第40話 三体目の精霊、8層へ降りる前の準備
新入りの黒檀には斥候として育ってもらう為に、投擲スキルを覚えさせて投げナイフを装備させた。
腰の両側から後ろまで、ぐるりと10本の投げナイフを提げられる専用ベルトは、防具屋で見繕ってもらったものだ。
それでもナイフ10本だと、一回の戦闘に足りるか足りないかくらいだ。
一応、ナイフのベルトとは別に腰にポーチをつけて魔法玉も持たせているけど、魔法玉を普段使いするのは高すぎて利益が出ない。
仮に敵をうまく一か所に集めて殲滅できたとしても、精々赤字が出ない程度かな?
経験値が入るとはいえ、周りの敵を一か所に呼び集めるのは、失敗時のリスクが大きすぎる。なので、魔法玉は切り札扱いのままにしている。
(ナイフや魔法玉以外にも、投げられるものを何か用意した方が良いのかなぁ)
武器を使い切ってしまったら、その後は完全に手持ち無沙汰というのも避けたい。
やっぱり黒檀にも予備武器として短剣を装備させて、剣術スキルを覚えさせるべきか。
特殊な職業にしたいが為に、他の人形とはだいぶ育て方が異なっている。
どう育てるべきか模索しながら、様子を見つつ中衛よりの後衛として戦闘に参加させているけど、これで無事に斥候として育つかは未知数だ。
崖を上ったりする装備としてフック付きのロープなども持たせたいし、罠解除や鍵開け用の道具も買わないと。そういうのは鍵の絵の看板の斥候専門店に売っていると、魔道具屋で教えてもらった。
黒檀が育ったら、黒いリュックを買ってきて、斥候用の道具を入れて背負わせよう。あまり大きいリュックは潜伏の邪魔になるだろうから、小ぶりのリュックを探さないとな。
「あ、レベルが上がった。これで次の精霊と契約できるな」
精霊召喚のスキルレベルが21になった。精霊ダンジョンへ行って、新たな精霊のカケラと契約する。
3体目の精霊は、植物系の「緑属性」を覚えさせる事にした。名前は「花琳(かりん)」にした。
見た目は最初の白いモヤから、今は木の枝に緑の蔦が巻き付いた姿に変わっている。
「よろしく花琳。これからスクロール屋に行ったら、また召喚するからな」
目当ての魔法を覚えてもらう為、精霊ダンジョンから移動して、いつものスクロール屋に魔法を買いに行く。そこで改めて花琳を召喚しなおして、ふたつの魔法を覚えてもらった。
覚えさせた魔法は、蔦で敵を絡めとって動きを阻害する「蔦の戒め」と、範囲内の仲間の氣力を少しだけ回復してくれる「森の癒し」の二つだ。
特に「森の癒し」には期待してしまう。効果は少しとはいえ、氣力を範囲回復してくれる魔法なのだ。かなり便利そうに思えて、初期魔法のひとつに選んだ。
花琳は支援中心の精霊になってもらう予定なので、他にも、体力回復と怪我回復の効果を持つ魔法も、追々覚えてもらうつもりだ。
魔力を回復する魔法は存在しないそうだ。氣と体力は回復できるのに不思議だ。
(魔力を回復するポーションはあるけど、俺はともかく精霊は、実体がないから飲めないんだよな。……それを言ったら人形も、口がないから氣力回復のポーションが飲めないんだけど)
人形に体力回復や魔力回復は必要ないけど、氣力回復や破損修復(怪我回復)は必要なのだが、ポーション類は飲ませられないのだ。
幸い、魔法で回復するのは有効なので、回復手段が皆無という訳ではないけど。
そんな事情もあって、花琳には回復支援を期待している。
(緑属性が一番、支援に強いんだよな)
回復魔法が使える属性は、緑属性の他にも、聖属性、光属性、水属性などがある。
聖属性は回復魔法各種の他に「邪属性特効」の特性を持ち、聖属性での攻撃はアンデットとかに有効。あとは結界魔法による防御も得意な属性。アンデット以外を相手にするには、聖属性の魔法は攻撃手段に乏しい。特に回復と防御に秀でた属性だ。
光属性は灯り、閃光による目潰し、活力付与などが得意。この属性もアンデットに有効。攻撃としてはレーザー系が使える。ただしレーザー系は軒並み高位魔法で、使えるようになるのは当分先。
低位では支援と少しの回復、高位では攻撃に優れた属性となる。
水属性は飲み水の生成など。癖はあるが攻撃や防御にも使える。特に火属性には強い特性を持つ。使い方によっては便利な属性だけど、回復や支援として考えると他よりやや弱い。
水の特性を生かした使い方ができれば強い。
緑属性は植物全般を扱う魔法で、攻撃や防御には強い魔法はないが、支援で考えるとかなり強い属性。回復、解毒、阻害、援護など、幅広い多彩な支援こそが本領の属性。
植物の種類が豊富な分、魔法そのものも種類が豊富にある。
どの属性も役立ちそうだったから迷ったけど、結局は緑属性に決めた。
3体目の精霊は支援が得意な属性にしようと思っていて、一番支援魔法が多彩そうだった緑属性を選んだのだ。
「花琳召喚、イヌを蔦で縛ってくれ!」
イヌの足止めに、花琳の蔦の魔法は非常に都合が良い。その目的の為にその魔法を選んで覚えさせたんだから、当然と言えば当然だけど。……これで1匹確保。
「石躁召喚、石の檻を!」
最近よく使うようになった、石躁の檻の魔法。これで2匹目も確保だ。
人形達は最近独自の判断で戦う事も多くなってきていて、俺が細かい指示を出さなくても動いてくれている。
俺は周りに気を配りながら槍を振るい、必要に応じて精霊を召喚する。
「山吹、黒檀の援護に!」
それでもやはり時折は指示を出す。
「残りあと3匹!」
黒檀と花琳とで、立て続けに仲間の数が増えたとはいえ、基本は変わらない。
イヌの群れは15匹相手まで勝てるようになってきた。どこまで鍛えたら先に進んでも良いっていう基準はないんだけど、そろそろ8層の様子見をしても良いかもしれない。
8層のヒツジは魔法を使ってくるって話だから、魔法耐性を全員に買い揃えて、少しレベルを上げてからかな。
駄目だったらまた7層に戻ってきて鍛え直せば良いんだし。
武器の取得スキルについても色々悩んだけど、俺、紅、紫苑、黒檀の4人分の剣術スキルを買った。
山吹は予備武器も小さい手斧だし、青藍は元々剣術スキルを持ってる。予備武器をどれくらい使う事になるかわからないけど、剣はオーソドックスだし、武器スキルは該当武器を使ってない時は氣の消費もないはずだから、持ってても邪魔にはならないと思う。
黒檀には予備武器の短剣も買った。腰のベルトが投げナイフでいっぱいだったから、短剣は太ももにベルトを巻いて装備させる事にした。
……そういえば投げナイフって、剣術スキルの範疇に入るのかな。
あと必要なのは、黒檀の斥候スキルの残りか。実は黒檀の斥候スキル、一部は買ったけど、まだ必要と思われる全部は買い終わってない。
低レベルのうちにたくさんのスキルを詰め込んでも氣が足りなくなりそうだったので、様子見しながら揃えている。(人形は疲労も痛覚もないけど、氣力が切れるとスキルを使えなくなる)
黒檀の斥候スキルを一通りと、全員分の魔法耐性スキルを買い揃えたら、8層に挑戦してみようかな。
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