第57話 薬屋で買い物、家族と8層の話
スクロール屋、魔道具屋で買い物を終えた後。
今後もし同じような事が起こった場合、3層のポーションでは心許ないので、ダンジョン街の薬屋で、もっと性能の良い怪我回復薬を買う事にした。
キセラの街の北西通りの良く行く店の近所には、薬屋も存在する。どうせ買い物をするなら近場でまとまって買えた方が便利だから、一番近い店に入ってみる事にした。
場所は、いつも行くスクロール屋のちょうど向かいだ。
薬屋の店内は、干した草や香辛料らしきものが天井からいっぱい吊るしてあった。漢方薬局の赴きだろうか?
木の棚には、瓶に入った蛇とか蛙とかまである。ちょっと怖い。
(あれ、普通の人間の人だ)
店番をしている店長と思しき人は、異種族の人じゃなかった。狭い店なので、ここも多分個人経営なのだろう。
(地球の人が店をやってるのかな? でも、ワールドラビリンスの10層まで到達した人ならそれなりに居そうだけど、30層は世界最高峰のパーティがようやく到達したばかりだから、まだ殆どいないはず。……あ、でも、地球の人とは限らないのか)
最初は地球人かと思ったけど、途中でそうでない可能性の方が高いと気づいた。
ダンジョン街にいるのが、見た目が異種族な人ばかりとは限らない。普通に地球人と変わらない見た目の種族の人だって、いてもおかしくないのだった。
これまで出会ってきた街の人がみんな異種族だったから、つい地球の人と見分けがつかない人種はいないと思い込んでいただけだ。
「こんにちは」
「はい、いらっしゃいー」
店主さんは成人男性で、30半ばくらいの見た目だ。外見年齢って、老化防止薬や若返り薬があるから当てにならないけども。
茶色の髪にくすんだ青灰色の目をしている。身長は多分170センチくらいだろうか。
白衣みたいな服を着て、丸い眼鏡をかけて、穏やかな笑顔を浮かべている。
「あの、傷を治すポーションが欲しいんですけど」
「あー、はいはい。怪我を治すのは、下級が5本、中級が5本、上級が7本ですねー。うちで取り扱ってるのは」
店主は敬語のようなそうでないような微妙な間延びした口調で、ポーションの区分を説明してくれた。
「ダンジョンのドロップアイテムがその種類って事ですか?」
(そんで俺の使ってる初心者ダンジョン3層のポーションが、一番下って事かな?)
「いえいえ、うちは一応、ワタシが薬師でしてねー。ワタシが作れるポーションを置いてあるんですよー」
笑顔で否定された。ドロップアイテムではなくて、自作の薬を取り扱う店だったようだ。
「あ、ここで作ってるんですね。そういえば以前、魔道具も作ってる人がいるって聞きました」
そういえば魔道具屋でもアゼーラさんから、作って売る人がいるって教えてもらったんだった。魔道具以外でも、そういう商品があったのか。
「そうですねー。ポーションとか魔道具とか、あとはレベルの低いスクロールなんかも、作ってる人はいますねー」
「え、スクロールもですか?」
意外な言葉に驚いた。
(スクロールって、ドロップ以外にもあるんだ)
スクロールが街で作れるなら、インベントリスキルの品切れとか、なくても良さそうなものだけど。
インベントリスキルは、街で作れるレベルのスクロールじゃないんだろうか。そういえば値段も断トツに高いしな。
「ええ、スクロールを作るのは、錬氣術師とか錬魔術師って職業の人ですねー。スキルにしろ魔法にしろ、スクロールを作るには相応のレベルがいるんで、高いレベルのスクロールは、作ってる人が少ないですねー」
(レベルの低い一部のスクロールだけ、街で自作できるのか。魔道具といい、街の方がその手の技術が進んでるんだな)
地球でスクロールや魔道具を再現作成できたって話は聞かないから、多分あちらでは、まだ再現不可能なんだろう。
錬氣術師とか錬魔術師って職業には一体どうやってなるのかとか、気になる事は色々あるけど、あんまりあれこれ質問するのも迷惑だろう。
「そうだったんですか。教えてくださってありがとうございます」
