第39話 五体目の人形作成、キセラの街を歩く

 週末、学校が休みなので朝からダンジョンに潜ってイヌを相手に戦っていたら、人形使いのレベルが21に上がった。これで新しい人形が作れるようになった。さっそく家に戻って人形を作成だ。

 5体目は、首に黒のバンダナを巻いて「黒檀(こくたん)」と名付けた。斥候役に育って欲しいのもあって、あえて目立たない色である黒を選んだ。

「これからよろしくな、黒檀。いずれは斥候に育ってくれな」

 作成されたばかりの黒檀の頭を撫でる。まだ硬質化スキルも持っていないから、木肌そのままの感触

 だ。

「さて、黒檀を作ったばかりだけど、これからみんなでダンジョン街に行くぞー」

 今日は元々、昼は人形全員を連れて、キセラの街で訓練施設探しの予定だった。人形を全員連れていくのは、無事に訓練施設を見つけられたら、そのままそこで戦闘訓練がしたいからだ。

 そこにちょうど新入りの黒檀も加わって、総勢6名での大移動だ。




「訓練施設? ああ、第三街区にあるな」

 訊ねた相手は、スクロール屋の店主だ。黒檀用のスクロールを買うついでに、街の訓練施設の位置を教えてもらっている。

「どっち方向へ行けば良いんでしょうか?」

「あー、まず、街の東西に延びる大通りがあるのはわかるな? あれは街を上下半分に分けて伸びてるから、「中央通り」って呼ばれてる」

「はい、銀行がゲート広間の北側正面にあって、大きなお屋敷が南側正面にあるんですよね。広場からは横に中央通りがあって、その他に、あと4本の通りが延びてて」

 広場付近の風景を思い出しながら答える。

「おまえさんが言う南側のお屋敷ってのは、街役場だな。んで、この店がある通りは北西通りだ。中央通りの他に、北側には「北西通り」と「北東通り」、南側には、「南西通り」と「南東通り」がある」

 北と南の正面は大きな建物があって道がない。どういう区分になっているのかと思っていたが、どうやら中央通りを境にして、南北で区別しているらしい。

「なるほど、中央通りの他に、北と南に二つずつ、斜めに通りがある訳ですね」

 中央広場から外側へ伸びる通りは、米の字から|を抜いた形のようだ。

「そうだ。で、街の区画を分けてるのが、街中を環状に巡ってる、中大通りと外大通りだな。第三街区は街の外れだから、どの道を行っても辿り着くが、訓練所が多いのは、中央通りを西へ行くコースだな」

 どうやら訓練施設は複数あるらしい。そんなに戦闘訓練に施設を利用する人が多いんだろうか。

「なるほど。……あの、訓練施設って、どんな看板が下がってるんでしょうか?」

「案山子に向かって、剣を持って切りかかる人が描かれた看板が訓練所だ」

 なるほど。確かになんとなく意図が伝わりそうな看板だ。

 これだけ詳しく聞ければ、きっと辿り着けるだろう。

「そうなんですね、わかりました。教えてもらってありがとうございます」

「まあ、街の構造なんか把握してなくても、ゲートで行きゃあ一発で第三街区に出るがな」

「うわあ、言われてみればそうでした……」

 ダンジョン街には至る所にゲートが設置してあるっていうのを忘れていた。

(でもせっかくだし、初回は街の探索も兼ねて、徒歩で目的地まで向かってみようか)

 買い物を終えて聞きたい事も聞けたので、話を切り上げて店を出る。その後、いったん中央ゲートのある広場まで戻ってきた。

 街の地理を知って改めて見てみると、ゲート広場から伸びる6本の通りは、東西に横切る「中央通り」が一番広く、他の4本はそれより細い作りになっていた。


 中央ゲートがある広場は、水を噴き上げる噴水が設置してあったり、ゲートにアクセスできる石柱があちこちにあったり、ベンチがあったり花壇があったり公衆トイレがあったりして、かなり広い空間が取られている。

 ゲートを出て正面北側が銀行、南側が役場、他に広場に面しているのはベッドの絵の看板の宿屋、カップの絵の看板の喫茶店、料理の乗った皿とフォークの絵の看板の食堂など、食事処が多めになっている。


 今日はこれから教えてもらった通り、中央通りを西へ進んでみる。

(スクロール屋、武器屋、防具屋、魔道具屋、薬屋、本屋。……あの宝石のついた指輪の看板は、アクセサリー屋だっけ)

 看板の絵から、どの店がどんな商品を扱っているのか読み解きながら、通りを歩いていく。

 中央通りの店舗はどれも、普段行く北西通りの店舗より大型で、豪華な店構えが多かった。いつも行く中央の銀行と同じくらいか、その半分くらいはある。

 中央通りに出店できる店舗は、それだけ金や力があるという事なのだろう。

 東京にあるダンジョン街は、ここより更に規模が大きな店舗がたくさん並んでいるらしい。更科くん曰く、街の規模そのものが違うというし。


(アクセサリー屋って、能力補助系の効果がある魔道具が売ってるところだったっけ)

