第21話 サモナースキル取得、ニワトリに再挑戦
サモナーのスキルを取得すると決めた俺は、スクロールを買う金額を貯める為に、更にウサギ狩りに励んだ。
サモナースキルのスクロールの値段は、人形使いのスキルと同じく8千DG(8万円相当)だ。しばらく金稼ぎに集中する日々が続き、季節は夏が終わって秋に入った。
中学校に入って初めてとなる文化祭、俺達のクラスは焼きそばの屋台を出す事になった。
昼時の一番客が多い時間帯は多めの人数で対応し、それ以外の時間帯を交代で4人ずつ受け持つ割り当てに決まった。それで何故か俺は、調理担当の一人になってしまった。
焼きそばを鉄板で焼く練習を家でやっておくように、実行委員のクラスメイトに言い渡され、家のホットプレートで何度か母の監修のもと、家族全員分の焼きそばを焼いて練習した。
そして本番に臨んだのだが、家族分だけを焼くのと違って、10人前以上を一気に大きな鉄板で混ぜるのは、中々に大変な作業だった。
俺の担当時は、同じ班になった雪之崎くんが、俺が作った焼きそばをパックに詰めたりトッピングをしたりして仕上げる係、他に会計の女子と呼び込みの女子という四人での分担だった。
3時から文化祭終了の4時半までという、一番客がいなさそうな時間帯の当番だったにもかかわらず、焼きそばは良く売れた。
その後、多めに発注した材料の残った分で、打ち上げと称して、クラスみんなで焼きそばを焼いて、分けあって食べた。美味しかった。
文化祭が終わってしばらく経った頃、ようやくサモナーのスクロールを購入するだけの金額が貯まった。早速銀行に寄ってカードにDGを入れて、スクロール屋に買いに行く。
「ほらよ、これがサモナーのスクロールだ。契約は精霊ダンジョンに行くんだな」
「はい、ありがとうございます」
いつものスクロール屋の店内でスクロールを使用させてもらって、無事サモナースキルを手に入れた。
その後は初の精霊ダンジョンに移動する。
精霊の住処であり、精霊と契約する為だけに存在すると言われる「精霊ダンジョン」は、風光明媚な景色が広がる環境型の特殊ダンジョンだ。森や泉といった自然豊かな景色の中にいるのは精霊と普通の小動物だけで、モンスターはいない。
ちなみに、特殊ダンジョンには基本的には街が存在するものだが、契約ダンジョンだけは例外で、1層に街が存在しない。そのダンジョンを訪れた不特定多数の人数が全員、同じ場所に入るMMO方式という点は同じだ。幻獣ダンジョンには俺は行った事がないけど、街がない点も含めて、同じ仕様らしい。契約ダンジョンのみの仕様なのだろう。
精霊ダンジョンの内部は見渡す限りの広大な大地が続いていて、そのあちこちに、うっすらと白いモヤのようなものが漂っている。それが「原始の精霊のカケラ」であるらしい。
契約済みの精霊は入口から遠い奥地に住み着き、まだ契約していない精霊だけが、ダンジョンの入口付近に漂っている構造だとか。
まだ契約していない精霊のカケラは、いくら契約しようが数が少なくなる事はなく、常に一定数を保っているらしい。ダンジョンが定期的に補充しているのかも?
俺が近づいていくと、精霊のカケラ達は興味を引かれたように集まってきた。周囲がモヤだらけになる。
「契約をお願いしたいんだけど……」
なんとなく、一番近くの目の前にいたモヤに向かってそう言うと、それだけで契約が成立したらしく、繋がりのようなものが感じられるようになった。
他のモヤは俺からすうっと離れていく。今はもう、他に契約できる残数がないとわかるのだろう。
「えーっと、よろしくな」
契約してくれたモヤに向かって話しかける。
「さてと、まずは名前つけないとな」
どんな名前にするかを考える。事前に最初の精霊は火属性にしようと決めていたので、精霊の名も火に関連するものにしよう。俺は精霊に「炎珠(えんじゅ)」と名付ける事にした。
「それじゃあこれからよろしくな、炎珠」
まだ魔法をひとつも覚えてないからモヤの姿のままの炎珠は、それでも嬉しそうに俺の周りをふよふよと漂っている。
炎珠に魔法を覚えてもらう為に、今度は魔法スクロール分を稼がないとな。
そうして、またしばらくウサギ相手に戦って、火の球を飛ばす「ファイヤーボール」の魔法スクロールを買えるようになるまで頑張った。
「これでどうかな?」
炎珠にスクロールを覚えさせると、白いモヤだった姿が、小さな赤い火の玉のような姿に変化した。
「良し、これで名実ともに火の精霊だな」
火の玉姿になった炎珠は、しばらく嬉しそうに俺の周りを飛び回っていたが、召喚時間が切れて帰還していった。
ともあれこれで、最低限の準備は整っただろうか。
冬に入る前。俺はようやく、怪我を恐れて中々攻略に乗り出せなかったニワトリに、再挑戦する決意を固めた。
「二人とも頑張ろうな」
青藍と紅に小さく声をかけて、自分の緊張を紛らわせる。
