第26話 なーんで2人がいるのかなー?
「あのさ、手綱くん」
「なんだ、皇」
「前に約束してた買い物に誘ってくれたのは、すっごく嬉しいよ? というか、君にはいつもお世話になってばっかりだ。感謝してもしきれない」
「おう、ぜひ心から感謝してくれ」
「でもさ」
そう言って、皇は視線をとある方向へ向ける。そこには、私服姿の姫金と重縄がいた。
「なーんで2人がいるのかなー?」
そう――俺は以前に、皇としていたアクセサリーを買いに行く約束に、姫金と重縄を連れてきていた。2人がいては、己の性別を隠さなければならない皇としては、目的のアクセサリー探しがやり難くくて仕方ないだろう。
俺は先日の姫金と行った作戦会議を思い出す。
「やっぱり、告白するならデートの終わり際だよね!」
という姫金の一言から、なんとか重縄と皇のデートを規格するととなった。
「そこで、皇くんに告白するんだよ!」
「しかし、私は先輩に避けられているので……誘ったところで……」
そこがネックだったのだが、ふと俺は思い出した。
「そういえば、皇と買い物に行く約束してたな」
「おお! それだ!」
そんな感じで姫金に言われるがままに、俺は皇との買い物に2人を連れてきたというわけである。
俺だって本当は、皇になんのしがらみのない状態で、買い物を楽しんでもらいたかった。だが、手っ取り早く重縄と皇を引き合わせて、告白する場を用意するのに、これほどうってつけの条件が他になかった。
許せ、皇。
「どうして連れてきたのさ?」
「まあ、大勢いた方が楽しいんじゃないか?」
「いやいやいや!? これじゃあ、ボクの今日の目的が果たせないじゃないか!」
「目的って、女の子っぽい格好をするためのアクセサリー探しだろ? 服とかじゃないんだし、性別がバレる心配はないだろ。それに、アクセサリーを探すんだったら、女子の意見があった方がよくないか?」
「それは……たしかに」
「一応、2人には皇の従姉妹の誕生日プレゼントを買いにきたってことで、話を通してるから。安心しろ」
「……まあ、それは分かった。でも。後輩ちゃんがいることだけは、本当に訳がわからないんだけど?」
「放っておいてもどうせついてくるだろ? だったら、いっそ一緒に遊んだ方がはやいかなと」
「ええ……」
さすがに無理があったかとも思ったが、皇は「手綱くんがそう言うなら」と思いの他あっさり引いてくれた。そこまで信用されていたのか、俺。
こういうのもなんだが、俺は皇にも姫金にも、そして重縄にも嘘をついている。
従姉妹の誕生日プレゼントなどと嘘をついたこともそうだが、皇の性別のこともある。重縄を騙すために、姫金といまだ偽の恋人ということになっているし。
その上、重縄の告白する場を作る場に、アクセサリー探しの約束を利用した。
ここで一番の嘘つきは、間違いなく俺だな。
「まあ、ともかくだ。せっかくだし、3人で遊ぼうぜ」
「はぁ……分かったよ」
皇は納得すると、俺と内緒話をするために離れていた姫金と重縄に合流する。俺もその後に続く。
「話は終わった? ごめんね? もしかして、いきなり来ちゃったの迷惑だった?」
「ううん。そんなことないよ、姫金さん」
「そっか。だったら、よかった」
姫金と皇が話している一方で、重縄はじっと皇を見ていた。その視線に気づいた皇は「ん?」と、重縄に目を向ける。
「そういえば、久しぶりだね。今日は従姉妹の誕生日プレゼント探しを手伝いにきてくれたんだってね?」
「あ、あの……はい……」
驚いた。あの重縄が顔を真っ赤にして、借りてきた猫みたいに大人しくなっている。本当に好きなんだなぁ。
「司ちゃん、顔が赤いけど大丈夫? 風邪かな? 無理してない?」
皇は顔が赤い重縄に首を傾げて、彼女の顔を覗き込むように顔を近づける。重縄は、皇のイケメンフェイスが突然ドアップになったことで動揺したのか、「ひゃ、ひゃい!?」と飛び上がり、姫金の背に隠れてしまった。
「ちょ、ちょっと……重縄ちゃん?」
姫金が困惑して名前を呼ぶと、重縄は「だ、大丈夫です」と小さく返した。
「風邪とかじゃないので……ほ、放っておいてください」
「そうかい? それならいいけれど。司ちゃん、無理はしちゃダメだよ?」
「……は、はい」
皇が微笑みかけると、重縄はより顔を赤く染めた。
「ちょっとちょっと、重縄ちゃん? いつまであたしの背に隠れてるわけ? もっと積極的に行かなきゃ」
「わ、分かってます。でも……皇先輩の顔を見ていたら、もうほんと限界で……」
「限界化したちゃったんだ?」
「……はい」
「まあ、皇くんかっこいいもんね~」
「……」
「あ、で、でもあたしは別に、皇くんとどうこうとかは考えてないからね!?」
「……分かってます。姫金先輩は、手綱先輩のことが好きなんですよね」
「そ、そうそう! うん! あたし、手綱くん一筋!」
姫金、大変そうだなぁ。
と、俺が他人事のように眺めていると、隣に皇が立った。
「そういえば、あの2人って、どうやって知り合ったんだろう? 学校も違うのに……」
「まあ、細かいことはいいだろ。仲が悪いよりかは、いい方がいいに決まってる」
「うーん……そうだね。少なくても、司ちゃんがあんな風に、背に隠れるくらい仲良しな人は、初めて見たよ」
「ふーん?」
「……彼女は、いろいろと悩みの多い子だから、ちょっと心配してたんだ。でも、これなら安心かな」
「お前、自分をストーキングしていた相手を心配してたのか?」
「ま、まあ……」
お人好しにもほどがある。
俺は肩を竦めつつ、パンパンッと手を鳴らす。
「そろそろ行くぞー」
「はーい」
姫金の返事に合わせて、皇を先頭に全員で移動を開始する。目的地は乙伎原屈指の大型ショッピングモール――乙伎原フォレストタウン。
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