第22話 三体目の人形作成。5層のブタに挑戦

 冬休みが終わってしばらく経った頃、3体目の人形が作成できるようになった。

 俺は新しい人形に紫のバンダナを巻いて、「紫苑(しおん)」と名付けた。

「これからよろしくな、紫苑」

(紫苑はいずれ弓使いにする方向で育てたいな)

 とりあえずは短剣を装備させるが、成長したら物理の遠距離攻撃ができるように、弓を装備させたい。

 その為にも紫苑の強化は、素早さ中心だった前の二人と違って、知力と器用さに振り分けていこうと思っている。

 人形達にも少しずつ、それぞれ別の役割と特技を持たせていきたい。



 ここまでで、俺は基礎11、人形使い11、身体強化11、知力強化11、記憶力強化11、痛覚耐性8、精神力強化8、精霊召喚5と、それなりにレベルアップしている。


 青藍は基礎11、初期スキル(自動修復、自律行動、学習知能)11、身体強化11。強化は筋力+1、素早さ+3。

 紅は基礎11、初期スキル(自動修復、自律行動、学習知能)11、身体強化10。強化は素早さ+4。

 紫苑は基礎1、初期スキル(自動修復、自律行動、学習知能)1、身体強化1。


 人形は一番最初に作った青藍が一番レベルが高いが、二番目の紅もほぼ追い付いてきている。レベル11の現在、青藍と紅の全長は80センチに育っている。そろそろ人形達にも、身体強化以外の新たなスキルを覚えさせていきたいな。


 一方、精霊はまだ一体だけだ。10レベルごとに1体ずつ増えていくから、2体目の精霊が増えるのは、まだもう少し先だ。


 炎珠は基礎レベル4、属性は火(+少しだけ風)。

 覚えている魔法は「ファイヤーボール」。


 炎珠には次は、「ファイヤーバレット」の魔法を覚えさせる予定だ。ボールが一点集中なのに対して、バレットは散弾なので、攻撃範囲がやや広がる。ボールの方が当たれば攻撃力は高いのだが、バレットの方が、より避けられにくいという性質だ。

 バレットも覚えさせたら、敵と状況に応じて使い分けていきたい。

 他にも火属性でいうと、「ファイヤーアロー」という火の矢の魔法や「ファイヤーウォール」という火の壁を作る魔法もあるが、一度にたくさんの魔法を覚えさせえるのは財政的に厳しいから、無理のない範囲で、ゆっくり魔法を増やしていこうと思っている。




「紫苑が参加する初めての戦闘だな。青藍と紅は、紫苑を守りながら戦うよう意識してくれ。紫苑はニワトリがダメージを受けて地面に落ちるまでは、前に出すぎちゃダメだぞ」

 三体目の人形である紫苑を入れて、改めてニワトリとの戦闘だ。

 念の為に1匹でいるニワトリを見つけて、先に炎珠を召喚しファイヤーボールを打ってもらう。

 戦闘で魔法を使うのは、毎回は無理だ。再召喚にかかるクールタイムもあるし、俺の魔力も炎珠の魔力も持たないし。でも今回は紫苑の初出陣だから、慎重に。

 炎珠が無事ファイヤーボールをニワトリに当てたのを見届けて、青藍と紅と俺の三人が揃って真っ先に駆け寄って、更にニワトリにダメージを与えていく。

「紫苑、止めに参戦!」

 ある程度ダメージを与えて、もう宙に飛べないくらいになったと判断したところで、それまで少し後ろに控えていた紫苑にも、攻撃に参加させた。

 紫苑もまだ小さな体で頑張って短剣を振るって、攻撃に参加する。

「よし、止めもさせたな」

 ニワトリの姿が消えるのを確認して息をつく。5層ともなればスライムよりも経験値も多くなっており、この一戦だけで紫苑のレベルは2に上がった。


 その後も数日かけて、紫苑のレベル上げつつニワトリを狩っていく。

 寒さが揺るぎ世間が春らしくなっていく頃には、3羽同時に相手にしても戦えるようになった。

 ……そろそろ、5層のブタに挑んでみよう。





 1層から4層までと変わらぬ灰色の石畳の通路を、重量の塊のような存在が、すごい勢いで突っ込んでくる。

 ピンク色の皮膚に短いしっぽ。見た目は可愛らしいとも間抜けとも言えそうなのだが、その突進の勢いは尋常じゃない。

(ブタって体脂肪が低くて、その体の殆どが筋肉なんだっけ……)

