第44話 中学3年生に進級、更科くんの幼馴染

 春休みが終わって最終学年に上がった。

 今年の割り当てられたクラスに来てみたものの、話した事のある知り合いがいない。雪之崎くんとも更科くんとも別のクラスになってしまったようだ。

 少し心細い思いで始業式を終える。

 そのままホームルームも終わって帰り支度をしていると、教室の出入り口に更科くんの姿がみえた。


「カミル! 鳴神くん! ちょっといいっ?」

 名を呼ばれてそちらに向かう。もう一人、更科くんに「カミル」と呼ばれてやって来たのは、背が高く体格ががっしりした男子生徒だった。

 教室の入口付近では下校する生徒の邪魔になるので、3人で教室の隅に移動して会話を始める。

「あのね、俺はクラス離れちゃったけど、二人が同じクラスになったみたいだから、紹介しておこうと思って。鳴神くん、こっちは早渡海 神琉(はやとうみ かみる)。俺の幼稚園からの幼馴染だよっ。そんでカミル、こっちが鳴神くん。去年同じクラスでお世話になったんだ」

「そうか、ツグミが世話をかけたな。俺は早渡海 神琉だ。よろしく頼む」

 そういえば以前、更科くんは絡まれた時に庇ってくれる幼馴染がいるって言ってたっけ。この人がそうなんだ。確かにすごく迫力のある見た目だ。

(声も低くて喋り方もぶっきらぼうな感じだなー。でも更科くんの紹介だし、本当に怖い人じゃないんだろうな)

 幼稚園からとは随分と長い付き合いだ。それだけ幼少からの付き合いだからこそ、お互いに名前呼びで定着しているのだろう。

「あ、俺は鳴神 鴇矢です。よろしく早渡海くん」

「雪之崎くんは今年も俺と同じクラスだったよ。鳴神くんが離れちゃったもは寂しいけど、カミルの事よろしくねっ。カミルは優しいし面倒見良いんだけど、顔が厳ついし喋り方もぶっきらぼうだから、初対面の人には怖がられる事が多くてさっ」


「鳴神はツグミとダンジョンに一緒に行ったりするのか?」

 早渡海くんにそう問われ、一瞬返事に詰まった。俺は相変わらず、学校外で彼らと遊びに出かけるとかはしていない。一人でダンジョン攻略にばかり夢中になっている。

 やっぱり、友達とは一緒にダンジョンに行ったり、遊びに出かけたりするのが普通なんだろうか。

「え、ううん。更科くんとはダンジョン攻略とかは、行ってないね。俺や雪之崎くん、……更科くんと一緒のクラスになったその友達は、ずっとソロだから……」

 質問に答えたものの、人付き合いの下手さが如実に出ている。

 ぼっち同士の馴れ合いです、とは言い辛い。しかも更科くんは人懐っこいから、方向性が違うし。

 二人を素直に友達と呼んで良いものかどうかも、実はちょっとだけ迷う。だいぶ仲良く話せるようになれたとは思うんだけども。


「鳴神くんは人形と精霊を使うタイプの戦い方をするから、一緒に潜るとなると収入配分が難しいし、雪之崎くんは自分がどれだけ強くなれるか探求してるタイプだし、俺は攻略よりダンジョン街に遊びに行く事の方が多いし。みんなやりたい方向性がバラバラだからねー」

 更科くんがフォローを入れてくれる。

 確かに人形使いって、他とパーティを組んで攻略する場合、報酬の取り分をどうするかで揉めやすいとネットで見かけた。

 人形を1人分と数えるか人間だけを数に数えるかで、報酬分配額が大きく変わるから。

 元々ソロの俺はその辺は気にした事なかったけど、人と組みたい人形使いの人は、それが原因でパーティを組みづらいとかあるらしい。


「……鳴神も人形使いなのか」

 探るような眼差しで早渡海くんが問いかけてくる。

「あ、そういえばカミルも人形使いだったね」

 俺より先に更科くんが納得したような声を上げた。

「え、早渡海くんも人形使いなんだ?」

 ここで意外な共通点が見つかった。リアルで人形使いの人って、人形を家事に使い始めた母以外では初めて会った。


「人形は災害救助で役に立つ」

「え? 災害救助?」

 ぽつりと語られたその内容の突飛さに、ただ単語を繰り返してしまった。

 そういう観点から人形使いのスキルがどうとかなんて、考えてみた事もなかった。

「……実は父が自衛官であり、人形使いなんだ。俺も将来は、自衛官を目指している」

 補足説明されて納得した。

(なるほど。自衛隊って、災害救助で良く活躍してるもんな)

