第43話 武器の変更とヒツジの雷撃魔法
(事前に用意した魔法耐性だけじゃ足りなかったから、俺の分は雷耐性も追加した方が良いな。だけど人形達は今のままで大丈夫そうだ)
少なくとも雷には強そうだ。他の属性の魔法を使う敵が出たら、相性を確かめた上で、必要に応じて耐性を買い足していけば良いかな。後は、主武器を弓に変えるなら弓術スキルも買わないと。
俺が後衛に移ると決めたので、今まで主要武器として使っていた槍の扱いを決めないと。
弓にするなら矢筒を背負うから、槍まで持ち歩くのは邪魔になりそうだ。予備武器は短剣に切り替えよう。
「そうだ、俺の使ってた槍、紅が使ってみるか?」
紅の短槍を買った当時は、まだ全長が小さかったから短槍を勧められたけど、もうそろそろ普通の長さの槍でも扱えるかもしれない。それともまだ早いだろうか。
人形は見た目よりずっと力が強くなっているから、重さ的には大丈夫のはず。だけど長さ的に扱えるかは別だろう。
紅に試しに持たせてみると気に入ったようで、そのまま装備すると言いたいのか、俺の槍を固定する肩かけベルトをぐいぐい引っ張った。どうやらこれも欲しいらしい。短槍を背中に固定する肩かけベルトも似た造りなんだけど、それじゃダメなんだろうか?
「短槍の方はどうしようかな。……え、短槍もいるんだ? 予備武器に短剣持たせてるけど、短剣じゃ嫌なのか? うーん、違う? あ、両方持つのか?」
首を振ったり槍と短槍の両方を握りしめたりといった仕草から、紅の意思を確認していく。
紅は短槍を持って、砲丸投げみたいなジェスチャーをした。
「……ええ、投げるの? 短槍は投げる用に使うって事か? ……そうなんだ。確かに一回しか使えないけど、強力かも。紅も投擲スキル持ってるしな」
そんな感じで、紅は槍と短槍、そして短剣を装備する事になった。
「あ、紅が大丈夫そうなら、青藍の小盾と紫苑の弓も、もっと大きめのものに変えられるのか」
二人の武器はいずれ大きくなれば、普通の大きさのものに変更するつもりだった。青藍の片手剣はそのままでも良いけど、盾の方はもっと大きい方が身も守りやすいだろう。
紫苑の弓も、もう少し大型の方が威力も上がるだろうし。
山吹は既に小ぶりの手斧から普通の斧へと変更しているし、黒檀は投げナイフと短剣より重い武器を持たせるつもりはない。俺の弓を買うついでに、二人の武器も変更して良いか、武器屋で訊いてみよう。
「もう少し大きくなった方がより扱いやすいだろうが、今の大きさでも扱えない事はないだろう」
武器屋にてエルフの店主にそう言われ、青藍の盾と紫苑の弓を買い替える事に決めた。
そして肝心の俺の弓だが……。
「う、外れたっ」
試しに何度か誰もいない方向に射出して試してから、ついに実戦に腕装着式のクロスボウを投入してみたが、射るタイミングがうまく掴めないでいる。
(まだ慣れてないし、弓術レベルも低いから仕方ないんだけど、全然当たらないな)
「あれ? レベルが上がってる」
ヒツジの3匹の群れを倒し終えて、首を傾げる。
今回の戦闘では俺の矢はまるで当たらなかったのに、何故か俺のレベルが上がったのだ。
「……人形から経験値が流れてくる仕組みなのか」
スキルの説明書を調べてみて、俺がまったく戦闘に参加しなくても、人形や精霊から一定の経験値が流れてくる仕組みだとようやく知る。
(これまで前衛だったから気づかなかった)
ただしその代わりなのか、人形や精霊は使い手(契約者)のレベルを越せない制限があるらしい。
青藍とか俺よりレベルが高くなってもおかしくなかったのに、ずっと俺と同じレベルをキープしていたのは、それが原因だったようだ。
「お、今度は当たった!」
3、4匹のヒツジの群れを選んで何度か戦闘を繰り返しているうちに、俺も少しずつ矢が命中するようになってきた。
元々命中させやすい武器として、腕に装着するタイプのクロスボウを勧めてもらったのだ。なのに外してばかりで不安になってきてたから、ちゃんと当たってほっとした。
そもそも俺だって、基礎レベルも各種スキルレベルも上がってるんだ。前の、ネズミやウサギに苦戦していた頃とは、身体能力も反射神経も違ってきてるはず。
「もっと矢が命中するように、クロスボウの練習しないとな」
倒したヒツジのドロップアイテムを拾いながら、独り言が零れる。
不意に、山吹が俺の肩を後ろからぽんぽん叩いてきた。
(これは……励ましてくれてる?)
