凶悪犯罪者がやってくる

 お説教が終わるとベラお姉ちゃんはふっと優しい声に戻った。


『それで今日の本題なんだが、実はその件にも関することで頼みがあるんだ』

「なに?」

『改めてアオイさんと話し合った結果、やはりJOYインプラントを施された人間がいつまでもミドワルトにいるのは好ましくないと言われてしまった。もし迷惑でなければ私もいつかビシャスワルトに移住させてもらいたいと思うのだが、良いだろうか?』

「もちろん!」


 ダメなんて言うはずないし。

 ベラお姉ちゃんが来てくれるなら大歓迎!


「それでそれで? お姉ちゃんはいつ頃こっちに来るの?」

『二十五年くらい後を予定している』

「はい?」


 いま二十五年って言った?

 二十五日じゃなくて?


『JOYインプラントを行った人間は老化が遅くなり、寿命も長くなってしまうらしい。さすがに一〇〇年、二〇〇年とファーゼブル輝士団に居座り続けるわけにはいかないだろう』

「すぐには来れないの?」

『私はファーゼブル王宮輝士だぞ? 爆破装置は解除してもらったとはいえ、しばらくは調停者の役目を務めるつもりだし、自分だけの都合でミドワルトを離れるわけにはいかない。そちらへの移住はこちらで十分な仕事を終えた後になるだろう』

「そっか……」


 言われてみればそうだ。

 お姉ちゃんは小さい頃から輝士に憧れて輝士団に入るために頑張ってた。

 そして夢を立派に実現させて、今じゃファーゼブルで一番すごい輝士の称号も手に入れている。


 お仕事をほっぽリ出してこっちに来て欲しいとはさすがに言えないよね。

 お姉ちゃんは真剣に三つの世界の事を考えている。

 私もちょっとは見習っていかないと。


『もちろん頻繁に連絡は入れるつもりだし、機会があれば直接会うこともあるだろう。お互いに今やるべきことを頑張ろう』

「そうだね。ありがとう」

『それとナコは爆破装置の除去を拒否した。もちろんそちらへの移住もしない』

「え、なんで!?」

『今後も人助けをしながらミドワルト各地を回るそうだ』


 ナコさんは東国の女性で、私の友だちのお姉さん。

 彼女は以前に心を狂わせる病気に罹って大勢の人を殺めてしまった。

 正気に戻った後は自分の行いを深く後悔して、罪を償いながら生きると誓っている。


 あの人に対して私から何かを言うことはできない。

 ただ、できればいつかはナコさんも幸せに暮らせる場所を見つけられたらいいなって思う。


『問題のヴォルモーントだが……』

「問題?」

『あいつの話をする前に、シュタール皇帝の暗殺未遂事件があったことは知っているか?』

「え、知らない」


 シュタール帝国の皇帝さまって言ったらミドワルトでもトップクラスに偉い人。

 そんな人が暗殺されかけたなんてとんでもない大事件だ。

 あ、でも未遂ってことは防がれたのか。


『犯人はクイント王国出身の人間なんだが、かなり凄腕の輝術師でな』

「クイント国ってジュストくんやビッツさんたちの国だよね」


 ファーゼブルから見るとすぐ隣の小国。

 そんなところにそんな危険な人物がいるなんて怖いなあ。


「その人は掴まったの?」

『いや、追っ手を返り討ちにして現在もクイント国内のとある農村に立て籠っている』


 うわあ、最悪。

 それ村の人たちが人質にされてるってことだよね。


『そいつは並の輝攻戦士でも手が出せないほどに強くてな。討伐に向かった星帝十三輝士シュテルンリッターの十三番星も返り討ちに合ってしまった』


 十三番星ってどんな眼鏡さんだっけ。

 どうしよう、私が行って解決してきてあげようか?

 もしかしたらベラお姉ちゃんもそのつもりで連絡してきたのかも。


『そこでヴォルモーントに白羽の矢が立った。あいつは皇帝陛下からの直々の指令でその暗殺未遂犯の討伐を請け負ったんだが……』

「あ、ヴォルさんが向かったなら安心だね。きっとすぐ解決するよね」

『あいつはその人物と意気投合して一緒に村に立てこもった』

「なんで!?」


 え、ヴォルさん犯罪者の味方になっちゃったの!?


『さらに悪いことに……』

「まだ何か!?」

『ヘブンリワルトにジェイドという名のテロリストがいる。紅武凰国の体制に反抗する勢力の人間で、アオイさんたち管理局も手を焼いている特一級の犯罪者だ。そいつがいつの間にかミドワルトに潜伏していたらしく、ヴォルモーント達の立てこもる村に入る姿が目撃された』


 一体どういう状況なの!?

 ここで新しい登場人物とか出されても理解が追い付かないよ!


「わかった、私が行ってまとめてやっつけてくればいいんだよね。ヴォルさんはちゃんと連れ戻してお説教しておけばいいかな」

『いや、わざわざ向かう必要はないと思う』

「どういうこと?」

『皇帝暗殺未遂犯は立てこもった村で小規模なウォスゲートを開く儀式を行った。どうやらビシャスワルトに行こうとしているようだ』

「それ普通に歴史的な大事件だよね!?」


 ヤバいねその犯罪者さん。

 ひとりで魔動乱を起こすみたいなことをするとか。

 きっとすごい巨悪なんだろうなあ。


『というかヴォルモーントはそのウォスゲートを利用してそちらに渡るために協力しているようだ。爆破装置を解除された後も最低でも十年は調停者を続けるという約束をさせられたのが気に入らなかったらしくてな、おかげで管理局は怒り心頭だ』

「ヴォルさんなにやってるの……」

『そうなると我々の手で解決するわけにもいかない。ヘブンリワルトの介入を許せばヴォルモーントとの悶着が起こるだろうし、こうなったらあいつは管理局にとってもアンタッチャブルであるビシャスワルトで引き取ってもらう他になくなった』


 爆弾をとってもらってすぐ約束を破ったらそうだよねえ。

 だからって逆らったら爆破してころすぞって脅すのが正しいとは思えないけど。


『勝手な頼みで申し訳ない。ヴォルモーントの保護と暗殺未遂犯の処置を任せても良いだろうか』

「いいよ。ウォスゲートは開いちゃっても大丈夫なの?」

『非常に小規模なものと予想されるので奴らが渡った後はすぐに自然消滅するだろう。そちら側でゲートが開く予測地点の座標を送るから、ナータに代わってくれ』

「わかった」

『迷惑かけて本当にすまん。よろしく頼む』

「いいってば。頭なんて下げないで」


 約束を守らないのは良くないけど、ヴォルさんは早く私に会いたくて無茶してくれてるんだし。

 何よりベラお姉ちゃんは大事なお姉ちゃんだから私も役に立ちたいしね。


「あ、一緒に来るっていう犯罪者さんたちはどうすればいい?」

『ジェイドは捕らえて紅武凰国に引き渡すか最低でもその場で抹殺して欲しいと要請された。皇帝暗殺未遂犯に関しては……まあ、お前の裁量に任せるよ。こちらで引き取れと言うならそうする』


 りょーかい。

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