 日本は災害大国だから、数年に一度かそれよりもっと多いくらいの割合で、自衛隊に災害救助要請が出されている。

 そういうのもあって、俺が自衛隊に抱いているイメージも、救助のエキスパートってイメージが強い。

 早渡海くんは親の影響もあって、自衛隊に入るのを将来の目標に据えているらしい。

「すごいね。もう将来を決めてるんだ。自衛官って、大変そうだけど立派な仕事だね」

 そこからは少し話が弾んで、お互い人形に持たせているスキルなんかを話し合ったりした。鉄板スキルとか、お勧めのスキルとか。


「俺は、硬質化スキルが特に役に立ってると思うな」

 早渡海くんのお勧めスキルを一通り聞いて、今度は俺の番となって、硬質化スキルの話題を出した。

 人形の守りが硬くなって破損しにくくなったのは安心材料だ。値段は高かったけど、十分元が取れていると思う。

「……知らないスキルだ」

 少し驚いた様子で早渡海くんが零した。

(あれ、同じ人形使いの早渡海くんも知らないんだ。……でもそういえば、スキル一覧のサイトにも乗ってなかったんだっけ)

 人形専門スキルって、よっぽど知名度がないのだろうか。

 ネットで全然見かけないからマイナーなのだろうとは思っていたけど、同じ人形使いの人まで知らない程だとは思ってなかった。

「俺もこの前、スクロール屋さんで教えてもらって、初めて知ったんだ。人形専用スキルって分類なんだって」

「人形専用スキルという存在を初めて知った。父もそんなスキルの存在は言っていなかった。硬質化とは、名前から察するに、人形の防御に役立つスキルだろうか」

 ちょっと食い気味に問われた。よっぽど硬質化スキルに興味があるらしい。

「うん、体の表面が金属質に変わるスキルだよ。このスキルのおかげで、だいぶ人形達の破損が減ったんだ」

「是非とも取得したいスキルだ。よければ、そのスキルを売っているスクロール屋がどこにあるか、教えてもらっても良いだろうか」

「うん。富山県の黒部市にある特殊ダンジョンのダンジョン街の中央ゲートから近いところでね。銀行の近くから北西通りに入って、すぐ近くなんだけど……、よければこの後にでも、案内しようか?」

 口だけだとうまく説明できたかどうか、いまいちわからない。

 あのスクロール屋は中央ゲートのすぐ近く、徒歩5分くらいだ。案内しなくてもわかるだろうけど、念の為。

「む、良いのか?」

「うん、ちょうど用事があるから」

 黒檀用の小型化スキルを、買っておこうと思ったのだ。

 必要となった後で、スクロールを用意してレベルを上げてとなると大変だろうし。斥候一人くらい持っていても良いんじゃないかと思って。

 以前スクロール屋の店主は、小型化スキルは店に在庫がないと言っていたけど、注文すれば取り寄せしてもらえるか聞こうと思っていた。なので用事があるのは本当だ。

 最近はお金にも余裕があるから、もし他に欲しいスキルができても一緒に買えるだろうし。


「それなら僕も一緒に行っていい?」

 ここで更科くんが参加表明してきた。

「うん、勿論」

 俺としても、更科くんが居てくれた方が安心できる。早渡海くんとは知り合ったばかりだ。お互いを良く知る更科くんが居てくれた方が、うまく間を取り持ってもらえそうだ。

「ならばこの後、各自の昼食の時間を考えると、1時半頃に待ち合わせで良いだろうか」

「うん。富山県黒部市にある特殊ダンジョン内の中央ゲート前で、待ち合わせしよう」

「了解、一時半に中央ゲートねっ」


 そんな訳で、初の友達(?)とのお出かけとなった。徒歩5分だけど。

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