第11話 2層のネズミへ初挑戦してみる

 翌日も、朝からダンジョン攻略だ。

 1層を周回してスライムを倒しまわったおかげで、青藍はレベル2から3へ、そして俺の人形使いのスキルレベルが2に上がった。

 俺のスキルレベルが上がると同時に「強化項目を選んでください」と、頭の中に、言葉が浮かぶ。


 どうやら、レベル2では人形の数は増やせない代わりに、既存の人形から一体を選んで、特定の強化を施せるらしい。

 説明を見てみると、強化できるのは、筋力、素早さ、頑丈さ、器用さ、知力の5つだった。

 青藍はレベル3の現在、体長40センチ。もっと大きくなってほしいのだけど、その項目はない。

 考えてみれば、ずっと成長を続ければ、いずれは巨大になりすぎてしまう。どこかで成長は止まるはず。なので体長よりも、他の項目が優先されているのだろう。

 今はまだレベルが低く、どれも足りてない状態だ。当然どれも欲しいけど、選べるのはひとつだけ。

(いずれ重い武器も持てるように、とりあえずは筋力でいいか)




 その次の日は、ダンジョン攻略はいったん休んで、新しく入学する学校指定の制服を買う為に、母と兄と3人で出かけた。俺の中学はブレザーで、兄の高校は学ランだ。それぞれの制服をデパートで購入する。

 他にも、通学鞄や靴下や下着や文房具など、学校に必要そうなものを色々と買って回った。

 そして、入学祝に何か買ってあげると母に言われ、俺は短剣を買ってもらう事にした。人形用の装備だと話したら、装備用ベルトも一緒に買ってもらえた。ありがたい。

 短剣が一万円ほどで、ベルトは3千円ほど。

 思わぬところで青藍用の武器が手に入った。

(これでカッターは卒業だ!)

 兄は自分で稼いでいるからと遠慮していたが、母に押し切られ、最終的には携帯用の小型ゲーム機を選んで買ってもらっていた。



 春休みに入って7日目。

 1層の地図が埋まり、2層へ行く階段も見つけた。

 一度階段を下りれば、次からは攻略済みの層を通らなくても、新しい層に直接行けるようになる。ゲートには、攻略開始の層を選べる機能もあるのだ。


 1層のスライムは何の問題もない。人形もこうして作成できている。

 青藍はまだレベルが低くて体長も小さいから、頼りになる感じはしないけど、俺の方は、筋肉痛や疲労は、ほぼ感じなくなってきた。だいぶダンジョンに潜るのにも慣れてきたか、基礎レベルの向上で、少しだけ体力がついたのかもしれない。

(春休みも、残りあと数日か……)

 今日は思い切って2層に降りて、ネズミがどんな強さか確かめてみよう。




 2層も1層と同じ、石畳の迷路だった。地図を描きながら、青藍と一緒に歩いていく。

 すると、さほど経たずに、灰色のネズミを発見した。

 大きさは1層のスライムと同じくらい。モンスターとはいえ、外見は普通のネズミとあまり違わなかった。


「うわ、ネズミが速い!?」

 素早く走り出したネズミを前に、思わず狼狽える。

 手には地図用のメモ帳を持ったままで、鉈を鞘から取り出すのが間に合わない。

 ネズミは俺の足元を素早くすり抜け、次は青藍の足元をすり抜けてと、ひたすら走り回る。

 ようやく鉈を取り出した俺は、短剣を構えた青藍と二人で武器を振るのだが、ネズミの走るスピードが俺の想像よりずっと素早くて、いくら振り回しても攻撃が当たらない。

 的が小さすぎるせいで、狙いも定められない。

 しかも、こちらを攻撃する為に動きを止めるといった動作もなく、俺達の周囲を縦横無尽に走り回って翻弄した挙句、疲労でスピードが鈍る前に、さっさと逃げ出してしまった。


「えええ、こっちに攻撃してこないのか……」

 走り去る小さな姿が見えなくなって、ようやくターゲットに逃げられたのだと気づく。

 しばらくこちらを煽るように周囲を走り回っていたのだから、すぐに逃げ出す相手よりは、仕留めるチャンスはあった。だが俺達は、翻弄されるだけで終わってしまった。

 姿が見えなくなったネズミを追いかけようという気力も起こらず、俺はがっくり膝をついた。



(あああああ! 失敗した! 青藍の強化、素早さにしとけば良かった~~~~!!!)

 今更ながらに、先日の強化の項目を筋力にした事を悔やむ。だが、後悔してももう遅い。

(どうして俺は、2層がネズミだってわかってたのに、そこを考えずに、なんとなくで強化しちゃったんだろう)

 我ながら計画性がなさすぎて、自分が情けなくなってくる。

「青藍、情けない主人でごめんな」

 ちゃんと育てられているのか不安になって、思わず青藍に謝る。だが、人形の顔には感情など浮かびようもない。ただ俺の方に顔を向けて、首を傾げるような仕草をするだけだった。


 ……いつまでも落ち込んでても仕方ない。ネズミの速さに対応できるように、レベルを上げて、ステータスを高めるしかない。


 気を取り直して春休みの残り数日は、1層で地道な経験値獲得に励んだ。

 その甲斐あって俺は基礎レベル5、人形使いはレベル3に上がった。

 青藍は基礎レベル4。強化は筋力+1、素早さ+1。初期スキル(自動修復、自律行動、学習知能)も、基礎レベルと同じ4になっていた。


 春休み最終日、もう一度ネズミに挑戦してみたが、何度戦っても逃げられるばかりで、倒せたのは1匹のみという結果に終わった。

 その1匹も、偶然武器が当たっただけで、ネズミのスピードに対応できた結果ではなかった。

(動物と同じ姿のモンスターを倒したら、ショックを受けるかって思ってたけど、意外とそこまででもなかったな)

 血がほぼ飛び散らず、死体もすぐに消えてなくなったから、現実感がなかったのかもしれない。


 ネズミを1匹倒せたのは、あくまで偶然の産物でしかない。俺と青藍の実力では、まだ2層は早すぎたようだ。

 中学生になってもしばらくは、1層でスライム狩りを続けるしかないようだ。

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