通路にいた1匹だけのニワトリに、慎重に狙いをつける。角からこっそりと相手を見張りつつ、まずは精霊召喚で炎珠を呼び出す。
「炎珠、あのニワトリにファイヤーボールを頼む」
指示を出すと、火の玉がふよふよとニワトリに近づいていく。もう少し近づかないと、魔法を使うのに射程距離的な具合が悪かったようだ。
ある程度近づくと、炎珠の体から分身のように火の玉が現れ、まっすぐにニワトリへと向かって飛んでいく。魔法は無事にニワトリの胴体に当たった。
「!! やった!」
召喚時間が過ぎるのか、炎珠の姿が薄くなってゆく。
「魔法ありがとう、炎珠」
消えていく姿に声をかけて、俺は改めて鉈を握りしめた。
「うおおっ!」
そのまま勢いをつけて角から飛び出し、ファイヤーボールにダメージを受けたニワトリに向けて、一気に駆け寄る。
ニワトリが俺の勢いに驚いたのか、羽を羽ばたかせ宙に逃げようとする。だがファイヤーボールでのダメージが大きかったのか、うまく滑空できてない。そこに駆け付け、地面に叩きつけるようにして鉈を振り下ろした。
「青藍、紅、いまだ!」
人形達も揃って俺の掛け声に反応し、今がチャンスとニワトリを果敢に攻めたてる。
「……っ、やったか!?」
俺達のがむしゃらな攻撃は無事にニワトリにダメージを与え、その体がすうっと消えていった。
残されたのは、ウサギのものよりやや大きめでやや赤色が濃い目のコアクリスタルのみ。
「! やったな、青藍、紅。俺達、ニワトリを倒せたぞ」
俺は喜びの声を上げ、二人の頭を順番に撫でた。
ニワトリのカギ爪や嘴は相変わらず鋭くて恐ろしかったけれど、覚悟を決めて戦ってみれば結果的に、大した怪我もせず倒す事ができた。
今回は魔法と勢いで先制攻撃を仕掛けて乗り切ったようなものだが、防具がしっかりしていれば、ニワトリの攻撃が当たったとしても大きな怪我を負わずに済むと思えば、攻撃も大胆になれる。
時間はかかったけど、きちんと装備を整えて良かった。
「この勢いで次のニワトリも倒すぞ! 行こう二人とも!」
コアクリスタルを拾ってポーチにしまってから、俺は改めてダンジョン探索を再開した。
……そこからは、これまで長い間恐れていたのが嘘のように、順調にニワトリを倒していけた。
最初は1羽ずつだったが、慣れたら2羽同時にも戦えるようになった。
時には軽い怪我を負ったりもしたが、怪我に怯まず戦い続けられるようになってきたと思う。
俺は人形達とともに、ニワトリとの戦いに明け暮れた。
ニワトリの通常ドロップ品である鶏肉は、一部は家で料理してもらう事にした。兎肉と違って普段から食べなれている鶏肉なら、家族に嫌いな人もいない。
色んな部位があるとはいえ、流石に毎日鶏肉ばかりでは飽きるのが目に見えているので、数日に一回、一塊を冷蔵庫の中に入れておくだけだ。
謎ラップに包まれたドロップアイテムである鶏肉だが、スーパーなどで売っている鶏肉と、特に変わりない味に思える。
難易度の高い食材ダンジョンでドロップする素材は、地球では再現できない美味しさのものや特殊効果のついたものなどもあるらしいが、初心者ダンジョンでドロップする素材はすべて、地球の一般的な素材と変わらぬ味と品質であるらしい。
「ニワトリのレアドロップは……、なんだろこれ?」
10回に1個くらいの確率でランダムに出るニワトリのレアドロップは、これまで見た事がない色をしていた。
飲むタイプのポーションらしく、短めの試験管に入った白色の液体だった。いつもと同じようにコルクで蓋をして、その上から謎ラップで全体を包んである。家の救急箱に同じものがあったから、中身が推察できていた今までとは違って、今回のポーションには見覚えがなかった。
ポーションは大雑把に分類すると、赤は傷回復系統、青は魔力回復系統、緑は体力回復系統、黄は氣回復系統というふうに用途別に分かれている。
けれど例外もあるので、使う前には鑑定で中身を確定させておく事が望ましいとされている。
白はどの分類に入るのか、俺は知らない。
ダンジョン協会の買い取り窓口に、値段や効果を査定してもらう為に、持って行ってみる事にした。
「アレルギー解消薬か」
定期的に服用する事で、アレルギーの症状を完全に抑えるという薬だった。花粉症や食物アレルギーなど、アレルギー全般に効くそうだ。うちにはアレルギー持ちがいなかったから、このポーションは常備していなかったのだろう。
このレアドロップ品はひとつ2200円で売れた。どんなアレルギーの症状でも完全に抑えてくれる薬は、アレルギー持ちの人に大層ありがたがられるらしく、とても人気な品なのだと、受付の人が教えてくれた。
コアクリスタルや鶏肉も、まとめて持っていって売却した。ニワトリのドロップ品はどれも、ウサギのものより高く売却できた。
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