お辞儀してお礼を言う。これが初めての入店なのに、いきなり商品と関係ない事を訊ねてしまったので、ちょっと反省だ。
「それで、どの階級のポーションをご入用でー?」
「あ、はい。えっと、……下級のポーションって、どれくらいの値段なんでしょうか?」
どの階級かよりも、自分に買える値段かどうかが重要だ。万が一の為にも、買える範囲内でできるだけ良い物を持っておきたい。
「はいはい。下級は、一番下から、40DG、140DG、240DG、340DG、440DGですねー。うちで取り扱ってるのは、全部飲むタイプですよー」
そういえば、ダンジョンのドロップアイテムには塗るタイプのもあった。ここの店では飲むタイプのみ取り扱っているらしい。
(一番高い440DGって、4千400円分か。これなら全員の分でも買えるな)
「じゃあ、440DGのを6本、お願いします」
「はいはい、6本ですねー」
3層でドロップするのより濃いめの赤色のポーションを6本渡され、会計に銀行カードを出す。
「毎度ありー」
「ありがとうございました」
そんな感じで、初の薬屋での買い物は終了。無事に今までよりは高性能の怪我用回復薬を手に入れた。
その日の夕飯に、8層のヒツジの雷撃魔法で気絶した話をしたら、家族みんなに心配された。
最近はできるだけ家族と会話しようと試みてるんだけど、話題のチョイスが悪かっただろうか。
「鴇矢にはまだ8層は早かったんじゃないの? もっと7層でレベルを上げてからでもいいんじゃない?」
「母さん、鴇矢には鴇矢のペースがあるんだ。一緒に行っている訳でもないのに、あれこれ口を出しすぎるのは良くないだろう」
心配する母に、そんな母を宥める父。
母はダンジョン攻略を勧めてくるわりには、心配性なところがあるよな。でも、子供が気絶したって聞かされれば、親としては心配にもなるか。反省だ。
「今後はもっと気を付けて対処するよ。しばらくはもっと数の少ない群れと戦うようにするし」
俺も今後は気を付けるからと答える。ヒツジの数の調整くらいで勘弁してほしい。7層だってイヌが増えすぎると却って危険だし、6層まで戻ると稼ぎ的にマズ過ぎるのだ。
「うーん、俺もパーティメンバーも、ヒツジの雷撃魔法は避けてばっかで当たったことないしなー。帯電体質の対策に、武器の柄にゴムの厚い板状のを巻いたけど、イマイチ使いにくかったし、効果あったか疑問だとか、魔法耐性や雷耐性、麻痺耐性のスキル取ったってくらいしか言えないなぁ」
兄が俺にアドバイスしようとして、できないのに悩んでいる。
(魔法に一度も当たってないとか、流石すぎて参考にならないけども)
兄もその友達も出来が良すぎるせいで、俺の参考にはあまりならない感じがしないでもない。これまで漏れ聞いた話でも、モンスター相手に苦戦した話が全然なかったし。
でも兄は先達なので、この先の体験談は聞きたいけども。
(俺の場合は人形達が帯電を気にしないから特に対策しなかったけど、普通は武器にゴムを巻くとかで帯電対策してたのか)
効果があったのかはイマイチわからないらしいけど、そういう工夫の話自体は参考になる。
「俺は、魔法耐性と雷耐性はもう持ってたんだけど、今日追加で、麻痺耐性と気絶耐性と、緑魔法で衝撃を緩和する「干し草の守り」って魔法も買ってきたよ」
俺なりの対処策を述べる。俺の方が運動神経で無茶を押し通せない分、むしろ兄よりもスキルの数は多いと思う。
「うわ、やだ、8層って、そんなに色んな耐性がないと厳しいんだ。……あたしも他のメンバーも、早めに耐性スキルや魔法を揃えなくちゃ。鴇矢、あんた今度から、もっと慎重にいきなさいよね」
姉はまだ8層に行ってないから、どちらかというと今後の自分のパーティの心配をしている。でも一応、俺の心配もしてくれているな。
「耐性レベルが上がるまでは、無理をしないようにしなさい」
父も母を宥めたものの、やっぱり心配は心配らしく、そう締めくくった。
「うん、そうする。今度からもっと気を付けるよ」
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