げ、いろんな体験をして欲しいんだ」
「……人の輪」
父の言い分は、胸に響くものがあった。
視野が狭いと言われれば、「それはそうかも」と思い当たる自覚もある。
キセラの街でもそれなりに人付き合いするようになってきたと思うけど、友人関係の作りやすさで言うなら確かに、学校に行っていた方が良いかもしれない。
人付き合いが得意なタイプなら、学校以外でも交友関係を広げていけるのだろうけど、俺のようなタイプではそれは望み薄だ。
「シーカーを本業にするにしても、そんなに急いで決めなくても良いんじゃないかしら? 大学に行きながら活動する事だって可能なのだし。それにシーカーとして必要な知識だって、大学で学べばいいじゃない」
母もやはり、俺に大学まで行って欲しいみたいだ。
確かに、最終的にシーカーを職業に選ぶにしても、大学に行ってからでも遅すぎるとは言えない。
(勉強が嫌いだからって、親の気遣いを無駄にして良い訳じゃないし。もっと真剣に考えないといけないな)
「そっか……。俺、もっとちゃんと考えてみるよ」
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