第55話 初めての気絶と人形の独自判断

「っ、うぅ!??」

 げほ、ごほ。気管に飲み物を誤飲したような感覚がして、咳とともに目が覚めた。

 目を開けてすぐ視界に入ってきたのは、人形ののっぺらぼうの顔のドアップ。見慣れているはずなのにびっくりした。

「うわっ、なん……ほぉくたん?」

 途中で黒いバンダナが目に入って、その人形が誰か気づく。

 じっとこちらを観察するように俺の方を向いている。

 自分の喋る言葉に違和感を感じて口元に手をやると、口に細いガラス管のようなものを含んだままの状態だった。

(ええ……?)

 とりあえず口からガラス管を取り出す。そこでようやく、周りの状況に気づいた。

 戦闘音がしている。少し離れたところで、人形達がまだ戦っている。


(!! 戦闘中!?)

 横になっていた体勢から、反射的に跳ね起きた。周りの状況を一瞥する。

 残っているヒツジは2匹。人形達は黒檀以外の4人が2対1で当たっている。とりあえず、こちらは心配がなさそうだ。

 他に周りに敵の姿はない。

 一体どういう状況だったか思い出そうとして、自分がどうなったのかを思い当たった。

(ええっと、……ああ!! 雷撃魔法に当たったのか!!)

 やっと自分が、何故こんな状態なのか思い当たった。ヒツジの魔法の直撃を受けてしまったのだ。そしておそらく、気絶してしまったのだろう。


「そうか、黒檀が怪我回復用のポーションを飲ませてくれたのか」

 口に突っ込まれていた短いガラス管の正体にもようやく思い当たった。怪我を回復させるポーションだ。

 3層のウサギからドロップするヤツ。万が一の時の為に、各種ポーションは全員に腰のポーチに持たせていた。黒檀はそれを俺に使ってくれたらしい。


 正直、3層のポーションは効果が微妙で小さい傷しか治らない代物だが、それでも手持ちにはそれしかないし、使わないよりマシと判断したのだろう。

「ありがとな、黒檀」

 俺がお礼を言うと、黒檀は頷いた。

 そして、人形達もちょうど戦闘が終了したようだ。


 俺はゆっくりした動作で、慎重に立ち上がる。とりあえず、体に変な痛みは残っていない。

 人形達がドロップアイテムも放置して、全員一斉に俺の元へ駆け寄ってくる。その姿に、なんだか申し訳なくなった。

「ごめんなみんな、心配かけて」

 わらわらと周りに集まる人形達に、深く頭を下げる。

「あと、ありがとな。俺が気絶してる間も、ヒツジと戦ったり、俺にポーション飲ませたり、役割分担してみんなが動いてくれたおかげで、本当に助かったよ」

 後悔も反省もあるが、まずは頑張ってくれた彼らにお礼を。



 あまりにも順調に人形達がヒツジを倒し、その上、人形には雷撃魔法が直撃しても、大して効いていないしという事で、どこかに油断があったのか。

 ヒツジ8匹を同時に相手にしての、初めての戦闘だった。

 前衛を抜けたヒツジがこっちに距離を詰めてきた時に、(あの個体はまだ魔法を撃ってない)と気づいて、黒檀にフォローを頼んで自分は急いで距離を開けようとして、草に足を滑らせた。

 結果、雷撃魔法が直撃したのだ。笑えない。

 魔法による回復は、精霊を使える俺だけしか使えないのだ。

 もう後衛に下がったのだし、もっと慎重に敵との距離を取るべきだった。


「あー、ドロップアイテムを拾ったら、一度戻るか」

 今のところ体に異常はないようだけど、一度戻って仕切り直した方が良さそうだ。

 人形は頷いてドロップアイテムの回収に散っていく。俺も拾うのに参加しようとしたが、青藍に手で制されて、そのまま待機している事になった。

(マジで心配かけちゃったな……。今後はもっと気を付けないと)

 それと、魔法耐性と雷耐性だけじゃ、雷撃魔法の対処にはまだ足りていないようだ。

 スキルレベルが低いせいもあるから、レベルが上がればまた違うだろうけど、もっと他に、何かないだろうか。


 人形達がドロップアイテムを拾い集めてくれたのを確認して、ステータスボードの緊急脱出システムで部屋に戻る。

 ネットで耐性スキルを調べてみると、「気絶耐性」や「麻痺耐性」というスキルが見つかった。これらのスキルがどこまで有効かはわからないが、少しでも気絶の可能性を減らせるなら儲けものだ。ふたつとも取得しよう。


 その後、人形の持ち物を確認したら、黒檀に持たせていたポーションの他に、青藍に持たせていた閃光の魔法玉もなくなっていた。

 どうやら青藍が俺が気絶した後で、ヒツジと有利に戦う為に自主的に使用していたようだ。

 人形にとって害にならない魔法玉をちゃんと選べている。的確な状況判断ができていて、頼もしい限りだ。

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