「あー、うん。頑張るよ」
俺がそう答えると、山吹は満足げ頷いた。どうやら励ましで合っていたらしい。
紅は握りこぶしで片腕を上げる仕草をしてるし、紫苑は自分の弓を掲げて、「自分もやる」と言いたげだ。黒檀は良くわからないというように、首を傾げてみんなを眺めている。
そんな中、青藍は一人マイペースに、ドロップアイテムを拾い集めるのを続行している。
……なんか、微妙に個性が出てきたな。
「それじゃ、ドロップアイテムも拾った事だし、もう一戦いってみるか」
俺がそう宣言すると、人形達は今度は揃って腕を振り上げた。
人形の活躍で、ヒツジとの戦いは至極順調に滑り出した。
斥候がいない分、イヌ相手よりもやりやすいくらいだ。魔法という新要素が出てくる分、斥候役を削る事で難易度を調整しているのか。
それが、人形達に魔法がほぼ効かないせいで、イヌよりも戦いやすいという想定外のおかしな結果に。
順調に戦う数を増やしていく。
4匹相手にしても問題がなかったから、5匹、6匹とヒツジの数を増やしいく。
だが6匹同時相手の戦闘で、紅に雷撃魔法が直撃してしまった。
「紅っ! 青藍、フォローに入ってくれ! 炎珠召喚、あのヒツジにファイヤーアロー!」
1匹のヒツジの雷撃魔法を散開して避けようとした際、紅の避けた先に別のヒツジが放った魔法が飛んでしまったのだ。
紅は体から青白い放電がバチバチと放たれた状態で動きが止まった。
その様子に俺は焦ったが、幸い紅は少し動きを止めただけで、また戦いに戻れた。
「紅、大丈夫か? 体が動かしにくいとかないか?」
戦闘後に訊ねてみるが、本人は問題ないと言いたげに腕をぐるぐる回している。
一瞬、やっぱり人形にも雷耐性のスキルを持たせた方が良いか迷った。
(うーん、雷耐性はパッシブスキルだし、氣を常に消費するからな。必要なければ省いた方が良いよな……。現にスキルなしで雷撃が直撃してこの程度なら、ほぼ効いてないんだろうし)
迷ってはみたものの、結局は止める結論に。
数秒動きが止まるだけで他に支障がないなら、氣の無駄遣いにしかならないだろう。
多分、雷撃に当たったのが俺だったなら、こんなものでは済まなかったはず。下手したら黒焦げで気絶、あるいはショック死の可能性だってある。
それに比べれば、人形は本当に雷属性に強いのだ。
3匹に1回くらいの割合で、羊肉がドロップしている。
ジンギスカン、美味しいよな。これは是非、家で食べる分を多めに確保しよう。
色んな部位があるから、焼き肉だけじゃなくて他にも使えそうだ。母は調理師免許を持っているんだし、きっと美味しく料理してくれるはず。
肉とは別に、5匹に1回くらいの割合で、拳大の大きさの白い石もドロップした。
買い取り窓口に持っていったところ、石灰石と判明した。
(石灰石って、畑とか建物とかに使うんだっけ)
売るものが増えるのは嬉しいけど、7層でドロップする銅よりは安めの引き取り額だった。
効率の良い採石場があって大規模に産出しているから、高値にならないそうだ。
(まあ、何もドロップしないより良いか)
それに7層では肉はなかった。8層は羊肉と石灰石を合わせれば、7層より良い稼ぎになる。
10匹に1回くらいの割合のレアアイテムもドロップした。短い試験管に薄い青色の液体が入って、コルクと謎ラップで封がしてある。これは魔力回復のポーションだった。窓口で鑑定してもらった後、自分用にいくつか確保しておいた。
「今すぐ必要な買い物って、多分ないよな……?」
頭の中の欲しいものリストを確認するが、すぐには出てこない。必要なものがあるのに思い出せないだけなのか、今欲しいものは一通り揃ったのか、どちらだろう。ちょっと自信がない。
「えー? 買いたいものがない状態って、もしかして初めてじゃないか?」
少し金銭的な余裕が出てきたようだ。
理由はまず、イヌよりもヒツジの方がドロップアイテムが高く売れる事。これは当然想定内だ。
だが、それ以外にも収入が増えた原因がある。
イヌ相手の時は、数が多すぎると撤退していた。その時はドロップアイテムを拾う余裕などなかったので、もったいないけど放置していた。
ドロップアイテムは放置した場合、半日程度でダンジョンに吸収されて消滅する。運が良ければ消滅前に回収できる事もあるけど、大勢のイヌが集まった場所だ。早々に戻るのは危険で、あまり回収できずにいた。
ヒツジ相手はその点、周りの群れが参戦してくる事が殆どない。
おかげでドロップアイテムの回収がとても順調だ。その分の収入も増えているのだ。
(ずっとカツカツだったから、こんなに貯金が貯まったのは初めてだな)
春休み中の限られた期間だけで30万円近く貯金を貯められた事に、少し感動する。
収入があるとすぐ使ってしまって、懐に余裕がなかった時期が長かったからな。
(全員に欲しいものができたら、これくらいの額、すぐに吹っ飛ぶんだけど)
できればこのまま80万円まで貯めて、いつ店にインベントリスキルが入荷しても購入できるように、銀行カードに保持しておきたい。
ようやくインベントリの購入が、多少は現実味を帯びてきた。
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