第25話 タカとの戦闘、二度目のスクロールドロップ
6層に出現する敵のモンスターはタカ型、つまり鳥タイプである。
なので自然と、敵を探す時は空を見上げる形になる。偶に木の枝に止まっている時もあるけど、大抵のタカは上空を旋回している。
気を付けなければならないのは、鋭い爪と嘴。基本的にはニワトリと同じだ。違いは飛翔時間や滑空スピードか。
大きさは、本体だけならニワトリよりかなり小さい。翼を広げると同じくらいか。
数羽がこちらに気づいて、警戒態勢に入ったようだ。そのうちの一羽が強襲してくる。
俺は槍を構えて迎え撃とうとしたが、空中から猛然と襲ってくる相手にうまくタイミングを計れず、そのカギ爪を避けるだけで精一杯だった。
「うあっ!?」
避けた後、態勢を崩しつつも反撃に移ろうとするが、もう遅く、タカはさっと身を翻して上空へ戻っていくところだった。
「一撃離脱タイプか」
これでは、攻撃が当たるまで悠長に、何度も槍を繰り出す機会がない。敵が降下してきたのに合わせて、カウンターを仕掛けるしかない。
人形達にもそれぞれに武器を構えさせ、タカが降りてきたらそれに合わせて攻撃するように指示を出す。
俺も最初から槍を構えて、次のタカの襲撃を待った。
数分後、次のタカが降下してくる。先ほどのタカと同じ個体なのか違う個体なのかは、区別がつかない。ただ神経を集中して、タイミングを合わせる事だけを意識する。
「っ、!!」
俺の槍がわずかに翼を掠ったが、ほぼ同時に相手のカギ爪も、俺の肩あたりを強襲した。
「い、っう……っ」
防具の上からとはいえかなりの衝撃と痛みを感じて、反射的に身が竦む。その隙にタカはまた身を翻し、上空へ逃れてしまった。
翼に掠った俺の一撃は、ダメージになる程ではなかったらしい。そして人形達は、俺と敵の距離が近すぎて、同士討ちを恐れて手出しできなかったようだ。
「難しいな、これは」
肩を手で押さえ、呻くように愚痴を零す。
相手の戦法はわかりやすい。こちらにダメージを与えたか否かは関係なく、自身の体勢を整える事のみに注力して、素早く逃げていく。
倒すには、弓か投石のような遠距離攻撃かカウンターくらいしか、方法を思いつけない。精霊の召喚は、降りてくる瞬間にうまく狙いをつけられず、できなかった。
こちらに急降下して攻撃してくる相手から攻撃を避けながら、タイミング良く精霊を召喚するのは難しそうだ。慣れれば素早く召喚できるようになるだろうか。
攻略法を悩んでいると、不意に人形達が鋭く動いて、俺に警戒を促してくる。
「え? っと、背後から来たかっ」
視界に入ってなかった位置からの、タカの強襲だった。ギリギリで躱したが、予想外の襲撃に大きく体勢を崩してしまったので、またもタカには余裕で逃げられてしまった。
(これは、気配察知のスキルがいるな。あとは弓も)
一度5層に戻ってブタを狩り、気配察知のスキルと紫苑用の弓を買う資金を貯めよう。
早いうちに空からの襲撃を察知して準備を整える時間を得られるようにしないと、いつまで経ってもタカを迎撃できる気がしない。
そして今こそ紫苑に弓を持たせ、遠距離攻撃をさせようという結論になった。
十日ほどブタを相手にして、必要なものを買い揃える。
俺用に気配察知スキルを、紫苑に小型の弓と弓術スキルを持たせた。
「お待たせ紫苑。この弓で、これからは弓使いとして活躍してくれ。……短剣はそのままでいいかな。予備武器として持ってて良いぞ」
接近された時に近接用武器が何もないのも不便だろうから、紫苑には短剣もそのまま装備させる事にした。背中には、斜め掛けのベルトで留めた矢筒も装備させた。
(これからは、矢も定期的に補充しないといけないな)
「それじゃ、鳴神くん、更科くん。お互い、夏休みを楽しもうね」
「うん、雪之崎くん。お互いダンジョン攻略を頑張ろう」
終業式の終わった後で挨拶していると、更科くんが驚いた。
「えっ、二人も休みに一緒に遊んだりしないで、ずっとダンジョン攻略ばっかなんだっ?」
「あ、うん。俺達、どっちもダンジョン攻略第一でやってるからさ……」
「そっかー。まあやりたい事あるのに、無理に遊びに誘っても迷惑だよね。夢中になれる事があるのは良い事だもん。それじゃ二人とも、また休み明けにねっ」
ちょっとの間だけ、やや残念そうに眉を寄せたが、幸い更科くんはすぐ理解を示して、俺達に笑顔で手を振ってくれた。
「うん、また学校が始まったら」
「うん、またね」
そんな感じで学校は夏休みに入って、楽しみにしていた長期休暇に突入だ。
俺は引き続き、タカの攻略法を探っている。
俺用に買った気配察知のスキルはまだレベルが低く、中々上空を飛ぶタカの敵意を察知できない。
紫苑の弓も持たせたばかりで命中精度が悪いし、小型の弓なので飛距離も短い。
それでも諦めず、レベル上げの為に何度かブタとの戦いも挟みつつ、タカに挑戦し続ける。
「炎珠! ファイヤーバレット!」
タカが急降下してくるのに先に気づければ、精霊召喚も間に合うようになってきた。
バレットはボールより攻撃範囲が広いので、空を飛ぶタカにも当てやすい。
