第3章 重めの後輩ちゃん
第16話 お前が先輩のなにを知っていると言うんですか!
姫金の件がひと段落ついて、「この先どうすっかなぁー」とぼんやり考えていたおり、またまた変なのに絡まれた。
「……」
「……」
その”変なの”であるところの少女は、じっと俺を睨みつけている。とても警戒されているようだ。
先ほど、道端で声をかけられた後、「ここじゃ通行の邪魔になるから」と俺は少女と近所の公園にまで移動していた。
公園には子供たちが元気よく遊んでいたのだが、5時のチャイムが鳴ると同時に、みんなゾロゾロと家に帰ってしまった。子供たちの喧騒で溢れていた公園も、すっかり夕焼け空の下で鳴く虫の声しか聞こえなくなった。
「で、えっと……君は誰なんだ?」
「先輩のことが好きな後輩です」
「え? 俺のことが好き?」
「皇先輩のことです! バカなんですか!」
「主語がなかったら勘違いされても仕方ないだろ。誤解されたくなければ、1から10までちゃんと説明することだな」
「ちっ……」
「え、今舌打ちした?」
「してません」
「しただろ」
「私は、重縄(しげなわ)司(つかさ)と言います。乙伎草子高校1年です」
「乙伎草子?」
乙伎原から1時間ほど離れたところにある街にある高校だ。乙伎原とは姉妹校にあたり、ご近所さんで、それなりに交流があるらしい。俺は知らないが。
ということは、皇はわざわざ乙伎草子からお隣の乙伎原に転校したのか。
「私は乙伎草子から、皇先輩を追いかけて乙伎原まで来ました」
なるほど。つまりは、皇の熱烈な追っかけなわけか。あいつは、本当にモテるんだなぁ。
「そして、ここ数日間。私は皇先輩のことをストーキングしていました」
「そうか。ストーキングね……え?」
今、この子なんて言った?
「そうしたら、いつもいつも近くにお前がいたんです。私の……私の皇先輩と親しそうに! お前が!」
「……」
「お前は一体、皇先輩のなんですか!」
把握した。この子、やばい系だ。
「俺は、皇のクラスメイト……? 友達? まあ、そのようなものだ」
「気に食わないです」
「ええ……」
「先輩が、私以外と親しそうにしているなんて! 許せません!」
「いや、だから俺ただのクラスメイトだからさ」
「それでも許せません! 私は先輩が、私以外と仲良くしているのが許せないんです! それがたとえ、同性だろうが一緒です!」
「……」
名前の通り、重い縄のような少女である。
「で、俺にどうしろと」
「皇先輩から離れてください」
これまたド直球だ。
「皇先輩は高貴な人なんです!」
「高貴」
「気高く……誇り高い……私の白馬の王子様なんです!」
王子様というか、お姫様になりたがっているが。
「まったく……どうして皇先輩は、あなたみたいな人と仲良くしているんでしょうか。皇先輩の格が下がってしまいます」
「カッチーン」
さすがに、いらっとしちゃったぜ。こいつ、好き勝手言いやがって。
「分かったら、はやく皇先輩から離れてくださいね。私の先輩が汚れますから」
「理想を抱くのは結構だがな、それを他人様に押し付けるな」
「はい?」
「好き勝手言ってくれやがって。皇が、誰と仲良くしようが、お前には関係ないだろ」
「なっ……」
「皇が俺と仲良くしてくれてるんなら、俺と仲良くしたいってことだろ? それをお前に、とやかく言う資格があるのか?」
「……お前が、先輩のなにを知っているって言うんですか? たいして、長い付き合いもない癖に」
「まあ、たしかにあいつが転校してきて、たいして時間は経ってない。だが、お前はよりはあいつのことを知っているつもりだ」
「っ!」
こいつは皇の秘密を知らないだろうからな。
お、そう考えるとなんだか優越感を覚えるぞ?
重縄は俺の言葉で余程頭にきたのか、顔を俯かせてぷるぷると肩を震わせている。やがて、おもむろに顔をあげると、鋭い視線を俺に向けた。
「今のは……宣戦布告と受け取っていいですよねぇ?」
「は?」
「私、お前なんかに負けませんから!」
ビシッと。重縄は俺に指をさした。
勝ち負けの話なんてしていただろうか。
「このまま皇先輩と離れないつもりなら、ひどい目に遭わせてやりますから!」
「たとえば?」
「え? それは……爪を1枚1枚剥いだり……あとは……なんかそういうやつです!」
「特に思いつかなかったんだな」
「とにかく! 必ずひどい目に遭わせてやります! この私に喧嘩を売ったこと、後悔させてやりますから!」
そう言って、重縄は踵を返して公園から立ち去った。その際、公園前の歩道で立ち止まり、「右、左、右」と車が来ていないか確認した後、手をあげて横断していた。
口が悪い上に言動もあれだが、案外育ちがいいのだろうか。
まあ、なんにしてもだ。
「また厄介なことになったなぁー……」
皇は面倒ごとを呼び寄せる天才なのだろうか。だとしたら、かかわるんじゃなかったかな。
「まあ、これも拓海のやつにたいしての恩返しと思えば……」
いや、やっぱり面倒くさいなぁ。
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