 ただし値段が、最低でも100万円以上からの超高級品らしい。少なくとも初心者が手を出せる値段ではない。

 ネットではアクセサリー屋に関して、「性能がクズでも高い」と評されていた。

 性能の良いアクセサリー類は、更にいくつか値段の桁が違うそう。

 金持ちの高位シーカー向けの店だ。今の俺には縁がない。


 環状に街を巡る中大通りはすぐわかった。道の広さが他と違う。中央通りと同じくらい道幅が広い。

 そして交差する四辻の一角が草木や花で溢れた公園になっていて、その中央には大きめのゲートもあった。一度公園内のゲートに寄って確認してみると、「富山県 黒部市 特殊ダンジョン 1層 街中 第二街区 中央通り 西公園ゲート」となっていた。

(キセラの街って名称は、ゲートには入ってないんだな。道理で聞き覚えがないと思った)

 更科くんは多分、仲良くなったという街の住人から直接、街の名を聞いたのだろう。


 第二街区に入ると、店舗の種類がシーカー向けのものから、林檎の絵の看板の生鮮食品や、ワンピースの絵の看板の服屋といった、生活系の店へと変わった。

(骨付き肉の看板は肉屋、タンスの看板は家具屋、花は花屋、……缶に入ったクッキーか、あれはお菓子屋だな。注射器は医者かな? 霧吹きと籠の看板は……雑貨屋とかかな? デフォルメされた座った動物の看板はぬいぐるみ屋なんだろうな。描き方が本物の動物と違う感じがするし。ペットショップはまた別にあるのかな?)

 それぞれ提示されている看板から、何の店なのかを推測しながら歩いていく。

 この辺りは住宅街なのだろう。大通り沿いに住民向けの店舗が並び、細い路地添いは個人の邸宅が並ぶ住宅地になっているようだ。


 しばらく歩いていくと、また大通りがあった。これが外大通りだろう。そしてまた緑豊かな公園にゲートが設置してある。こちらには公衆トイレと子供用の遊具や砂場、小さな噴水なども設置してあった。

(さっきの公園よりも広めかな)

 ここは多分「富山県 黒部市 特殊ダンジョン 1層 街中 第三街区 中央通り 西公園ゲート」だろうな、と先に予想してゲートにアクセスして見てみると、やはりそのままの名称だった。

 つまりこの先が、お目当ての第三街区になる訳だ。



 第三街区は、倉庫らしき外観の建物や、体育館のような建物、あるいは劇場など、全体的に敷地面積の大きな建物が多かった。住宅や店舗以外の建物は、この区画に集められる傾向なのかもしれない。

 他にも、鍛冶をやってる独特の音が響く工房もある。金槌の看板だ。多分ここで武器なんかを作成して、それを武器屋で売るんだろう。

 半円形の竈の前に、長方形の品が綺麗に積み上げられた絵の看板もある。

(製鉄所かな? ……あ、これレンガか。そっか、この街の建物、レンガ造りだもんな)

 建材が日本とは違うのだと、妙に納得したり。

 動物の皮の看板の皮を加工するらしき皮工房や、年輪が描かれた細長い加工された木を積んだ看板の、木工所らしき工房もある。どうやら第三街区は全体的に工房の多い区画でもあるようだ。


 あちこち見物しながらゆっくりと歩いていると、お目当ての「案山子に向かって剣を振る人」の看板も、わりとすぐに見つかった。

 体育館のような建物と、広いグラウンドがいくつかの区画に分かれて併設されている施設だ。

「ここか。みんな、入ってみるぞ」

 人形と一緒に建物の中に入ってみる。

 建物の内部には受付があった。受付にいたのは、竜人と思しき種族の、筋肉モリモリの大柄な中年男性だ。椅子に座っているが、立ったら多分余裕で2メートルを超えそうな長身だ。青緑の鱗や翼などがあって、紺色の髪と朱色の縦長の瞳孔の目。顔が厳つくて迫力があった。

「ここは訓練施設ですよね?」

「そうだ。利用者か?」

「はい、料金はいくらでしょうか」

「……屋内は一部屋で、一時間200DG。屋外で1区画なら、1時間100DGだ」

「それは一人分ですか? 人形の分は別扱いでしょうか?」

「いや、1区画の値段だ。何人で使っても問題ない」

(うわあ、本当に安い。更科くんの言ってた通りだ)

 屋外の区画だと、日本円にして1時間千円。日本で借りたらこんなものじゃ済まなさそうだ。

 土地にもよるだろうけど。田舎ならもしかしたら安く済むのかもしれない。

 受付を済ませて訓練用の区切られた区画に移動する。外で戦う想定なので屋外を借りた。広さはバスケットコート4面分か、それよりもっと広いくらいか。人形5人と俺が動き回るのを想定しても十分な広さがある。

 訓練用に、案山子が数体、そして弓を射る用の的も設置してあった。

 日本の季節は冬だけど、この街は年中いつ来ても過ごしやすい気候のままだから、野外でも訓練しやすい。



「じゃあ、訓練を始めようか。黒檀は見学からな。どうして訓練が必要なのか説明するから」

 そんな感じで新入りの黒檀に、多対1の訓練をする意義なんかを説明する。その間に他のみんなは、家から持ってきた模擬戦用の武器を使って、多対1を想定した訓練を開始した。

 全長30センチでまだ一度もレベルアップしていない黒檀は、他のみんなに混じって訓練するのは無理だけど。

 それでも一応、こういう事をやっているんだと見せるのは、無意味じゃないだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る