召喚に応じて現れた炎珠がすぐさま放った魔法がうまく当たって、タカは空中で体勢を崩した。そしてそのまま立て直せずに、地面に落下していく。
「今だ! 青藍、紅、攻撃だ! 紫苑は上空警戒!」
人形に攻撃を指示してタカに駆け寄って、逃げられないうちに止めを刺す。
その間、紫苑には矢をいつでも放てる態勢で、空を監視してもらっている。
タカは基本的には1羽ずつしか襲ってこないが、こうして1羽を地面に落とし攻撃を加えている最中だけは、他のタカが隙をつくようにして襲ってくる事があるのだ。なので紫苑が弓で牽制してくれれば、タカもそう簡単に隙をつけなくなって、俺達の安全が確保される。
「よし、倒せたな」
今回は横やりもなく、無事にタカを仕留められた。
紫苑の弓術と俺の気配察知のスキルレベルが上がってくると、新しい試みは一定の成果を上げ始めた。
すべてのタカの迎撃に成功する訳じゃないけど、少しずつタカを倒せる数が増えてきたのだ。このまま倒せる割合を上げていけば、いずれ次の層にも行けるだろう。
タカの通常ドロップアイテムは、片手で持つには少し重いくらいの、大きく薄い青の宝石っぽい代物だった。とはいえ、これが本物の宝石だとしたら、急に買い取り値段が跳ね上がりすぎるだろうし、多分、宝石ではない何かなのだろう。
そしてレアドロップは、短い試験管に黄色い液体が入って、コルクで栓をされ、その上から謎ラップで包まれた、氣力回復薬と思しきポーションだった。
コアクリスタルも合わせて買い取り窓口に持っていったところ、宝石に見えた代物は案の定、宝石ではなく、岩塩の塊であるとの事だった。それでも一塊1800円で引き取ってもらえたので、5層の豚肉より少し割が良かった。まとめると持ち運びが重いけれど。
氣力回復薬はひとつ2800円。これも5層より少しだけ高い引き取り額だ。合計すればそれなりの金額にはなる。ポーションは自分が装備する分を、いくつか確保しておいた。
こちらを狙って降りてくるタカに素早く狙いをつけて、紫苑がしゅっと弓を射る。その矢が見事、タカの胴体を射止めた。
「紫苑、やったな!」
落ちてくるタカの落下地点に駆け寄り、青藍と紅とともに止めを刺す。
すると、タカの姿が消えて紫苑の矢だけが残り、コアクリスタルとスクロールが新たにその場にドロップした。
「お! やった。スクロールだっ!」
久々のスクロールドロップだ。5層のブタ以来2度目だ。やはりスクロールはかなり低確率の、レア中のレアであるらしい。もっと難易度の高いダンジョンならば、頻繁にスクロールがドロップするのかもしれないけど、初心者のうちはスクロールが出るだけで嬉しい。
「紫苑、お手柄だぞ!」
タカを射たあともそのまま上空を警戒しつづける紫苑を褒める。紫苑もだいぶ、弓矢の扱いが上達してきたな。
「さて。これは何のスクロールだろうな」
その日の狩りを終え、わくわくしながらスクロールを買い取り窓口まで持って行って、査定をしてもらう。
もし売りに出すならいくらで売れるかもこれでわかる。スクロールは大抵高額になるので、俺の役に立たないものだったとしても無駄にはならない。
鑑定結果は危険予測のスキルだった。気配察知スキルと似たスキルだが、より直感的に危険になりそうな場面でスキルが本能に訴えかけて、警告してくれるものだった。
気配察知もそうだったが、この危険予測のスキルもパッシブだ。必要な時だけ氣を消費して使う方式ではなく、常に微量の氣を消費して発動し続けるタイプだ。
いずれは欲しかったスキルなので、迷わず持ち帰って使用した。
「氣力増強スキルも買わないとな」
パッシブスキルが増えると、他のスキルに回せるだけの氣が残らないなんて事態にもなりかねない。対策は必要だ。
それに氣力増強スキルは俺だけでなく、できれば人形達全員の分も欲しい。
人形は魔法を使えないので魔力増強はいらないし、疲労しないので体力増強もいらないが、スキルをいくつも覚えさせている以上、氣力だけは潤沢にあった方が良い。
精霊はスキルを覚えられない縛りがあるから、魔力増強スキルは使えない。
精霊も魔力が増えればその分だけ、魔法の威力が増えたり再召喚までのクールタイムが短くなったりと利点は多いのだが、スキルを覚えられない以上、残念ながら仕方ない。
コツコツと資金を貯めて、自分用と人形用の氣力増強スキルを、徐々に買い揃えていく。
それと自分の分だけは、魔力増強スキルも買って使っておいた。精霊召喚の為には、魔力は多ければ多いほど良いのだ。
数日後には、7層へ降りる階段を見つけた。
夏休みの前半を終える頃には、襲ってくるうちの半分程のタカを撃退できるようになった。
タカは他の層と比べて稼ぎが悪い気がする。一度に1羽しか降りてこないし、自分から探しに行く事もできないからだ。迎撃率は満足できるものではないが、タカの相手は切り上げて、7層のイヌに挑戦する事に決めた。
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