第28話 あの2人、付き合ってるらしいですね

 迷いの森エリアに入った俺たちは、さっそくアクセサリーショップに立ち寄ったのだが……。


「おい、くっつきすぎじゃないか?」

「しょうがないじゃん。重縄ちゃんには、あたしたちが付き合ってることになってるだからさ。だから、こうやってラブラブアピールしておかないと、嫉妬に狂った重縄ちゃんが、手綱くんになにするか分からないよー?」

「たしかに、そうだが」


 それにしたって距離が近いというか。なんだかいい匂いがするし、思わず姫金の胸元に目が――。


「どーこ見てるのかなー?」

「胸元」

「言っちゃったよこの男。普通そこは、『み、見てねぇし~』って言い訳するところじゃない?」

「見てもいいものを見るなと言われても困る」

「見ていいとは言ってなくない!?」

「そこにあるものを見るなというのは、とても理不尽なことじゃないか? お前は空を見ずに、地面ばかり見て生活しているのか?」

「屁理屈」

「見るためなら屁理屈でもなんでもこねてやる」

「どんだけ見たいの!?」


 姫金は俺から距離を取って胸元を十字ブロックで、きっちりガード。これで見られなくやってしまった。残念である。


「これでもう見られないね~?」

「ふっ……胸が見られないなら、脚を見ればいいじゃない!」


 俺は姫金の脚を凝視した。姫金から「そんなマリーアントワネットやだわー」と、ゴミを見る目を向けられた。遺憾である。

 ふと、視線を感じて振り向くと、そこに「むむむ」と口をへの字に曲げた皇いた。


「どうしたんだ? そんな不機嫌そうな顔をして」

「別に……」


 言いながら、皇は「ぷくー」と頬を膨らませる。


「ふむ……」

「ぷくー」


 数秒ほど悩んで、俺は「えい」と皇の膨らんだ頬を突いた。すると、皇の口から風船のように、「ぷしゅー」と空気が漏れた。


「なにをしているんだい!? バカなのかな!?」

「ごめん。膨らんでるものを見ると、つい突いてみたくなるんだ」


 俺の言葉に、後ろで姫金が胸を隠した。


「いや、待て。別にお前の胸を突いてみたいなんて言ってないだろ」

「じゃあ、突いてみたくないの?」

「突いてみたいに決まってるだろ。いい加減にしろ」

「なんであたし怒られたの?」


 姫金は「これ引いてもいいところだよね?」と、俺からさらに距離を取った。まあ、それくらい離れてくれた方が、俺の精神衛生上は助かる。

 などと思った矢先、今度は重縄から猛烈なプレッシャーが……!


「じー」


 じっと俺のことを見つめている目に、疑念の色が宿っている。これは、俺と姫金の関係が疑われている……!?


「姫金……ふざけすぎた。謝るので、隣に戻ってきてくれませんか」

「えぇ……」


 とてもいやそうな顔をされた。


「ふふ、冗談。それじゃ、はやく目的のアクセサリー探しを始めるとしますかね!」


 そうして、俺たちは各々でアクセサリーを探しに店内を見て回る。一応、皇の従姉妹の誕生日プレゼントという名目であるため、従姉妹(皇の好み)を姫金が尋ねたところ――。


「……手綱くんは、どんな感じのが好き?」

「俺の好みなんて聞いても仕方なくね?」

「い、いいから答えてよ!」

「よく分からんが、特にこれと言って好みなんてないな。アクセとか、興味ないし」

「じゃあ、たとえば……女の子が身に着けるなら、どんなのがいいとかないかい?」

「本人の好きなものを身につけろと言いたいところだが、そういう解答を求めてるわけじゃないんだろ?」

「そ、そうだね」

「そうだなぁ。まあ、似合ってれば正直なんでもいいな。強いて言うなら、目がチカチカしないやつだな」

「落ち着いた色味のアクセがいいってこと?」

「それと、無駄にじゃらじゃらと装飾がついてないやつ。シンプルなのがいいと思う」

「……なるほど」


 と、そんな感じで、なぜか俺の意見が採用された。訳が分からん。さらに訳が分からないのは、この話を姫金がすごく前のめりになって聞いていたことだ。

 皇じゃなくて俺の好みの話に、なんでそんな真剣だったんだろうか?


 分からん。


「あ、手綱くん手綱くん!」

「うん?」


 重縄へのカモフラージュも兼ねて、一緒に行動していた姫金が、なにやらアクセサリーを持って声をかけてきた。


「これ、可愛くない?」

「んーーーー」

「ねえ、どうかな?」


 姫金は手に持っていた髪留めを、実際に自分の頭につけて、俺に似合うかどうか尋ねてきた。


「いや、似合うかどうか聞かれてもな。お前のアクセサリーを買いにきたわけじゃないんだぞ?」

「かったいなぁ……似合うか似合わないか、答えるだけじゃん? ほら、似合う? 似合わない?」

「似合うよ。お前、センスいいよな」

「でしょ~?」


 ふと、またまた視線を感じで振り向くと、またまた皇が頬を膨らませてこっちを凝視していた。それから、なにを思ったのか、手近なアクセサリーを手にすると、俺の前まで歩いてきて、「どう!?」と言ってきた。


「いや、なにが?」

「これ! 似合うかな!?」


 皇は言いながら、可愛らしい髪留めを自分の頭につけた。

 なにやってんだこいつ。

 姫金も首を傾げて、不思議そうにしている。


「いや、お前の従姉妹の誕プレを買いにきたんだろ?」

「そ、そうだけど!」

「……まあ、似合ってるけど」

「……! そ、そっか」


 皇は俺の解答に満足したみたいで、やや小走りで俺から離れていった。しかも、ちゃっかり「これ買います!」とレジ通しちゃってるし……気に入ったのだろうか?


 まあ、本来の目的を考えれば、これでよかったのだろうが……ただ、なにも姫金の前でやることもないだろうに。その証拠に、「皇くんって可愛いやつ好きなのかな? 意外かも」と姫金が頭に疑問符を浮かべている。


「えへ……ちょっとギャップ萌えかもぉ……」


 そう言って、ヨダレを垂らす姫金。俺はそれを見て絶句した。

 恋は盲目とか言うが、これほどとは。

 隣でじゅるりとヨダレを拭いている姫金に、俺がじゃっかん引いていると、「あの」と重縄が服の袖を引っ張ってきた。


「ん? なんだ?」

「これ、どうでしょうか」


 視線を落すと、重縄の手にはシンプルなデザインの髪留めがあった。

 今度はお前かよ。


「いいんじゃないか? 似合ってると思うぞお前に」

「はい? 皇先輩の従姉妹さんの誕生日プレゼントとしてどうか、という質問なんですが? どうして私に似合うかどうか聞いたと思ったんですか?」

「ごめんなさい」


 そういえば、そうでした。

 まさかこの場で最も頭のおかしなやつが、最もまともだとは露ほども思うまい。


 それからしばらくして、従姉妹の誕生日プレゼント――という名目で立ち寄ったアクセサリーショップにて、皇の満足いく買い物ができたため、俺たちは店を後にした。



「うーん……」

「どうかしたんですか? 皇先輩」

「ああ、司ちゃん。ちょっと……気になることあるっていうか」

「なんですか?」

「……手綱くんと、姫金さんのことなんだけど。なんか距離が近いっていうか、まるで恋人みたいっていうか」

「ご存じないんですか? あの2人、付き合ってるらしいですね」

「え?」

「まったく……それならそうと言ってくれれば、私だって最初から手綱先輩のことを警戒したりしなかったのに」

「……2人が……付き合ってる?」

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