第37話 多対1の戦闘訓練をしてみる
青藍と紅と山吹にリュックを買った。それぞれ、青、赤、黄色の鮮やかな色合いのリュックだ。なかなか可愛い。とても似合っている。並んでると信号機みたいだな。
(うんうん、装備が整っていくって良いよな)
……ちょっと現実逃避してしまった。
現在、全員分の記憶力強化、そして紫苑の気配察知と俯瞰のスキルスクロールを揃えて。
それからもうすぐ作成できそうな5体目の人形用に、斥候のスキルスクロールを買う為の貯金も始めたところだ。
そうこうしているうちに、もう冬休みも終わりである。
(なんか、あっという間に休みが過ぎてしまった……)
相変わらずイヌと戦ってばかりで日が過ぎた。
なのにまだ、買いたいものは山積みだ。
俺の弓術スキルも買わないといけないし、予備の武器として短剣を持つなら、剣術スキルもあった方が良いのか、とか。
俺が剣術スキルを予備用に持つなら、短剣を予備装備にしてる人形も全員剣術スキルがあった方が良いのでは? とか。
あるいは武器を失った時の為に、格闘スキルもあった方が良いのか? いやでもモンスター相手に素手は無理……あれ、もしかして人形ならいけるのか? 硬質化あるし、とか。
色々考えているうちに、あれもこれも欲しくなる。本当に必要かどうか要検討。
(まだまだ買わないといけないものがいっぱいある件)
一体いつになったら金に余裕が出てくるのか。
(5体目の人形を作ったら、その後しばらくは新しい人形は作れなくなる訳だし。その間なら金もそんな消費しないで済むのかな)
となれば、その辺りでインベントリのスクロールを買う為の資金集めがしたい。80万円もするのだ。余裕のある時にコツコツ貯めていかないと、いつまで経っても貯まらないだろうし。
人形が10体も部屋の中に待機している状態では、自分が休む隙間がなさそうだ。人形使いにとって、インベントリはいずれ必須の代物である。
「さて。今日、わざわざ1層に来ているのは、戦闘訓練の為だ」
俺は人形達を見渡しておもむろに宣言した。
言葉の通り今日は全員で、1層にある大きめの部屋に来ている。部屋の中にいた最弱スライムは邪魔なので、さくっと片付けてある。
「俺達は今、7層のイヌの群れを相手に戦ってる訳だが、一人で2匹を足止めするのがやっとで、一人に対して3匹以上が襲ってくるような状況では、撤退するしかないよな」
人形達はちゃんと話を聞いてくれているようで、うんうんと頷いたり、それが問題だ、と言わんばかりに腕組みをしてみたりして、個々がリアクションを返してくれる。
「だけど、2匹の足止めがやっとでは、数が多い群れ相手にはずっと対処できないままだ。この状況を打開するには、多対1の戦闘で、有利に立つ方法を学ぶ必要があると思う」
一人で2匹までしか受け持てない今の状況を打開しないと、今以上の数には対処できないのだ。
モンスターと戦うのではなく、訓練の為にわざわざ時間を取ったのは、その方法を人形達に学ばせたいからだ。
(とはいっても、俺も全然できてないんだけど!)
理論としてはなんとなくわかるものの、自分が全然できていないものを人(この場合は人形だけど)に教えるなんて無茶だと思う。
しかし、武芸とかそういったものを本格的に学ぼうとすれば、武術道場にでも通って、最短でも数か月。普通は年単位で教えてもらわなければ身につかないだろう。それとも戦略とか戦術とかって、机上の勉強で身につくものなのだろうか。それすらわからない。
(そもそも俺自身はともかく、人形に武術って、果たして教えてもらえるものなんだろうか?)
そんな疑問もあって、こんなふうに付け焼き刃の本の知識だけで、自力で対応しようと試みている。
「本で読んだところ、多対1の基本は、「1体1を数回繰り返す」事にあるとあった。つまり、複数の敵を相手にした時、うまく他の相手と距離を取って、1体ずつ順番に片付けていくのが正しい対処法なんだ。その為のプロセス? そういうのを訓練しよう」
例えば、1体を遠くに突き飛ばす。その隙にもう1体の相手をする。
例えば、1体にダメージを与えて一時的に動きを止める。その隙にもう1体にもダメージを与えていく。
例えば1体を自分と敵の間に挟む事で、攻撃し辛いような立ち位置に意図的に誘導する。
言葉にすれば簡単なのに、いざ実践しようとすると難しい。
これまでの俺達の戦闘では基本的に、複数を相手にする場合は足止めに専念し、他の手隙の味方が敵の数を減らしてくれるのを待つばかりだった。
そこを改善したいのだけど、どうすればうまくいくのかわからない。
「1対1を、細かく複数に分けて繰り返す。それを意識して戦うだけでも違う、……と思う。今から2対1に分かれて、訓練をしてみよう」
そんな訳で、俺も含めて全員で訓練してみて、どう動けば良いのか模索していく事にしたのだ。
今日の訓練の為に、訓練用の刃の潰れた武器や、矢じりのついていない木の矢なんかを用意してきた。……また出費が嵩んだ。
「今後も定期的に、訓練の時間を取っていこうと思う。みんなもどうすれば効率よく戦えるのか、考えながら戦ってくれ」
そんな感じで訓練が開始された。
「青藍は盾で相手の攻撃を弾くだけじゃなく、攻撃してきた相手の態勢を崩す事を意識して盾を使うようにして、それで相手が隙を作ったら、そこを狙うと良いんじゃないかな」
「紅は、槍のリーチをうまく使って、一人ずつ敵を分断するのを意識して……」
それぞれの訓練を見ながら、改善できそうな部分を指摘してみる。正直俺も素人なので、自分の指摘が正しいかどうか、わからないのが辛い。
知り合いに武術に詳しい人でもいて、気軽に頼み事をできるような間柄だとか、そういうチートでもあれば良かったのだけど。そんな都合良くはいかないよな。
……独学とはいえ、実際にやってみてわかる事もあった。
例え刃が潰されていても、武器を持った相手って怖いなって改めて実感した。
多対1の訓練はすぐに成果は出なかったけど、人形達もそれぞれ自分で考えて、戦う際の動きを変えようと努力しているのが窺えた。
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