第34話 魔法玉の使用感テスト
俺と人形達がそれぞれ試せるように、後日魔法玉を買い足した。
今日は魔法玉の使用感の初テストである。
魔道具屋で買った使い切りの魔道具「魔法玉」は、「爆炎」「氷結」「爆風」「閃光」の4種類ある。
ひとつ1万円相当の値段でありながら使い切りというかなり贅沢な魔道具だが、切り札にするには良いと思う。
ただ、実際の使い心地を知らないと切り札にもできないので、今日試してみる事にしたのだ。お金は勿体ないけど、これも必要経費と割り切った。
玉を持った状態で「起動」と念じて7秒後に込められた魔法が解放される。そのタイミングに合わせて敵に投げ込んで使う。
説明だけなら簡単そうだが、実際に使うには神経を使う。
敵味方関係ない範囲攻撃なのだ。もし発動までの秒数を誤ったりすれば、当然こちらにも被害が出る。
閃光の魔法玉を使う場合、目を閉じていなければ視力に支障が出る。
(そういえば人形達って、周りをどう「視て」るんだろ? 閃光の目潰しとか効果あるのかな?)
そもそも顔に目がついてないのだ。でも確実に見えてはいる。どういう方法で見ているのかはわからないけど。
もし人形に支障がないなら、俺一人だけ気を付けて使えば、うまくすれば敵の視力を一時不能にできる訳で。
(これはぜひ試さないと!)
まず試すのは、失敗しても比較的被害が少なそうな「閃光」か「暴風」だろうか。「爆炎」と「氷結」は、失敗して味方に被害が出たら洒落にならなさそうなイメージがある。
そんな訳で、一番被害が少なさそうな閃光の魔法玉から試してみる。
人形達全員に、起動を念じて7秒後までに投げるようにと、使い方を説明して、できるだけ味方の被害が出ないように言い含める。どこまで通じてるかわからないのが不安だけど、頷いてるのできっと大丈夫。
最初の投擲役は青藍からだ。
「う、敵が目の前にいるのに目を瞑るの、怖いんだけどっ」
しかし目を開けていたら確実に閃光でやられる。俺は青藍が投げる方向とは逆方向の敵と対峙する事にして、細目にして気配察知や俯瞰のスキルで戦場を把握しようとした。
「うぐ」
目を瞑るのはタイミングが微妙に合わなかった。
直視していないのにそれでも眩しい。多分辺り一面が瞬間的な光の渦に包まれた。
俺は思わず動きを止めた。イヌの群れも動きを止めている。
一方、うちの人形達は何の影響も受けていないのか、普通に動いているのがスキルでわかる。
(おお!? やっぱり人形には閃光が効かないのか!?)
動きを止めたイヌを相手に、的確に攻撃し深手を負わせているようだ。
だがその時、イヌの遠吠えが別方向からほぼ同時に響く。ふたつの群れが参戦してくるとなれば、流石に分が悪い。
「撤退するぞ!」
ステータスボードで脱出システムを立ち上げるのに、目がチカチカして操作がやり辛かった。パーティで唯一脱出機能が使える俺が、それを使えなくなるのは非常にマズい。今後閃光を使う時は、戦闘を人形に任せて、俺は目を閉じるのに集中した方が良さそうだ。
ゲートから再び7層に戻ってきて、次に試すのは「爆風」だ。今度は俺が自分で投げてみる。
「あっ」
気持ちが逸って、投げるタイミングが早すぎたようだ。起動するより前に敵の足に跳ね飛ばされて、魔法玉がこちらにコロコロと転がってきてしまう。
そしてヤバいと思ったタイミングで魔法が解放されてしまい、爆風がその場所中心に吹き荒れる。超局地的な竜巻みたいだ。
「うぎゃー!!」
(失敗したー!)
爆炎を試さなかっただけ、まだマシなのだろう。強風だけなのだから。それでも敵味方関係なく吹き飛ばされて大惨事になった。
(あれ、これ、イヌがこっちに玉を戻してこなくっても、同じ結果だったんじゃ……)
そもそもこの魔法玉、どうやらもっと遠くまで、距離を開けて投げつけるもののようだ。そこでようやくそう気づいた。
その後、全員よろよろしながらも態勢を立て直して何とか戦いに戻ろうとしたところで、今度はみっつの遠吠えが聞こえて、やはり即時撤退した。
もし傍から見てる人がいたとしたら、失笑するような戦闘風景だったろう。
「みんな、体に異常はないかー? 異常があったら手を挙げて知らせてくれー」
部屋に戻った後で確認する。人形達はそれぞれ、首を振って頷いたり、腕をぐるぐる回してみたり、ぴょんぴょん飛び跳ねたりしている。
動きに問題はないというアピールだろうか。
どうやら支障ないらしい。
あんな竜巻もどきに吹き飛ばされるような目にあって怪我もなく済むなんて、俺も含めて、みんな随分と丈夫になったものである。基礎レベルの上昇や身体強化や剛体などの各種スキルレベル上昇の効果を、変なところで実感してしまった。
(それにしても、投擲スキルがいるな、これは……)
投擲スキルはそんなに高いスキルじゃなかったはずだし、全員分購入しようかな。
……結局、今日のテストでは「爆炎」と「氷結」は試す事もできなかった。
仕方ない。安全第一だ。投擲スキルを揃えてスキルがある程度育ってから、また魔法玉のテストを再開するとしよう。
その後も、「閃光」と「爆風」に十分慣れるまでは、他の魔法玉は使わなかった。
投擲のスキルスクロールを買って、魔法玉を必要なだけ遠くまで投げられるよう、人形と一緒にビー玉を使って投擲の練習を重ねた。
そして十分に魔法玉の扱いに慣れてから試した「爆炎」と「氷結」は、想像通り凄まじかった。
「爆炎」はまるでダイナマイトでも使ったかのような威力だったし、「氷結」は十メートルほどの地面とその上に立つ者を、かなりの範囲で一気に凍らせた。
後日、魔道具屋で魔法玉に使っている魔法の種類を聞いた。
爆炎は「ファイヤーボム」、氷結は「アイスロック」、爆風は「トルネード」、閃光は「シャイニングフラッシュ」という魔法を込めてあるそうだ。
その後スクロール屋でそれらの魔法について詳細を聞いたところ、どれも「ファイヤージャベリン」や「石柱撃」よりもずっと多くの魔力を使う中級魔法であり、今の俺にはとても扱えないと教えてもらった。
あと、魔法玉には俺の予想外の副作用もあった。
込められた魔法の威力が高すぎて音や光が周辺にまで届くせいで、周囲にいる他の群れに気づかれて、群れをまとめて呼び寄せやすくなってしまっているのだ。
魔法玉を使用した直後に何度も複数の群れに途中参戦されて、その副作用に気づいた。あれだけ派手な威力になると、そういう問題も起こるようだ。
けれどすべての魔法玉がそうだった訳じゃない。
その中でただひとつ例外だったのは、氷結の魔法玉だ。
氷結の魔法玉だけは、使用の際に大きな音も光も出さなかったのだ。おかげで周りの群れを呼び寄せる事もほぼなかった。
イヌの群れにこの氷結の魔法玉を使うと、イヌの体長が低いのもあって全身が氷漬けになる。おかげで倒すのが非常に楽だった。
どうやら、草原フィールドのように開けたところで使うには氷結の魔法玉が最適で、狭い部屋や通路などで使うには、閃光の魔法玉が最適なようだ。
そういった事も含めて、実際に使ってみて色々とわかったので、今後は必要に応じて使い分けていけそうだ。
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