 直撃を食らわないように必死で攻撃を逃れながら、頭を前世で読んだ漫画のうろ覚えの知識が過っていく。

 重量は確実に、ニワトリの2、3倍はありそうだ。牙がないだけイノシシよりまだマシなのだろう。けれど人形達がまとめて何メートルも吹っ飛ばされる姿には、安心できる要素がひとつもない。


「あっ!!」

 人形達がまとめて全員吹っ飛ばされてしまったが、その中でも一番レベルの低い紫苑が、特に派手に吹っ飛ばされ、その拍子に胴体から脚が外れてしまった。レベルが低いと耐久力も低いのだった。俺がもっと気を付けてやれば良かった。

「紫苑!」

 慌てて駆け寄って、紫苑を庇ってがむしゃらに鉈を振るう。

「このっ! 硬いなっ」

 何度も何度も鉈を振るうが、ブタにとって、あまり大きなダメージになっていないようだ。

 助走をつけた突撃に何度か突き飛ばされたりしながらも、青藍と紅の三人で1匹のブタを取り囲んで、とにかく切りつける。

 浅い傷ばかりでも、それなりに傷を重ねていくと、少しずつブタの動きが鈍ってきた。ここぞとばかりに三人で、一斉に攻撃を激しくする。

 その後もかなりの時間をかけて、ようやくブタを倒すのに成功した。


「紫苑、大丈夫か!?」

 ブタが消えたのを見計らって、俺は慌てて紫苑に駆け寄った。

 ブタのドロップアイテムは青藍が、取れてしまった紫苑の脚は紅が、それぞれ拾ってくれたので、俺はそのまま紫苑を抱えて来た道を戻る。

 部屋に戻って紫苑の脚を胴体にはめ込んで、自己修復を促す為に待機を命じる。

「ごめんな、ここまで大きく破損させちゃって」

 待機状態となり、ぴくりとも動かなくなった紫苑の頭をそっと撫でる。

 人形がここまで大きな破損を負ったのは、これが初めてだったので、俺も動揺してしまった。人形には痛覚がないとわかっていたから、完全なパニックには陥らずに済んだけど。

 それにしても、ブタとはもっと戦いようがあったのではないかと、反省しきりだ。


「うーん、鉈じゃ攻撃力不足なのかなぁ」

 休憩ついでに、ブタとの初戦闘の様子を思い浮かべる。

 なんとか倒せはしたものの、課題だらけの戦闘だった。ブタの大きさに対して、鉈や短剣ではリーチが足りず、攻撃力も不足していたように思う。

(リーチが長い武器といえば、槍か)

 槍は初心者にも扱いやすい武器だと、どこかで読んだ。

 できるだけ早く俺用の槍を買って、武器を更新しよう。


(人形達はどうだろう?)

 基礎レベル11の青藍と紅は、現在体長が80センチまで成長している。人形は見た目より力が強くなってきているので、短剣以外の武器も持てるかもしれない。

 だが、まだあまりに重く大きい武器は扱えない可能性もある。

(剣術スキルや槍術スキル、盾術スキルなんかもあるけど、そもそもまだ、何をメイン武器として使っていくか、決まってないんだよな)

 俺が鉈を使っているのは、単に兄がお古を譲ってくれたからという理由だけだ。人形達に短剣を持たせているのも、彼らの体では大きな武器が持てないという、消去法で選んだだけだった。

 紫苑に弓を持たせたいと決めたように、今後はそれぞれに役割を与えて、彼らに相応しい武器を選んでいきたい。

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