第26話 庭の草むしりと二体目の精霊

 お盆恒例の実家への顔見せと先祖のお墓参りも終わった。ここからは夏休み後半となる。

「人形さんって便利なのね」

 母が嬉しそうに笑って麦茶を飲む。

 その視線の先には、日の当たる庭で黙々と草むしりをする人形達の姿がある。

「まあ、たまに部屋の掃除とかを手伝ってもらう事はあるけど……まさか草むしりでこんな活躍してくれるなんて、俺も思わなかったよ」

 俺にとっても意外な使い道だ。

 普段はダンジョン攻略時以外、人形達はずっと待機状態で、破損の修復や氣力回復の為に休ませているのだが、今日は母に頼まれて草むしりに駆り出している。

 最初に母に聞きながら、「この草は抜いていい草、これはダメ」というふうに指示を出し、あとはほぼ人形達に任せて、俺と母は日陰に座って、麦茶を飲みながら見学中である。

 申し訳ないが、真夏の最中に炎天下で草むしりするのは、気力も体力も持たなかった。

 人形には疲労がないから、こういう単純作業は任せやすい。なので途中からは完全委任で見守っている状態である。

「家事も簡単なものなら手伝ってくれそうだし、便利でいいわね。私も人形使いのスキル、買っちゃおうかしら」

「ええ、どうなんだろ。レベル上げ、大変じゃない? スキルや武器を揃えるのも大変だけど。……でも母さんが家事中心に使うなら、レベル以外はそんなに色々揃えなくてもいいのかな?」

 レベルの低いうちは、体も小さいから大した手伝いはできないと思う。レベルが上がって大きくなってくれば、ある程度の家事はできそうだ。それに家事の手伝いくらいなら、わざわざ高い戦闘用のスキルを買って覚えさせなくても問題なさそうだし。

 無給でメンテナンスの費用や手間も必要なく、簡単な指示出しだけで動いてくれるロボットって考えれば、人形使いのスキルってすごく有用な気がする。


「ふふ、人形さんが大きくなってくれれば、洗濯物を干したり、家の掃除をしたりしてくれそうで、夢が広がるわ。確かにレベルを上げて育てるまで、時間がかかりそうだけど」

 母は人形の便利さにいたく感心しているようで、この分だと本当に、人形使いのスクロールを入手するかもしれない。

 父と母は休日に、夫婦二人でダンジョンに潜っている。結婚前の学生時代からずっとそうしてきたそうだから、少なくとも俺よりはずっとレベルは上だろう。具体的にレベルがどれくらいだとか、どんな難易度のダンジョンを攻略しているのかって話は、両親は全然しないから、俺にはわからないけど。

 母なら人形を使えるレベルまでレベリングするのも、そう時間はかからないか。

「今度、父さんとも相談して考えてみるわ」

「人形って数が多くなってくると、待機場所に結構場所取るけど、母さんってインベントリのスキル持ってるの?」

 気になって訊いてみる。

 亜空間に自分専用の空間収納を作って、ものをしまえるインベントリスキルは、俺もいつか欲しいスキルだ。

 人形が3体の今でさえ、俺の部屋の面積をそれなりに圧迫している感じなので、できれば10体になるまでにはインベントリが欲しいと思っている。

 ただ問題は、インベントリのスクロールが非常に高くて、ダンジョン街の正規品でもインベントリスキルは日本円で80万円もの値段がする事だ。

 しかもダンジョン街の店舗ですら常時扱っている品じゃなく、運良く入荷した時しか買えないという、超がつく希少品なのである。

 地球で買おうとすると、更にその何倍もの値段がつく。

 バッグに拡張機能がついているアイテムボックスという魔道具もあるけど、そちらも性能によって値段が違うといえど、どれも全般的に高値で、俺にはまだ手が届かない。


「あるわよ。やっぱりインベントリはあるとすごく便利よ。買い物の持ち帰りにも使えるし。重い荷物を運ばないでいいのって、すごく助かるの」

「……探索より日常で便利なんだ」

 母にかかると人形もインベントリも、主婦の必需品みたいな扱いになってしまう。日常生活でも、あれば確かに便利だろうけど。

 その後も1時間ほど、人形達が草むしりするのを見守って、本日の手伝いは終了となった。

 母からは毎月の小遣いとは別に、特別に1万円を支給された。草むしりの手伝いのご褒美だ。これは人形達が頑張ってくれたおかげで得た報酬だから、人形達のスキルを買う時の資金の足しにしよう。





 俺のレベルは順調に上がっていた。

 今のレベルは基礎14、人形使い14、身体強化14、知力強化13、記憶力強化13、痛覚耐性12、精神力強化12、精霊召喚11、槍術9、剛体9、体力増強6、気配察知5、危険予測4、氣力増強4、魔力増強4となった。


 青藍は基礎14、初期スキル(自動修復、自律行動、学習知能)14、身体強化14、剛体8、盾術7、剣術6、氣力増強4。強化は筋力+1、素早さ+3。

 紅は基礎14、初期スキル(自動修復、自律行動、学習知能)14、身体強化14、剛体8。槍術7、氣力増強4。強化は素早さ+4。

 紫苑は基礎12、初期スキル(自動修復、自律行動、学習知能)12、身体強化10、剛体7、弓術6、氣力増強3。強化は知力+1、器用さ+2。


 青藍と紅は基礎レベル14に上がり、全長95センチに育った。紫苑も12で85センチまで育っている。最初の頃に比べれば、かなり大きくなってくれたな。戦力としてもそこそこ頼もしくなってきているし。特に武器を変えてからは、皆それぞれ個性を発揮して、役割に応じて戦ってくれるようになっている。


 サモナースキルも11に上がったおかげで、召喚できる精霊の数が2体に増えた。

 新たに精霊のカケラを契約して、その精霊に「石躁(せきそう)」と名付けた。


「これからよろしく、石躁。石と土の精霊として育ってくれな」

 石躁にはまず「ストーンウォール」の魔法を覚えてもらった。その結果、白いモヤの姿だったのが、灰色の石壁のミニチュアのような姿に変わった。手足はないけど、ぬりかべみたいなイメージか。

 ミニチュア姿で、そのまま宙に浮いてるけど。

 資金が貯まったら、土を操作して土嚢や塹壕を作ったり落とし穴を作ったりできる「土操作」の魔法も、そのうちに覚えてもらう予定だ。

 石と土の二重属性となるが、石と土なら相性が良いし、敵が大勢出た時に足止めできる魔法は重要になると思う。

 土を操る魔法だから地面が土以外の場所じゃ使えないけど、地面限定でも十分有用な魔法だと思う。

 一方、攻撃魔法である「ストーンバレット」などは石属性の他に少しの風属性も備えているから、こちらの魔法はやめておく。

 石で尖った石柱を生み出す「石柱撃」という魔法は、石の単一属性なので使えそうだが、消費魔力がかなり大きな魔法なので、レベルが低い今はまだ、い勝手が悪いかな。そのうち石躁のレベルが上がって魔力に余裕がでてきたら覚えさせよう。


 そんな感じで、現在精霊のレベルは、


 炎珠が基礎レベル11 属性は火(+少しだけ風)

 覚えている魔法は「ファイヤーボール」「ファイヤーバレット」

 石躁が基礎レベル1 属性は石

 覚えている魔法は「ストーンウォール」


 となっている。

 お盆や庭の草むしりなんかでちょっと予定が延びたけど、今度こそこのメンバーで、7層のイヌへと挑戦だ。

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